• 2025/09/17 掲載

なぜ米政府が「インテル筆頭株主」に? 国有化もあり得る「崖っぷちの裏事情」とは(2/2)

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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崖っぷちインテルの突破口とは

 ところがインテルは、「歩留まりを改善する道筋」や、解決の突破口である「ブレークスルー」にたどり着けていない。

 まず、肝心の歩留まり改善は見通しが悪い。ロイター通信は8月に内部情報提供者の話として、「インテルは2nm次世代半導体18Aの量産で、歩留まりを2024年末の5%から25年7月の10%に上げるのがやっとの状況」と報じた(図3)。

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図3:2025年4月現在のインテルによるファウンドリ開発ロードマップ。2024年中にメドがつくはずであった18Aは2025年8月になっても歩留まり10%と、実用的には「使いものにならない」レベルにとどまっている
(出典:Intel

 同社では歩留まり改善の専門家、極端紫外線(EUV)露光装置の制御に熟練した技術者、ソフトウェアエンジニアなど先端2nmプロセスに必要な労働力が、圧倒的に不足している。こうした状況は、インテルの顧客企業にとり、将来の製品供給に不安が生じるだけでなく、購入コストが高くなる可能性がある懸念事項だ。

 翻って、競合の台湾TSMCは、先端2nmプロセスで採算レベルに近い60%超の歩留まりを達成しているとされる。また韓国サムスンは2nm製品の歩留まりが40%まで改善したと発表している。

 インテルは、設備投資額を前期に200億ドル(約2.9兆円)から180億ドル(約2.6兆円)に引き下げたが、当期はさらなるコストカットを目指して168億ドル(約2.5兆円)まで圧縮した。この先、TSMCなどライバルとの競争において、顧客確保のため投資額の引き上げは必須であろう。

 いずれにせよ、インテルがこの先1年で何らかの技術的打開の糸口をつかめなければ、顧客企業の新規開拓も思うに任せず、米政府による1.3兆円の投資もムダになってしまう可能性がある。同社は、それほどに追い詰められている。

TSMCやサムスンに“本当に”勝てる?

 では、インテルに勝ち目はあるのだろうか。

 競合との比較で予想しよう。まず、インテルのファウンドリ事業の継続を困難にしている要因として挙げられるのは、以下である。

  1. (1)最先端領域に継続して巨額投資する資金の不足
  2. (2)インテルの技術力と価格競争力を信じて顧客になってくれる大口顧客の確保
  3. (3)次世代半導体製造における技術面の行き詰まり
  4. (4)最先端製品の製造に欠かせない熟練技術者の不足

 インテルは、非中核事業であるプログラマブルチップ部門子会社のアルテラ株の51%を、プライベートエクイティー(PE)投資会社のシルバーレイク・マネジメントに87億5,000万ドル(約1.25兆円)で売却することで、ファウンドリ事業の「軍資金」を強化した。資金面や顧客面については、米政府やソフトバンクの支援、そして子会社株の売却により、不安を抱えながらも何とかメドがつきつつある。問題はズバリ、歩留まりの改善と技術者および労働者の確保であろう。

 図4を見てもわかるように、アップルという強大な顧客を確保したTSMCは、歩留まりと顧客確保において、ぶっちぎりでライバルを引き離している。

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図4:2nm製品における立ち位置をインテル・TSMC・サムスン・ラピダスで比較
IndieKings.comtechpowerup.comReinforz InsightNHKなどを基に筆者作成)

 製品の性能を左右するロジック密度でライバルよりも優れ、しかも優秀な技術者をしっかり確保している。そのため、2nmプロセスで競合を大きく引き離し、次々世代の半導体で「独り勝ち」する勢いである。

 そのTSMCを追うサムスンは、2nm製品でテスラという頼もしい顧客を確保したものの、歩留まりは40%にとどまり、TSMCにさらに差をつけられているのが現状だ。

 一方、我が国のラピダスは「顧客ニーズに合わせた開発スピードの大幅短縮」をウリに、2nm試作品の製造に成功し、量産に向けて準備を急ピッチで進めている。しかし、肝心の顧客確保や歩留まりの見通しなどは明らかではなく、まだインテルと肩を並べられる存在になるかは不明だ。

 こうした「TSMCの1強、2位のサムスンさえ成功は保証されず、後ろからはラピダスに追い上げられる」という困難な状況にあるインテルは、トランプ政権の期待に応えてファウンドリ事業を立て直すことができるのだろうか。

明暗がはっきりするのは「○○年」

 インテルの2nm製品である18Aは消費電力の効率性で優れるものの、ロジック密度で劣り、しかも現時点の推定歩留まりが10%と絶望的に低い。まさに崖っぷちのインテルは、競合から取り残される可能性さえある。

 その一方で、トランプ政権やソフトバンクの後押しもあり、軍需大手だけでなく、マイクロソフトやアームなどテック大手の顧客を確保できているのが大きな強みだ。さらに、噂される顧客候補として、エヌビディア、グーグル、アップル、アマゾン、メタ、クアルコム、ブロードコム、AMD、OpenAI、アンソロピックなどそうそうたる顔ぶれが並んでいる。

 退路を断たれたインテルはさらなる大口顧客を勝ち取るべく、死に物狂いの本気でブレークスルーを起こさなければならない。

 そのため、9月には製品責任者であるミシェル・ホルトハウス元暫定共同CEOの退任など一連の幹部人事を発表した。成果を挙げられなかったリーダーを事実上更迭し、さらに重要部門をCEO直轄とすることで、ファウンドリ事業を立て直す。これは、同社の「本気度」の表れと見ることができる。

 トランプ政権に背中を押されるインテルの改革は、まだ始まったばかりだ。現時点では、技術陣が突破口を開けるかに、同社の命運がかかっているように見える。

 デイビット・ジンズナーCFOは、「インテルにとり、2026年は明暗がはっきりする年になる」と述べたが、この先の半年で成果が挙げられるか否かで、世界の半導体産業の未来図が決まると言っても過言ではないだろう。

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