- 2026/09/09 06:50 掲載
【単独】廃業予定から「売上10倍」…名古屋の100年和菓子店を救った「バズへの備え」(2/3)
4代目夫妻が決意した「再建への道」
廃業もM&Aも行き詰まる中、流れを変えたのはSNSだった。コロナ禍で在庫を抱えた古田氏が、当時利用者が増えていたFacebookのコロナ支援グループに商品を出したところ、思わぬ反響が集まったのである。このコロナ支援グループは、後に「WakeAi」という名称の通販サイトとして知られるようになったが、当時はあくまでも1つのFacebookグループだった。古田氏自身は、不動産業と時間貸しレンタルスペース事業を展開していたが、その事業の一環でSNSでの情報発信にも慣れていた。
EC売上は当初から倍増。絶対値こそ小さいが、「ストーリーが人の心を動かし、購買につながる」という確信を得た体験だ。古田氏はこれをプレスリリースの原稿として書き起こし、次のステップへと進んでいく。
そしてこの手応えが、「事業を継ぐ」という決断へとつながっていく。
承継に向けて、まず動いたのは妻である現社長だ。登記上の承継前から店頭に立ち、販売を手伝うようになる。並行して古田氏は商工会議所の無料相談を活用し、中小企業診断士の助言を受けながら、妻とともに歴史や名古屋という土地の強みを洗い出していった。こうして「再建もあり得る」という空気が醸成されていく。
しかし、パート従業員に辞めてもらったのだが、その結果、店は逆に回らなくなってしまう。そこで下したのが社員採用という判断だ。もともと手がけていた不動産業と兼任できる人材を募集し、2021年4月に2人の正社員を採用する。
「私がもともと手掛けていた不動産事業と兼任という形で募集をかけて採用したのですが、雇ってみたら午前中はあんこを炊いている、という状態でしたね」(古田氏)
廃業寸前の和菓子店としては思い切った決断だが、不動産業と兼任できるからこそ踏み切れたのだろう。その社員は5年近く黙々と働き続けたという。廃業を目前にしていた店は、こうして再建へと動き出す。
その後、再建を大きく加速させたのがSNSやメディアでの話題化だった。2021年にYahoo!ニュースへ掲載されると、ECサイトへの注文が一気に殺到。しかし、古田氏はそれ以前から、XやInstagramからLINE公式アカウント、ECサイトへと顧客を誘導する動線を設計し、全国へ発送しやすい送料無料のお試しセットも用意するなど、「バズ」が起きたときに売上へ変える受け皿を整えていた。話題になってから慌てて仕組みを作ったのではなく、先回りして準備していたのである。
こうした「バズへの備え」が功を奏し、売上は3年で10倍に拡大。社員もゼロから7人、パートを含めれば15人規模へと成長した。さらに、藤井聡太棋聖がおやつに鯱もなかを選んだほか、人気ゲーム「アイドルマスター」とのコラボでは店前に100人規模の行列ができるなど、新たなファンも獲得。110年以上の歴史と「名古屋らしさ」という老舗の資産に、SNSでの継続的な発信と購入につなげる仕組みを掛け合わせたことで、認知が次の話題やコラボを呼ぶ好循環も生まれた。
廃業寸前だった店を救ったのは、一度の偶然のバズではなく、バズを商機に変えるための地道で緻密な準備だったのである。
ヤフトピ掲載の衝撃、バズを生かした「ある施策」
これを機にECサイトへの注文が爆発的に増える。妻は注文が入るたびにスマホの通知音が鳴るよう設定していたが、それまで1日数件だった音が、この日を境に鳴り止まなくなった。
「注文が入ると『チャリン』と音が鳴るようにしていたのですが、それがずっと『チャリン、チャリン、チャリン』と鳴り続けている状態でした」(古田氏)
ここで威力を発揮したのが、送料無料のお試しセットである。テレビなどで紹介されれば全国から問い合わせが来るが、電話回線は1本しかなく受けきれない。
そこで、郵便受けに届くクリックポスト(自宅で簡単に運賃支払手続きとあて名ラベル作成ができ、全国一律運賃で荷物を送れる日本郵便のサービス)で送れる「7種セット」を、ECサイトに来訪した人が最初に目にする、商品一覧の最上部に置いた。
しかしそれでも、製造能力はパンクした。古田氏は「完売が続いた状態でした。本当に皆で頑張って乗り切りました。起きていられる限り、夜中まで手を動かすしかなかった、という感じでしたね」
古田氏自身は配達担当として奔走した。郵便ポストごとの集荷時間を調べ上げ、深夜1時までポストを回っては投函を繰り返したという。
「ここのポストは深夜1時に回収があるから、じゃあ深夜12時までにこのポストに入れに行こうみたいな感じでした」
意地でも期限内に届ける。この姿勢が、リピーターの獲得にもつながっていったことは想像に難くない。
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