• 2026/04/24 掲載

トラック運転手「賃上げなし」65%の衝撃…賃上げした「運送2社」との決定的な違い(2/2)

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賃上げできない「最大の理由」=運送2社が賃上げできた理由

 物流業界において、賃上げに向けた最大の障壁となっているのが、荷主主導の商慣行と交渉力の格差である。運送業界が直面する本質的な課題は、上昇し続けるあらゆるコストをサービス価格、すなわち「運賃」に転嫁できないという極めて脆弱な事業構造にある。

 国内には約6万社のトラック運送事業者がひしめき合っているが、その99%以上が中小・零細企業である。一方で、運送を委託する「荷主」は、巨大な資本力を持つメーカーや大手小売チェーンであることが多い。この圧倒的な規模の経済と力関係の不均衡により、長年にわたって荷主優位の商慣行が絶対的なものとして定着してきた。

 この上、1990年に施行された物流2法によって参入障壁が下げられたことで、運送会社の数は約1.5倍に拡大。過剰な価格競争が激しくなり、結果として運賃が上がりにくい構造となってしまったことも1つの要因として挙げられている。

 運送事業者は荷主からの理不尽な値下げ要求や付帯業務(荷積み・荷下ろしなど)の無償提供要求に対し、「自社が断れば、他の安い運送会社に仕事を奪われるだけだ」という恐怖心から抗うことができない。過当競争が同業者同士の足の引っ張り合いを生み、適正な価格交渉のテーブルに着くことすら許されない環境が放置されてきたのである。

 さらに事態を悪化させているのが、燃料費・人件費が吸収されるサプライチェーンの構造である。日本の物流業界には、荷主から元請け、一次下請け、二次下請けへと業務が丸投げされていく多重下請け構造が根付いている。荷物を右から左へ流すだけで中間マージン(手数料)が中抜きされるため、実際にトラックを走らせる実運送事業者に支払われる運賃は、もともとの契約額から大きく目減りしてしまう。

 近年を見ても、原油価格の高騰による軽油代の急伸や、トラック車両本体の価格上昇、タイヤや部品代の高騰が実運送事業者の経営を激しく圧迫。通常であれば、これら外部要因によるコスト増は「燃料サーチャージ」などの形で最終価格に上乗せされ、荷主や消費者が広く負担すべきものである。

 しかし、日本のいびつなサプライチェーンの下では、このコスト上昇分が力のない末端の運送事業者へのしわ寄せとして一方的に吸収されてしまう。原価が上昇しても売上(運賃)が増えない以上、企業は自らの身を削って耐え忍ぶしかなく、ドライバーの賃金へ還元する原資など到底生み出せるはずがない。

 逆を言えば、先の運送会社2社が賃上げできているのは、こうした賃上げ交渉に取り組んでいるからである。ロジックスラインの沢田 秀明社長は「燃料サーチャージや、高速代、バラ積み手数料、長時間待機料などを収受あるいは値上げしている」と説明。別の運送会社の社長も「元請け事業者が主導して荷主に交渉している。バラの積み下ろしや極端な待機が発生した時の料金も収受できるようになった」と話す。

 そして、両者が口をそろえるのは「交渉がしやすくなった」ということだ。特に「取適法(中小受託取引適正化法:旧下請法)や物流効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)の改正など、運送会社にとってはフォローの風が吹いている」(沢田氏)という実感が、現場の変化を如実に物語っている。

業界全体で賃金を上げる「3つの条件」

 事態を重く見た政府による行政主導の介入は、かつて「限界がある」と冷ややかに見られることもあった。しかし今、法改正や国の積極的な施策が、間違いなく運送業界に「フォローの風」を吹かせている。

 国土交通省が告示した「標準的な運賃」や、「トラックGメン」による悪質な荷主企業への監視と是正勧告、また先にも挙げた各種法改正などは、長年固定化されていた荷主と運送事業者の力関係に明確な変化をもたらした。これまで泣き寝入りするしかなかった運送事業者だが、堂々と運賃交渉のテーブルに着けるようになった意義は極めて大きい。

 行政の法的な後押しがあるからこそ、適正な運賃や付帯料金の収受が可能となり、それを原資としたドライバーへの賃上げという好循環を生むことができる。政府の取り組みは、長らく機能不全に陥っていた物流市場の価格形成メカニズムを正常化させるための、極めて有効なカンフル剤として機能し始めていると言えよう。

 こうした状況の中でも賃上げできない企業が多いのは、先にも述べた通り、自ら取引相手に交渉を申し出るノウハウや経営体力がなく、旧態依然とした受け身の姿勢から抜け出せないからだ。

 だからこそ、依然として「6割が賃上げ実感なし」という状況にとどまっているのだ。政策という強力な武器を与えられても、企業側が自らそれを行使して適正運賃を勝ち取ろうとしなければ、現場のドライバーの給料はいつまで経っても上がらない。

 真の意味で業界全体に賃金が上がる条件とは、この法改正の追い風に乗じた、産業構造の根本的なトランスフォーメーションである。

 第1に、過当競争の温床となっている多すぎる事業者数の適正化、すなわちM&Aや協業を通じた業界再編を進め、荷主と対等に交渉できるだけの体力を持つ企業体を増やすことが必要だ。

 第2に、デジタル技術を活用した配車システムの最適化など、抜本的な生産性向上への投資である。

 そして第3に、物流を単なるコストではなく、経済を支える最重要インフラとして適正に評価する社会的なコンセンサスの形成だ。消費者が「送料無料」という幻想から脱却し、行政の力強い施策と、運送業界自身の自助努力、社会の意識改革が三位一体となって初めて、末端のドライバーが正当に報われる日が訪れるだろう。

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