• 2026/01/27 掲載

ソニーはなぜテレビを“分離”した?日本勢が勝てなくなった構造と「本命の巨大市場」(2/2)

1
会員(無料)になると、いいね!でマイページに保存できます。

テレビが「売れても儲からない」3つの構造問題

 テレビ産業の構造的な収益難は、以下の3点に要約できる。

 第1に、パネルを中心とする部材の交渉力だ。テレビの主要コストを占めるパネルは、供給側の投資規模と稼働率で価格が動く。プレミアム機でもパネルの仕様は限られ、供給側の都合が製品計画に影響しやすい。

 第2に、OSやアプリ体験の共通化だ。多くのメーカーが外部OSを採用し、ストリーミング視聴や検索、音声操作などの体験が似通ってきた。差別化の軸が画作りや音作りに寄るほど、価格競争が強い中価格帯では訴求が難しくなる。

 第3に、コモディティ化と値下げ競争である。中国勢は量産と垂直統合、広い販路を武器に、価格と供給の両面で攻勢をかける。プレミアム機は利益を取りやすいように見えるが、開発費と販売費を回収するには規模が要る。市場の競争条件は「いい製品を作る」だけで完結しなくなった。

 たとえばOSの面では、視聴体験の入り口が放送から配信へ移り、検索やレコメンド、広告などの仕組みが価値の中心に寄る。メーカーが自前ですべてを握る余地は小さく、OSのアップデート対応やアプリの互換性確保といった“運用”の仕事が増える。運用コストが増えるほど、台数規模の小さいメーカーほど不利になる。ハードの差別化と同時に、運用の効率化を求められるのが現在のテレビ産業だ。

 消費者にとっての関心は、画質や音質が維持されるかに加え、長期サポートが滞りなく続くかにある。テレビは購入後の使用期間が長く、故障対応や部品供給の体制が信頼の基盤になる。合弁会社が顧客サービスまで担う設計は、サポートを含めた固定費を一本化する狙いがある一方、品質基準を誰が決めるかが重要になる。確定契約の段階で、品質管理の枠組みと責任分界が明確になるかが注目点となる。

 合弁化は、この3要因に対する現実的な解だといえる。新会社は開発から顧客サービスまでを一体運営する。これにより、部材調達、製造委託先の選定、物流と在庫の持ち方、修理部品の供給など、収益を左右する実務を一本化できる。テレビは販売後のサポートもコストに関わってくる。グローバルで統一した運営体制を組み、固定費の積み上がりを抑えられるかが焦点となる。

画像
テレビが売れても儲からない、代表的な3つの課題
(画像:本文をもとにAI(Gemini/Nano Banana)を使用して生成)

ソニーが分離に踏み切った「本当の理由」

 今回の枠組みを理解する上で重要なのは、利益だけでなく投下資本の重さだ。

 テレビ事業は需要変動が大きく、部材確保や物流の都合で在庫が膨らみやすい。結果として運転資本が重くなり、資本効率が悪化しやすい。ソニーグループはゲーム、音楽、映画、イメージセンサーなど、成長投資の優先順位が明確な事業を抱える。テレビの収益が小さくても、資本を多く食うなら全体最適の観点で見直しが必要になる。

 合弁会社に承継することで、ソニーはテレビの運営に必要な固定費と運転資本の負担を相対的に軽くし、資源配分の自由度を高められる。一方で、ブランドと品質を守るにはガバナンスが欠かせない。出資比率は49%で少数株主になるため、意思決定の主導はTCL側に傾く。

 だからこそ、どの領域をソニーが握り、どこを新会社に委ねるのかが重要だ。画質・音質の基準、設計思想、商品企画の要件定義、品質管理の枠組みが曖昧なら、ブランドの信頼は毀損する。合弁化は効率化の手段であると同時に、ブランド運営の制度設計でもある。

 実務面では、製品の設計レビューの体制、部材の選定プロセス、修理拠点と部品在庫の配置、販売チャネルの整理が論点になる。新会社が量産と供給を担っても、プレミアム機の差別化を支える検証工程が省かれれば、短期のコストは下がっても長期のブランド価値を損ねかねない。合弁が“効率化だけの器”にとどまるのか、付加価値を再構築する枠組みになるのかが問われる。市場の反応と製品の変化を継続的に追う必要がある。

ソニーが狙う、テレビの先に広がる「巨大市場」

 事業を分離しても、ソニーにとってテレビから得た映像技術がムダになるわけではない。むしろ、映像処理や色再現、音響設計、ユーザーインターフェースといった要素技術は、車載ディスプレイや業務用表示機器、制作現場向けのモニターなどに転用しやすい。

 車載は安全性と長期供給が求められ、業務用は画質の安定と保守が価値になる。これらの市場はテレビほどの台数は出ないが、仕様が定まり、価格が崩れにくい傾向がある。ソニーにとっては「規模で勝つ」より「要件で勝つ」領域に近い。

 さらに、家庭内ではストリーミング視聴が中心になり、テレビは単体の機器から周辺機器やサービスと結びつく入り口へ変わる。ゲーム機や映像配信、音響機器との連携は、体験価値を左右する。

 合弁会社が量産と供給を担い、ソニーが体験価値の要件定義と技術の核を磨くなら、役割分担は明確になる。確定契約に向けた協議では、供給網の統合でどこまでコストとリードタイムを詰められるか、同時にソニーらしさをどの工程で担保するかが問われる。

 ソニーのテレビ事業の分離は、テレビそのものの終わりではなく、収益を生む仕組みの作り直しといえよう。

評価する

いいね!でぜひ著者を応援してください

  • 1

会員(無料)になると、いいね!でマイページに保存できます。

共有する

  • 1

  • 3

  • 0

  • 0

  • 0

  • 0

関連タグ タグをフォローすると最新情報が表示されます
あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

基本情報公開時のサンプル画像
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます

基本情報公開時のサンプル画像