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AI時代に「選ばれ続ける企業」は何が違う? リコー×ベインが示す「3つの源泉」
AI時代に持続的な差別化につながる要素とは何か──複合機・プリンタ市場の構造変化を見据え、リコーはデジタルサービスの会社として進化を続けてきた。一方、生成AIの急速な進展は、デジタルサービスの競争環境そのものを変えつつある。では、AI時代にも選ばれ続けるサービスとは何か。ベイン・アンド・カンパニーが1000本超のアナリストレポートを分析すると、「3つの共通点」が浮かび上がった。リコーの遠藤 早苗氏とベインの井上 真吾氏が、その正体をひも解く。複合機を起点に事業領域を広げるリコー、次にたちはだかるAI
「プリントのボリュームやプリンタがこれから増えていくということではなく、減っていく中でも、どうやってお客さまに価値提供していくかを考えています」(遠藤氏)
こうした市場環境の変化を受け、リコーが進めるているのが、複合機を起点に、より顧客の業務へ踏み込む事業への転換だ。ドキュメントの運用管理を支援するマネージドサービスやITサービス、業務プロセスを自動化するプロセスオートメーション、働く環境そのものを支援するワークプレイスエクスペリエンスへと価値提供領域を広げている。
しかし、デジタルサービスへ軸足を移せば安泰というわけではない。生成AIによって、従来は個別のソフトウェアやサービスとして提供されていた文書要約や検索、議事録作成などの機能の一部も、AIが代替できるようになりつつあるからだ。
では、AI時代にも代替されにくく、継続的に価値を生み出すサービスの条件とは何か? ベイン・アンド・カンパニーが1000本以上のアナリストレポートを分析すると、「3つのキーワード」が浮かび上がった。
その内容を聞いた遠藤氏は「勇気をもらった」と語る。なぜなら、その3つはリコーが長年培ってきた強みと重なっていたからである。
1000本超を分析、AIに代替されにくいサービスの「3条件」
「1つ目は固有のデータが蓄積されること、2つ目は顧客の業務に深く入り込んでいること、3つ目は物理的な介在があることです」(井上氏)
第1の「固有のデータ」は、大量の情報を保有すればよいという意味ではない。たとえば毎回の会議を文字起こしして議事録を作るだけなら、汎用AIでも実現できる。一方、「どのような参加者で会議を行ったらうまくいったか」といった固有の情報が蓄積され、それをサービス改善へフィードバックできれば、汎用AIとの差別化につながる。
第2は顧客の業務に深く入り込むこと、第3は現実世界との接点である。たとえば会議室のディスプレイやカメラ、センサーと連携し、物理空間の情報まで活用できるサービスは、デジタルだけで完結する汎用AIには代替されにくいと井上氏は見る。
もっとも、この3条件を満たせば自動的に競争優位を築けるわけではない。重要なのは、こうした要素を実際のサービスへ組み込み、顧客価値につなげられるかである。
「その3条件、実はリコーの強みだった」
「デジタルピュアプレイヤーが圧倒的に強く、AIへの投資規模でも事業会社が追いつけない中で、どう勝っていこうかと考えていました。固有のデータ、複雑なワークフローへの入り込み、物理的・人的な介在は、私たちのようなパートナーが一番価値を出せるところだと思います」(遠藤氏)
この強みを象徴するのが、「紙とデジタルの間」に残る業務である。物流では荷物とともに紙が動くことがあり、金融や保険、教育、医療などにも紙を介する業務が残っている。
重要なのは、単に「紙をなくす」ことではない。紙で届いた情報を取り込み、デジタルのワークフローにつなぎ、その先の業務まで含めて最適化することだ。同じ業界でも企業ごとに業務フローは異なり、標準的なサービスをそのまま導入するだけでは現場に合わない場合もある。
つまり、紙そのものではなく、紙とデジタルが混在する複雑な現場を理解し、顧客ごとの業務へサービスを実装できることが強みになる。
井上氏も、複合機などを通じてワークプレイスや顧客固有の業務を理解してきたことは、物理的な接点と固有データを組み合わせたサービスを設計するうえで有利な立場だと見る。
