- 2026/10/08 06:50 掲載
日立・ヤマトも大注目…日本人のシリコンバレー連続起業家が挑む「物流AI革命」の正体(2/3)
連載:デジタル産業構造論
ヤマトやシャープらも参加した「次なる挑戦」
Datumixにおいて倉庫内の局所最適化で顕著な成果を上げた中で、鈴木氏の中では「全体最適」への強い問題意識が芽生えた。どれほど倉庫内のオペレーションを高度に最適化しても、倉庫に荷物が届く前の輸送プロセス(エッジ)で遅延やトラブルが発生すれば、倉庫内の計画は容易に崩壊してしまう。調達から生産、配送、倉庫、そして顧客対応までが密接に絡み合うサプライチェーンにおいて、真の解決には点ではなく、サプライチェーン全体(エンド・ツー・エンド)を見わたした最適化が必要となる。
この強い問題意識の下、鈴木氏は局所最適から全体最適へと事業をシフトさせるため、新たにLeeapLabsを設立。最初の2年間は自己資金によるブートストラップ(注)での運営を選択し、あえて受託開発を一切行わず、市場のニーズを徹底的にヒアリングしながらプロダクトをゼロから開発することに注力したのだった。
創業3年目(2025年)には、Datumix時代の優秀な技術メンバーや、特許を共同取得したコアメンバーが完全にLeeapLabsへ移行・合流し、技術基盤をさらに強化。これにより、ヤマト運輸、NX総合研究所、シャープといった日本の物流・製造大手との間で、サプライチェーン全体の最適化に向けたPoCを次々と成立させ、実質的なビジネス価値を示す段階へと移行した。
また、シリコンバレーに拠点を置く世界最大級のVC(ベンチャーキャピタル)およびアクセラレーター(注)であるプラグ・アンド・プレイ(Plug and Play)のサプライチェーン・アドバンスド・マニュファクチャリング部門の通年プログラムに選出されるなど、グローバル市場における技術的信頼性(クレディビリティ)も獲得している。
LeeapLabsが狙う「ターゲット層」
現在、グローバルSCMの市場には、ブルーヨンダー(Blue Yonder)、キナクシス(Kinaxis)、オーナイン(O9)といった大手のメガベンダーが存在する。しかし、これらの巨大システムを巨額の予算と数年がかりのプロジェクトで導入し、完全に活用しきれるのは、世界でも上位0.01パーセントにも満たない数千億円規模の超大企業がほとんどだろう。LeeapLabsがターゲットとするのは、その1段下を走るミドルゾーンの企業群である。これらの企業は、依然としてExcelやスプレッドシートを用いた手作業で日々の複雑な計画業務を行っており、それによる機会損失や在庫ロス、過剰な輸送コストといった多大な無駄を抱えている。
実際、物流会社だけではなく、自動車部品・電子機器メーカーや食品商社など、需要変動がそのまま在庫リスクや現場の作業量、時には賞味期限切れによる廃棄損に直結する業種のミドルゾーンの事業会社とも複数、協議が進んでいる。単なる需要予測にとどまらず、需要が在庫・補充・倉庫作業へどう転換されるかまで一気通貫でモデル化するアプローチは、既存メガベンダーにはない訴求力を持ち始めている。
現代の不確実性に対応するためには、単に最も安いルートで運び、最も安い場所で生産するというコスト優先の一元的な財務最適化だけでは不十分である。自然災害や政治的リスク、原油価格の高騰といった事態に備え、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)を担保し、同時に環境負荷の低減(ESG・SDGs)といった社会的要求を満たさなければならない。
LeeapLabsのソリューションは、これらトレードオフの関係にある複雑な変数を考慮し、どこまでリスクを許容してバランシングすべきかという、ミドル層の企業に最適化された戦略的シミュレーションを可能にしている。
人件費10分の1以下も…柱となった「AIワークフロー」
サプライチェーン最適化と並ぶLeeapLabsの大きな柱が、AIワークフロー(AIエージェント)である。2025年頃から本格的な社会実装が始まったAIエージェントは、人間が手作業で行っていた日々の定型的・トランザクション性の高い業務を代替し、企業のオペレーションコストを劇的に変革する。従来の生成AIやチャットボットは、人間が指示したことに対してテキストでの回答やドラフトを作成する、いわば頭脳(思考)の役割にとどまっていた。しかし、現在のAIエージェントは、その頭脳に手足が生えた状態であり、自律的に社内外のシステムを操作し、アクション(実行)を起こせる点が決定的な違いである。
これにより、コストと時間の概念が根本から覆る。自動化できる範囲は業務の性質に依存するものの、保守的な見積もりであっても、AIエージェントの活用は人間を雇用する場合に比べてコストを3分の1から4分の1以下に圧縮できる。さらに業務によっては10分の1以下のコストに下がるケースもあり、人件費という固定費を、処理量に応じた柔軟な変動費へと変換することが可能になる。
時間的なスケーラビリティも圧倒的だ。人間は1つの作業を直列(シーケンシャル)にしか処理できず、たとえば顧客からの問い合わせ対応や請求書の処理を数件こなすだけで数時間を要してしまう。
一方、AIエージェントはバーチャル空間上で同時並列に処理を実行できるため、1件あたりの作業時間はわずか5秒から30秒程度に短縮される。米国の著名なアクセラレーターであるYコンビネーターが提唱する「AIネイティブ・スタートアップ」の概念が示すように、1000人のエンジニアを抱えるよりも、AIエージェントベースのシステムを構築する方が、制限なく無限に業務スケールを拡大できるという圧倒的な破壊力を秘めているのだ。
【次ページ】AIワークフローでどうなる?「問い合わせ」の場合…
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