- 2025/06/18 掲載
“決済手続き”をAIに任せて大丈夫? みずほ銀行の指針から読み解く「信頼できるAI」の条件
前編はこちら(※この記事は後編です)
「支払ゼロクリック」、AIエージェントにより銀行業務が変化
「支払い」という行為が複雑で面倒、という印象を持つユーザーは多いはずです。法人顧客は請求書を受け取り、金額を確認し、期日を管理し、社内の承認を得てから銀行の振込画面を開き、情報を入力して送金を実行します。個人顧客であっても、クレジットカード番号の入力、認証コードの受け取り、決済後の明細確認と、地味に多くのステップを踏まなければなりません。しかしAIエージェント決済の登場は、この一連のプロセスを“ゼロクリック”に近づけていく可能性を持っています。
たとえばある企業の財務部門で、AIエージェントが会計ソフトと連携して未処理の請求書を毎朝スキャンし、優先度や支払期限に基づいて支払いリストを生成。「今月の早期割引対象は4件、合計88万円。即時決済すれば5万円の割引になります」というアクションを提案し、そのまま承認を得たものから決済を完了させていきます。振込作業が入力業務から意思決定へと変わるというわけです。
さらにAIは、担当者の不在時でも自動的に支払いの遅延によるペナルティ回避を優先し、定型的な支払いは事前に設定されたルールで実行に移します。これは、誰かがやっておいてくれる安心感、という新たなUXです。
個人にとっても変化は大きいでしょう。たとえば旅行アプリで「来週の大阪出張、ホテルと新幹線を予約しておいて」と話しかけるだけで、AIが選定・予約・決済までを代行。メールアドレスの入力も、クレカ番号の確認も不要。「何もしないのに、すでに済んでいる」そんなエージェンティックな購買体験は、間違いなく消費者の期待値を変えていきます。
こうした変化は、決して顧客側の話にとどまりません。金融機関の業務構造そのものにもも大きな影響を及ぼします。
たとえば、これまで法人顧客に提供してきたWeb振込システムやFB送信サービスは、AIエージェントにとっては冗長なインターフェースになりかねません。
顧客のAIが直接決済リクエストを送ってくるようになると、「APIでつながりやすい銀行かどうか」「AIに十分な情報を与えてくれるかどうか」などが取引銀行選定の新たな軸になる可能性があります。
また、コールセンターや店舗業務の一部は、AIによる自動処理にシフトしていくでしょう。口座振替の依頼、送金履歴の確認、入金予定の照会など、定型的な質問はAIが先回りして応答・処理できるようになります。
こうした業務がAIエージェントに移行すれば、金融機関の人員配置や育成戦略にも影響を及ぼします。
さらに重要なのは、銀行に求められる信頼のあり方が変わることです。これまで銀行は、ある意味では「人が責任を持って承認している」ことで確実さと信頼を築いてきました。
しかしAIが実行者になると、代わりに求められるのは、設計段階からガバナンスと透明性が内包された仕組みです。
- AIの判断がなぜそうなったのか?
- 誤って不正送金した場合、どこで制御できたのか?
- 誰が最終的に承認をスキップしたのか?
これらをすべて後から追えるようにするための監査ログ、説明可能な意思決定フロー、段階的な承認設計は、AIエージェント時代の銀行に不可欠なインフラとなります。
【次ページ】“責任なきAI”は許されるか? AIエージェント決済の課題とは
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