- 会員限定
- 2024/03/27 掲載
ハイブリッド復権で光る「トヨタの慧眼」、それでも楽観視できない「新たな火種」とは
ここにきてEVが「減速」のワケ
自動車産業調査会社大手であるマークラインズから、2023年の世界主要14カ国のHVの販売台数が、前年比でEVの伸びを上回ったという注目すべきデータが公表されました。データによると、日本、米国、中国、欧州にインドやブラジル、韓国を加えた14カ国における2023年のHV年間販売台数は421万台で、前年比29.6%増を記録。市場で占めるシェアは6.9%となり、2022年の5.8%から1.1ポイント上昇しました。
一方EVに関しては、年間販売台数は1196.2万台で前年比28.3%増。引き続き伸びが見られるものの、前年比62.7%増という2022年の伸び率からは大きく鈍化しています。
一時期はEV化一辺倒で動いていた世界の自動車業界で、ここにきてHV復権の兆しが表れてきているのです。
EVについては、これまでの勢いに水を差すような動きが、実際に自動車メーカー各社で出始めています。
業界トップをひた走るテスラは、今年1月に2024年の販売台数が著しく鈍化するとの見通しを示しているほか、ゼネラルモーターズは生産目標の引き下げを、フォードモーターはEVに関する投資戦略の見直しを発表。メルセデス・ベンツは先月、2030年までにすべての新車販売をEVにするとの計画を撤回しました。
さらに米国では、今年11月に大統領選が行われることもあり、そこで「EV嫌い」として知られる共和党のトランプ氏が再選すれば、EV支援策が一気に縮小する可能性もあるのです。
このようなEVを巡る自動車業界を揺るがすような動きに加えて、新規参入組にも変化が出ています。米アップル社がEV開発プロジェクトを解散し計画を中止するという報道がそれです。自動車業界が固唾をのんで注視していたアップルの計画中止は、次世代自動車の主役が、EVではなくなりつつあることを如実に表していると言えるでしょう。
日本の自動車メーカーに「チャンス到来」?
そんなEVの苦戦に対して、期せずしてチャンスが回ってきたと言えるのが、EV化への着手で出遅れた日本の自動車メーカーです。中でもトヨタについては、あえてEV一辺倒の戦略を取らなかったその先見の明に感心させられることしきりです。
ライバルの日産自動車は、2030年代早期より欧州市場に投入する新型車をすべて電動車両とすることを目指すとしているほか、ホンダも2040年に世界での新車販売すべてをEVとFCV(燃料電池車)にする目標を掲げる中で、トヨタは唯一、HV、EV、PHV(プラグインハイブリッド車)、水素電池車および水素エンジン車の全方位戦略を掲げ、あくまでEV一辺倒シフトはしない方針を貫いてきたのです。
もちろんトヨタも、2026年までにEVで10モデルを投入して年150万台を販売する目標を掲げてEV化対応への積極姿勢も示してはきました。
しかし、HV撤退は一切考えず、むしろ新興国向けは安価で一定のCO2削減が期待できるHVは、新興国市場で重要な役割を果たすとして、「HVのトヨタ」の旗は高く掲げたまま我が道を突き進んできたわけなのです。
ちなみにトヨタが今年1月に公表している2023年のHV販売台数は、前年比31.4%増の342万台を計上し、好調そのものです。
日本の自動車は安価で高品質ということから世界中でもてはやされ、特に2000年代以降、米国では新車販売において約40%のシェアを占めるとされるほど、米国産業界で無視できない存在感を示してきました。特に日本勢トップのトヨタに関しては、ゼネラルモーターズを追い抜き2021年に新車販売台数で首位を記録。その後もフォードも含めた熾烈なトップ争いを毎年演じています。
しかし、EVに関しては、他の自動車メーカーのようにEV一辺倒にならないトヨタの姿勢は、米国でたびたび懐疑的な目を向けられ、「トヨタ叩き」とでも言うような批判を受けてもいました。 【次ページ】トヨタが抱える「新たな火種」
関連コンテンツ
PR
PR
PR