- 2026/09/25 06:50 掲載
【単独】事業承継に2度失敗も…大阪の町工場が「ヒット量産で売上2.3倍」にした大改革(2/3)
連載:勝てる工場のつくり方~木村石鹸工業編~
新商品数5倍・売上2.3倍にした「2つの組織改革」
「利益はほとんど出ていませんでした。しかし誰もその数字を追いかけていない。実質的には経営がされていない状態だったんです」(木村氏)
加えて社内では、失敗を恐れ、責任を避けようとする考え方が浸透していた。2度にわたる事業承継を経て、社員が挑戦をためらう組織風土が形成されていたのである。こうした風土を変えるため、木村氏は責任の定義を見直すことにした。
「問題が起きた際の『取る責任』は会社が負う。一方で社員には、自分で決めたことに最後まで向き合う『果たす責任』を求めるようにしました」(木村氏)
社員の挑戦によって会社に損害が生じても、その責任を負うのは会社や経営者である。だからこそ社員には、失敗を恐れず、自ら考え、行動してほしい。木村氏は、こうした考え方を組織全体へ浸透させていった。
その象徴が、稟議書の廃止である。本来は現場で判断できる案件まで、各部門長の承認印を経て木村氏の下へ回ってくる。「全員が同意した」という証拠を残し、自分で責任を取らずに済むためだ。木村氏は「自分で決めていい」と社員に判断を委ね、1人ひとりが主体的に動ける環境へ改めた。
商品開発の進め方も変えた。それまでの営業は、仕様が固まった開発依頼書を提出しなければ開発を依頼できず、開発側も「開発が難しい」「売れない」と判断すれば差し戻していた。その結果、営業は外部に開発を依頼することもあり、原価の上昇が利益を圧迫していた。
そこで木村氏は、開発依頼書を廃止し、営業と開発担当者が直接相談できるように変えた。売れるかどうかよりも、開発担当者が「まずはやってみたい」という思いを大切にするやり方へと転換したのである。
「開発担当者は、もともと開発をしたくなかったわけではありません。失敗を恐れていただけでした。『好きなものをやっていい』と言うと、営業と一緒にお客さまを訪ね、アイデアを提案するようになりました」(木村氏)
改革の効果は数字にも表れた。年間約10件だった新商品の数は1年ほどで50件を超えた。開発着手件数は年間約300件にまで増え、挑戦の総量は大きく増加。併せてOEM事業にも相乗効果を与えて成長し、会社全体の売上高は木村氏が入社した当時から約2.3倍に拡大、17億4,000万円に達した。挑戦する文化は、会社の成長という形で実を結び始めたのである。
【ヒット開発秘話】社内の掃除機をすべて壊したが…
「失敗はしたけれど、別の用途に応用が利いた。こうした話も実は少なくありません」(木村氏)
たとえばこんな話がある。以前、開発担当者が掃除機のホース内部の汚れを泡で洗浄する商品を開発したことだ。試作品は高い洗浄効果を発揮し、ヒットも期待された。だが、ホース内の通電部分が泡でショートし、掃除機を破損してしまったのだ。誰も予想をしていなかった。
開発費をかけ、社内の掃除機もすべて壊れたが、責任を厳しく追及されることはない。結果的に、この技術は後にブーツの消臭グッズとして展開されることになった。
「自分で決めて動き出すこと。自由に開発できること。ここが以前とは大きく変わりました。新商品が次々と生まれると、社内も活気に満ちていくんです」(木村氏)
こうした文化を根源に、ヒット商品も増えていった。その代表例が、同社のヘアケアブランド「12/JU-NI(ジューニ)」である。開発担当者はマーケティングを意識することなく、約5年をかけて自分自身が理想とするシャンプーを追求していた商品だ。
しかし完成した商品は、開発者が納得する使い心地ではあるものの、石鹸も使わず、「ノンシリコーン」「○○不使用」といった一般的なヘアケア商品のような分かりやすい訴求ポイントもなかった。
どう売り出すべきか悩む中で、デザイナーとの対話から生まれたのが、「訴求できることが何もないこと自体が木村石鹸らしい」という発想だった。そこで同社は、開発者が理想を追求した過程や、使う人によって評価が大きく分かれる商品であることを、そのまま正直に伝えることを選んだ。
「マーケティングのことを考えていなかったことがマーケティングになった、という逆説です。マーケットインの発想よりも、開発者自身が欲しいと思う感覚を大切にしています。何の制約も条件もなく、開発者が自由に開発した12/JU-NIが結果的には1番のヒット商品となりました」(木村氏)
開発者の思いや製品そのものの価値を軸にブランドを育てる姿勢は、現在も同社の商品づくりの根幹となっている。
次の100年へ、「原料の栽培・開発」に挑戦
「近年の中東情勢による原料や資材の調達難によって、今の事業は特定の原料や国への依存が大きいことを改めて実感しました。本業を将来にわたって続けるためには、新たな事業も考えていく必要があると感じています」(木村氏)
そこで始めたのが、原料そのものを自らつくるという取り組みである。沖縄に研究拠点を設け、地元農家と連携しながら、地域特有の植物を原料化する研究を進めている。将来的には栽培から手がけ、原料メーカーとして川上領域への展開も視野に入れているという。
「今のビジネスとはまったく違う分野にもつながっていくかもしれません」(木村氏)
事業環境が変化しても、新たな挑戦を続けることで価値を生み出していく。そうした挑戦の積み重ねこそが、創業100年を超えた木村石鹸工業の次の歩みを支える原動力となっているのだろう。
後編では、ITベンチャー出身の木村氏が進めてきたDXやAI活用に焦点を当て、その取り組みを詳しく紹介する。
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