- 2025/10/16 掲載
テスラやユニツリーへの勝算は?“大集結”で挑む「純国産ヒューマノイド」計画の全貌(2/3)
なぜ今?「純国産」にこだわる“必要がある”理由
テムザックの髙本 陽一 代表取締役議長は、国産ヒューマノイドロボットが必要とされる背景を語る。「フィジカルAIロボットの発展にはデータ収集が必要ですが、現状では日本製のソフトやAIを試すために海外製のロボットを使用するしかありません。それでは『データを海外企業に吸い上げられるだけ』という結果になります。純国産のロボットで、国内でデータを収集し、それをさらにロボットの発展に役立てる──というサイクルをなるべく早く生み出す必要があります」(髙本氏)
OISTの北野 宏明 教授は、「ロボカップは、今後リーグをヒューマノイドに集約することになりました。現状では今後2~3年でロボカップに参加するには中国のユニツリーをはじめとする3社のロボットからハードを選択し、世界中の研究者がソフトで競う形になっていく可能性が高いです。こうした状況下では、国産ヒューマノイドを1日でも早くロボカップのプラットフォームとして提供して、世界中の研究者に使ってもらうことが急務と考えます。さらに長期的には今回のヒューマノイドを、AGI(汎用型人工知能)を備えたロボットに育てていくことは可能だと信じています」と語る。
また、村田製作所の川島 誠 執行役員は「現時点では日本のヒューマノイドは米中に後れをとっていますが、このようなそうそうたる企業が参画し、挙党一致体制で製作に取り組むことで、必ず追いつき、追い越せると信じています」と自信を見せた。
こうした言葉からも明らかなように、ヒューマノイドの製作にはSDR(Software Defined Robot:ソフトウェア定義ロボット)という考え方が浸透している。同じハードでもソフトウェアによって性能は大きく変わる。さらに世界のトレンドとしては単機能型から多機能型へ、AGIを搭載したソフトウェアによりさまざまな作業に適応できるロボットが中心になりつつある。
日本政府も国産ヒューマノイド生産の重要性を認識しており、経産省はAIロボティクス検討会を定期的に開催している。日本企業は産業用ロボットでは強みを持つが、AIロボットについては世界に後れを取っていることを認識し、国内産業の育成に努めるとしている。
【日本の課題】エヌビディアの戦略と比較で一目瞭然
ただし実現へのハードルも存在する。早稲田大学の高西 淳夫 教授は「予算不足、研究者減少、政府規制による実証実験の難しさ」といったリソース面の課題を指摘。今回のプロトタイプ製作も、基本的には参画企業による予算持ち出し、つまり“手弁当”での実施となる。もちろんプロジェクト全体を統括するSREでは「今後行政側にも連携を持ちかけ、公的予算の確保に努める」としているが、予算が限られれば実証を支えるハードの数にも制限がかかり、満足な結果が得られないことも想定できる。
また、OISTの北野教授は「ロボット製作のためにサプライチェーンの再構築が必要であり、産業界全体の変革が求められます」とも指摘した。
たとえば、エヌビディアはハードからソフトまでを一体的に供給することで競争力を持つが、日本にはこうした統合的基盤を供給できるエコシステムが存在しないことも大きなマイナス要素になっている。
一方で、ハードの観点から見れば、国産ヒューマノイドは十分にハイスペックなものが製造可能だ。村田製作所の通信関連やセンサーは世界的に評価されており、ヒューマノイドへの部品供給の準備体制は整っている。
マブチのモーターは「世界中のあらゆる車に当社製モーターが搭載されている、と言って過言ではない」(同社・中村 剛 取締役常務執行役員)と普及度が高い。現在同社ではモビリティ、マシナリー、メディカルの分野に注力している関係から、ヒューマノイドに搭載可能な小型モーターに強みを持つ。
また、カヤバの伊藤 隆 基盤技術研究所所長は、油圧関係での過去の経験から「災害対応へのレジリエンスを持つ」ことで、特にパワー重視モデルの製作に自信を見せる。
ただし、本当の意味で米中のトップランナーに追いつき、追い越すヒューマノイドを製作するためには、AI、ソフトウェア、半導体が不可欠だ。
幹事企業でもあるSREの佐々木 啓文 氏は「このコンソーシアムは決してクラブ活動ではなく、社会実装のために何が必要かを議論できる場として発展していくものです」と抱負を語る。
国産ヒューマノイド計画が成功するかどうかは、今後KyoHAにより多くの他分野からの参画企業が増え、挙国一致体制で米中と勝負する枠組みが作れるかどうかにかかっている。 【次ページ】テスラ筆頭に群雄割拠、世界のヒューマノイド市場
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