• 2026/06/08 掲載

職人の技を残したい…岐阜の町工場が「生成AI」で挑む、超切実な「技能承継の突破口」(2/2)

連載:勝てる工場のつくり方~田中工業編~

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【エピソード3】Claude Codeで「要件定義の常識」破壊

 生成AIの業務活用において、田中氏が特に大きな効果を感じているのが、システム導入時の要件定義のプロセスである。

 従来、新しいシステムを外注で導入する場合、現場とシステム開発側がすり合わせを行いながら仕様を固めていく必要があった。現場は実現したい業務内容を伝えているものの、開発側がその内容を十分理解できるとは限らない。両者の間で認識のズレが生じやすく、時間をかけても最適な形に落ち着かないことも少なくなかった。

 こうした状況を変えたのが、Claude Codeの登場である。対話形式で要件を伝えることでコードが生成されるため、専門知識がなくてもプロトタイプを自作できるようになった。現場でプロトタイプを作成して使ってみて、それを基に議論することで、必要な機能や要件を具体的に共有できるようになる。こうした試行のサイクルを低コストで回せるようになり、「試すコストが、劇的に下がりました」と田中氏は語る。

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田中氏はClaudeを軸に複数のAIを使い倒している

 プロトタイプの段階で現場活用できる場合は、外注そのものが不要になる。実際に、田中氏が自作したシステムは、外注することなく現場で運用されているものもある。「費用対効果は数百万円規模になるのではないでしょうか」と田中氏は話す。

 これは田中工業に限った話ではない。新たな取り組みを検討しようとしても、導入までのプロセスが障壁となり断念せざるを得ないケースは少なくない。生成AIの活用によってそのハードルは大きく下がり、「まず試してみる」という選択が労力もコストもかけずに実現できるようになっている。

【注意】使いまくって分かった「生成AIの落とし穴2つ」

 こうした生成AIの活用が多くの成果をもたらした一方で、実務の中で留意しておくべき点も見えてきたという。田中氏が利便性の裏にあるリスクとして挙げるのが、セキュリティと規約だ。

 まずセキュリティ面では、AIがどこまでの情報にアクセスできるかを把握しておく必要がある。Claude Codeを活用していた際、OneDriveやGoogleドライブといったオンラインストレージに、意図せずアクセスできる状態になっていたことに気づいたという。「ローカルで動くと思っていたものが、普通にクラウドのデータにも触れていて、ヒヤッとしました」と田中氏は振り返る。

 ツール側には承認機能が用意されている場合もあるが、設定や使い方によっては広範囲のデータにアクセスできる状態になる。社内の重要な情報への意図しないアクセスを防ぐためにも、権限の管理は欠かせない。

 もう1点は、規約の確認である。生成AIは実現可能な手段を提示するが、それがそのまま許容されているとは限らない。Webサイトの情報を自動収集する手法をAIから提案された際、対象サイトの利用規約に抵触する可能性に気づいたことがあったという。「技術的にできることと、やっていいことは別です。規約を確認する習慣が必要だと感じました」と田中氏は話す。


 こうした判断は、一定のITリテラシーや経験がなければ見落とされやすい。生成AIによって業務活用のハードルが下がる一方で、利用者側に求められる責任はむしろ増している。

【悩み】AIの話をしているのは「自分だけ…」

 生成AIの活用を進める中で、課題の1つとなっているのが、社内での活用の広がりである。田中氏自身は積極的にAIを業務へ取り入れているが、現場全体としてみると、その関心や理解にはばらつきがあるという。

「自分だけがAIの話をしているように感じることも、正直あります」

 こうした状況に対し、田中氏はまず、使ってみる機会を増やすことを重視している。自ら作成したアプリやツールを現場に展開し、日常業務の中で自然に触れられる環境を整えている。

 たとえば、案件の進ちょく状況をAIがメールで通知する仕組みを導入した。現時点では違和感を覚える従業員もいるかもしれないが、「今のうちに慣れておくことが重要です」と田中氏は考える。

 現状ではAIを使わなくても業務は回る。しかし、今後人手不足が進む中で、AIの活用は避けて通れないものになると田中氏は見ている。実際に同社では採用が難しい状況が続いており、将来的な人員確保の見通しは不透明だ。

 技術承継と人手不足。地方の町工場が共通して抱えるこうした課題に対し、生成AIはどこまで応えられるのか。田中氏が手がけてきたアプリやツールの詳細は、後編で紹介する。

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