- 2025/09/17 掲載
なぜ米政府が「インテル筆頭株主」に? 国有化もあり得る「崖っぷちの裏事情」とは
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。
米政府が「インテルの筆頭株主」に
トランプ政権は8月、インテルと投資合意を締結した。米国内の半導体製造能力を強化して経済安全保障を確保するため、バイデン前政権下で制定されたCHIPSプラス法(CHIPS and Science Act)に基づき、株式との交換なしでインテルに交付されるはずだった連邦政府補助金の性格を変更するものだ。米政府が同社株式の9.9%に相当する4億3330万株を保有し、筆頭株主に躍り出た。米政府の出資の原資は、未支給分の補助金57億ドルに加えて、国防総省と商務省が共同で推進する「機密データ保護機能付きの半導体製造支援プログラム」で支給が予定されていた補助金32億ドルだ。
政府保有株式は「パッシブ投資」で、原則として取締役会への参加や経営への関与は行わない。だが政府が生産手段を一部支配することで、実質的には経営戦略に介入できるようになり、米産業政策における大転換点となる。
なお、日本のソフトバンクグループが同時に20億ドル(約2,940億円)相当のインテル株式を取得し、同社の6番目に大きい株主となることも発表されている。
トランプ政権が死守したい、インテルの「あの事業」
インテルの4~6月期の決算では、売上高が前年同期比で横ばいの12.9億ドル(約1,897億円)であったが(図1)、純損益が29.2億ドル(約4,295億円)にまで膨らんだ。
これは、他社から半導体を受託生産するファウンドリ事業が不振で、全体の足を引っ張ったためである(図2)。実はこのファウンドリ事業の継続を強制することこそ、トランプ政権の最大の目的だ。

事実、リップブー・タンCEOは5月に、ファウンドリ部門の不調を理由に、事業の売却を示唆していた。
しかし、インテルが8月に米政府と結んだ契約では、インテルによる受託生産事業の株式保有が全体の51%を切った場合に、米政府が発行済みのインテル株の5%を1株当たり20ドルで取得できると定めている。
中国との地政学的緊張が高まる中でトランプ政権は、最先端兵器製造やAI競争に必須の半導体を作る米企業を、不採算を理由にファウンドリ事業から撤退させるわけにはいかないのである。
そのため、「ファウンドリ事業から手を引けば、インテルを事実上国営化する」ことを意味する条項を、投資契約に挿入したわけだ。
「ムチ」だけでない…トランプ氏が与える「3つのアメ」
トランプ政権は、構造的にインテルの退路を断つ「ムチ」に加えて、「アメ」も使い分けている。まず第1の「アメ」として、連邦政府の補助金とソフトバンクからの投資で合計1.6兆円の潤沢な資金をインテルが使えるようにした。
そして第2の「アメ」として、ボーイングやロッキード・マーチンなどの軍需企業を通して、米軍がインテルの大口顧客となる。
一方、米政府と連携するソフトバンクグループが、新たな顧客をインテルに連れてくる可能性もある。ソフトバンクは、AI半導体市場で大手エヌビディアと競合する計画があり、インテルが米国内で製造する半導体はその戦略の重要な一部となるからだ。
こうした中、トランプ政権は輸入半導体に100%以上の高関税を課す計画を打ち出し、米国産で関税がかからないインテル2nm製品の顧客を増やそうとしている。これが第3の「アメ」である。

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