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  • 2023/04/19 掲載

半導体「世界大戦」にどこが勝つ? 次の大国は「インドで決まり」の納得理由

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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デジタル社会や産業全体を支える重要基盤「半導体」。今や、各国の経済安全保障の要である。しかし、新型コロナの流行で引き起こされた世界的なサプライチェーンの大混乱や、緊張が高まる地政学的な要因から半導体不足が顕著になった。そのため、米国やEU、日本、中国などが軒並み、自国・地域内における先端半導体の自給体制構築に巨額を投じ始めている。しかし意外と知られていないのが、インドも壮大な半導体製造計画を持っていることだ。IT業界に数々の優秀な人材を送り出すインドが、半導体大国に生まれ変わろうとしている。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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次の半導体大国が「インド」のワケ、世界が注目する、エンジニア大国からの脱皮と進化
(Photo/Shutterstock.com)

日本:補助金6,000億円の使い道

 現在進行中のロシアによるウクライナ侵攻では、兵器全般に使われる半導体の入手状況が戦況を左右し得ることが認識された。また中国による台湾統一への動きから、先端半導体の世界シェア9割を占める台湾でのサプライチェーン再構築が始まった。世界的な生産競争が激しさを増すばかりだ。

 こうした中、半導体加工の微細化競争が進む過程で脱落した日本では、政府が総額6,170億円の補助金を用意。国内で安定して半導体を生産できる体制を構築するため、日本企業や海外企業の製造工場に対して補助金を投じていく。概要は以下の図のとおりだ。

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日本の政府が用意する補助金の一部使用先を一覧
(出典:編集部作成)

 詳しく解説しよう。トヨタ自動車やNTTなど主力8社は2022年8月に、自動運転やAIの開発に欠かせない最先端2nm製品の量産および国産化を目指し、計73億円を出資して半導体製造のラピダスを立ち上げた。政府はラピダスに対し、700億円の補助金を支給する。

 ラピダスは、2022年の世界半導体売上高ランキング2位の米IBM(米調査会社のガートナー調べ)と製造技術のライセンス契約を結び、今後10年で2兆円の研究開発費と3兆円の設備費を投じる予定だ。北海道千歳市に工場を建設し、2027年の量産開始を目指す。

 また「シリコンアイランド」と呼ばれる九州では、台湾積体電路製造(TSMC)とソニー、デンソーが共同で約1兆円を投じる工場が進出する。現在、熊本県菊陽町で、月産5万5000枚の28~22nm汎用ロジック半導体を製造できる第1工場を建設中で、2024年末に出荷開始を予定だ。

 これに対する政府の補助金支出は最大4,760億円に達する。現在検討中の第2工場では、さらに1兆円以上を投じて5~10nmの先端半導体を数年内に製造開始する計画もある。

 加えて米マイクロンが広島県東広島市で、13nm前後プロセスのDRAMと呼ばれる先端半導体メモリの製造工場を計画。投資額は1,400億円に上り、2024年第2四半期から出荷を開始する予定だ。政府は465億円の補助金支給を行う。

 そのほか、投資額が1兆円規模になる見通しのキオクシアは三重県四日市市で工場を構え、3次元NANDフラッシュ第6世代品(162層)を製造する計画。ここには政府補助金929億円が支給される。なおこの工場では、次世代品も製造予定だ。

米補助金は日本の10倍超、EU・中国の最新動向も

 一方、米国は2021年6月に成立した米国イノベーション・競争法(USICA)で半導体の開発・生産・研究に520億ドル(約6兆8,560億円)の予算を計上。さらに、2022年7月の半導体投資法(CHIPS法)で527億ドル(約6兆9,482億円)を投入し、国内の半導体産業の育成や世界トップ企業の誘致を目指す。総額で見ると、日本政府による補助金に対し、10倍以上の規模となる。

 米インテル、台湾TSMC、韓国サムスン電子、米半導体受託生産大手「グローバルファウンドリーズ」、米半導体製造「スカイウオーター・テクノロジー」などがこの制度を利用して、米国内での新工場の建設を計画している。

 EUは2023年4月18日に開く欧州議会の会合で、域内の半導体生産を拡大するために提案された「欧州半導体法」を承認する見通しが報じられている。430億ユーロ(約6兆1,104億円)の官民投資を集めて、ベルギー・フランス・ドイツなどの研究機関による研究開発ネットワークを構築する。

 域内サプライチェーンを確立させて10~16nmをはじめ、2~5nm、さらには2nm以下の製造を手掛けることを目指している。メガファブ(大規模工場)の立ち上げにより、欧州の世界半導体シェアを現在の10%から2030年には倍増させる目標だ。

 翻って中国は、半導体受託生産大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)が、技術的なブレークスルーを達成し、7nm以下の半導体製造工程を確立したと伝わる。このニュースの真偽は不明だ。

 だが、米商務省が「安全保障上危険だ」として100以上の中国企業を輸出規制企業リストに指定し、米企業の対中輸出を縛る。それだけでなく、外国企業などが米国発祥のソフトウェアや技術を使って製造した最先端半導体や半導体製造装置の輸出も阻止した。

 こうして、半導体製造大国である台湾や韓国に加え、米国・欧州・日本・中国が超微細化技術でしのぎを削る中、インドもまた半導体生産に本格的な参入を目指している。 【次ページ】インドが「半導体大国」を目指すワケ

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