- 2026/09/16 06:50 掲載
【独占】なぜ福岡の運送会社は「100年続いた漬物屋」を買収? 成長戦略が異色すぎた
連載:「日本の物流現場から」
Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。
めざせ100億、「楽市楽座・最強最優」に込めた狙い
1954年に設立した柳川合同は、年間売上高約50億円、従業員400人強(グループ計)の中小運送会社である。本社のある福岡県柳川市のほかにも、佐賀県、鹿児島県、福岡県、埼玉県、神奈川県などに複数の営業所を構え、複数のグループ企業も抱えている。地元や運送業界内では、社長をイラスト化した「テッコン君」を描いたトラックで知られている(冒頭の写真)。
そんな柳川合同の本社には、あるイラストが掲げられている。右側には江戸時代風の商店が、左側には倉庫があり、上方には学校か病院と思しき建物があり、この街を同社のトラックが走っている。
これは、荒巻社長が目指す楽市楽座構想を描いたものだ。楽市楽座とは、織田 信長といった各地の戦国大名が行った市場開放政策を指す。既得権益を否定し、市場を開放することで経済活動の活性化を推し進めたのだ。
同社の楽市楽座構想は、運送ビジネスを軸に、地域の経済振興に寄与することを目指している。
同時に同社は、中小企業基盤整備機構のプロジェクトである「100億宣言」を行っている。
「2035年に売上高100億円を達成。地域社会のインフラを担う物流企業として、運送・倉庫・整備・冷凍物流など複数事業の拡大とM&Aによる外部成長を通じて、持続可能な成長を図る」(100億企業成長ポータル掲載の資料より抜粋)
これを実現するために、「物流事業の高収益化」と「物流に付随する業種への多角化」を掲げている。だが、これだけのことを目指そうとするのであれば、優秀な人材の育成と確保が必須になる。ここで効いてくるのが、同社が掲げる「最強最優の会社」である。
「人として優れた人たちが、会社を社員の人格的成長の場として捉え、自発的に働き、最高に働ける会社を継続し、かつ、そのことを後世に習え伝え続ける会社」
これが「最強最優の会社」の定義である。
1億円超の損失に「労働争議」も…経営方針を変えた瞬間
荒巻社長と話していると、彼がとことん「人」に軸足を置いていることに気づく。そのきっかけとなったであろうエピソードを紹介しよう。2002年、35歳の時に父の跡を継いで社長就任した荒巻社長であったが、ときはバブル崩壊後である。同社も赤字続きで苦しい経営を強いられていた。ようやく経営が上向きになり始めたころ、後ほど紹介するオニマル社民事再生法申請があった。
「ウチもその煽りを受けて1億円以上の損失を出しました。苦しかったですよ…」と荒巻社長は振り返る。
弱り目に祟り目と言うべきか、労働争議が発生した。「社長は一緒にハンドルを握っていたにも関わらず、俺たちドライバーの気持ちがまったく分かっていないじゃないか!」、詰め寄られた荒巻社長は、「当たり前じゃないか、私は経営者だ」と思わず反論してしまったそうだ。
だがこういった経験を得たことで、荒巻社長は、会社と従業員のより良い関係性を考えるようになったのだ。ただし、荒巻社長は従業員をただ甘やかそうとしているわけではない。「最強最優の会社」からは、従業員にも高いレベルを求めていることが分かる。
もう1つ、荒巻社長は、従業員に対して「一緒に夢を追いかける同志であること」を期待しているように筆者は感じる。柳川合同を軸に、地域振興を目指すこと。異業種を取り込み、規模(トラック台数)に頼らない事業の主軸を築こうとすること。
もちろん、「100億宣言」も、社員の平均年収を業界ナンバーワンに引き上げることも同様である。
従業員が経営者にすがるだけでもなく、経営者が一方的に従業員を利用するのでもない。経営者と従業員が志を同じくして、理想を手に入れようとする、理想的な関係性が窺える。
その考え方は、柳川合同が進める事業の多角化にも表れている。荒巻氏が目指すのは、単純にトラックを増やして売上を伸ばすことではない。輸送の前後にある設置や保守などの仕事を取り込み、従業員が年齢や経験に応じて長く活躍できる選択肢を増やすことだ。
そのため、トラック架装メーカーやボイラー工事業者など、運送業とは異なる企業のM&Aにも踏み込んでいる。
象徴的なのが、最初の異業種M&Aを行った100年以上の歴史を持つ漬物メーカー、オニマルの買収だ。かつて荷主だった同社をグループに迎え、経営改革によって黒字化。異業種で働いた経験を持つ柳川合同の社員が、新たな事業に手を挙げる動きも生まれているという。
もちろん、従業員を大切にするだけでは事業は続かない。荒巻氏は「利益は目的ではなく必須の手段」と語り、収益確保には厳しい姿勢を示す。その先に掲げるのが、売上高100億円と社員の平均年収「業界ナンバーワン」だ。
人への投資と利益を両立させながら、物流を起点に地域の仕事そのものを広げていく。それが柳川合同の描く、地方企業ならではの成長戦略なのである。 【次ページ】倉庫作業員から「食堂のおばちゃん」に
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