• 2025/06/18 掲載

“決済手続き”をAIに任せて大丈夫? みずほ銀行の指針から読み解く「信頼できるAI」の条件(2/3)

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“責任なきAI”は許されるか? 制度・倫理・設計の壁

 上記のように、AIエージェント決済は、これまで人間が担ってきた「実行」の役割をソフトウェアに委ねるという意味で、まさに決済の本質を再定義するものです。

 しかし、技術的な可能性が広がる一方で、銀行がこの領域に踏み出すにはいくつもの現実的なハードルが立ちはだかっています。その多くは、テクノロジー単体で解決できるものではなく、制度や倫理、社会的な信頼といった深層に関わる課題です。

 まず、技術面での課題は決して小さくありません。AIは、たとえば請求書を読み取るOCRやLLMによってかなり高い精度を実現しつつありますが、100%の確実性は担保できていません。誤った金額や取引先を認識してしまった場合、それが自動で実行に移されてしまうと、取り返しのつかない損害が発生する可能性もあります。

 さらに、AIの判断ミスは、事後的に原因を特定することが難しいケースもあり、従来のシステムと比べてトラブル時の責任の所在が不明確になりやすいという構造的な課題を抱えています。

 このため、AIによる自律実行には、人間の介在を設計段階から組み込む必要があります。たとえば、少額で定型的な支払いであればAIに任せる一方、高額な取引や新規の取引先への送金では、AIのプロセスに人間が介在する「Human-in-the-loop(HITL)」の設計が不可欠です。

 あくまでも現時点では、完全な自動化よりも、人とAIの役割をうまく分担させるハイブリッド型の運用こそが現実的な落としどころではないでしょうか。

 次に立ちはだかるのが制度上の限界です。現行の法制度は、基本的に人間が意思決定を行い、その責任を負うことを前提に構築されています。銀行の支払い処理においても、たとえAPI経由で自動化されていたとしても、最終的には誰かが承認し、誰かが責任を持つという枠組みの中で動いてきました。

 ところがAIエージェントが実行の主体となる場合、「その指示は誰の意思に基づくものだったのか」「失敗したとき、責任は誰が負うべきなのか」といった問題が発生します。現時点では、こうしたAIによる自律的な決済を明確に定義し、ガイドラインを設けている法制度は国内外を問わず存在していません。

 実際、ビザやマスターカードといった既存プレイヤーでさえ、トークン化やセキュリティ管理の強化を通じて、AIエージェントに「直接お金を触らせない設計」を維持しています。

 Payman.aiのようなスタートアップも、AIが送金の意思を持っているように見えつつ、実際には人間が設定したルールに基づいて代行的にAPIを叩いているという立て付けになっています。

 これは、制度がまだグレーであるがゆえに、意図的にAIに、完全な自律性を与えていないとも言えるでしょう。銀行がこの領域に入っていく際には、まずこうした制度的グレーゾーンをどのように取り扱うのか、内部での解釈とガイドライン整備が欠かせません。

 さらに見落とされがちなのが、倫理と心理的なハードルです。AIが人間の代わりにお金を動かすということに、直感的な不安を抱く顧客は少なくありません。

 たとえAIがルール通りに動いたとしても、「本当にあの支払いは必要だったのか?」「なぜあのタイミングだったのか?」といった疑問に明確な説明ができない場合、それは技術的な正しさではなく、信頼の揺らぎとしてリスクが顕在化します。

 このようなリスクを乗り越えるためには、AIに判断の透明性と説明責任を持たせる仕組みが必要です。具体的には、AIがなぜその支払い判断に至ったのかを、後から人間が理解・検証できるように設計された「Explainable AI(説明可能なAI)」の導入が鍵となります。

 また、すべての支払いリクエストと実行ログを改ざん不可能な形式で保存し、問題発生時にはいつ・誰の判断で・なぜその処理が行われたのかをトレースできるようにしておくことも重要です。

 金融機関がAI決済を提供する際には、こうした透明性の設計が、技術的選定の問題ではなく信頼のおけるインフラ設計であるという意識を強く持つべきでしょう。 【次ページ】AIが使う「金融OS」としての銀行──2030年の姿
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