一方で、強みを持っているだけでは競争力にならない。重要なのは、それを実際のサービスとして実装し、顧客へ提供できるかである。
リコーが試す「AIと会議する」未来、議事録作成のその先へ
すでにAIを使えば、会議音声の文字起こしや議事録作成はかなり自動化できる。だが、遠藤氏が着目するのはその先である。会議では、声の大きい人の意見に全体が流されたり、同じ論点を掘り下げ続けたりすることがある。
「音声を文字に起こして議事録を作るだけではなく、AIが中身やコンテクストを理解すれば、『そろそろクロージングのディスカッションをするタイミングではないですか』といった支援もできるようになると思います」(遠藤氏)
リコーでは、会議音声を取得して議論を構造化し、AIがディスカッションを支援する環境を試している。人間なら無意識に抑えてしまう発想まで含め、AIが多くのアイデアを提示する効果も期待できるという。
ただし、現時点で日常的な会議に広く導入されているわけではない。遠藤氏によれば、現在は特別な環境での取り組みであり、どの用途なら効率や議論の質を高められるのか、今後さらに検証が必要だ。場合によってはオーバースペックになる可能性もある。
それでも、単なる議事録作成とは異なり、会議の内容や結果を蓄積し、業務プロセスや物理空間と結び付ければ、サービスの性質は大きく変わる。AIに情報整理や議論の発散を任せ、人間は最終的な意思決定に集中する。そこに新たな価値が生まれる可能性がある。
「データを全部整えてから」は不要? AI活用で重要な順番
もちろん、AIが使える状態にするための環境整備は必要だ。企業によってはオンプレミス環境などにデータが眠り、活用できていないケースもあり、クリーニングが必要になることもある。
「データが蓄積されることでフィードバックループが回り、お客さまへの付加価値やサービスの価値が上がっていく。そのループを考えたうえで、必要なデータを整備するという順番が重要です」(井上氏)
つまり、先に考えるべきなのは「そのデータを使って何を実現するのか」だ。目的を定めずにデータを整備しても、「ためただけ」で終わりかねない。
一方、遠藤氏は、すべてのデータが整うまで待つ必要はないと見る。リコー自身にも、まだ掘り起こせていない情報や、十分にクレンジングされていないデータはあるという。
「私たちもまだ模索しているところは多くあります。ただ、すべてのデータを掘り起こして整備してから始めるより、今あるデータからでも始めていったほうがいいと考えています」(遠藤氏)
井上氏が「何のために整えるのか」という目的からの逆算を求める一方、遠藤氏は「すべてが整うまで待つ必要はない」という実践的な考えを示している。重要なのは、データを整えること自体ではなく、顧客価値を高める循環を回せるかどうかである。
「PoCするそばから陳腐化」、最後に選ばれるパートナーの条件
しかもAIの場合、その間にも技術が進化してしまう。
「AIの進化が速すぎて、PoCをやるそばから少し陳腐化してきてしまうことがあります」(遠藤氏)
さらにPoCまでは進められても、本格導入の段階では別の壁がある。日々のサポートや運用を任せ、長期にわたって業務を預けられる相手が必要になるからだ。
「お客さまはPoCまでは進められても、業務を預けようとすると、そこから先の経営判断になかなかいかない。伴走できるパートナーが、実は少ない環境なのです」(遠藤氏)
だからこそ遠藤氏は、固有データ、複雑な業務、物理的・人的な介在という3条件に加えて、顧客の業務を理解し、運用まで伴走しながら、技術の進化とともにサービス自体を変え続けることが重要だと語る。
井上氏も、AIによって情報収集や分析のスピードが上がる一方、戦略コンサルティングの価値は「クライアント企業の意思決定の確度を高めること」にあると説明する。さらに、市場や技術の変化に合わせて軌道修正し、成果が出るまで伴走する部分は、AIに完全には置き換えられないと見る。
AI時代に選ばれ続けるサービスとは、単に「最新のAIを使っているサービス」ではない。固有データ、業務への深い組み込み、物理的な接点を生かし、顧客への付加価値を継続的に高められるかが問われる。
AIの性能が急速に一般化していくからこそ、企業が長年築いてきた顧客との接点や業務理解には、改めて価値が生まれる可能性がある。ただし、その資産を持っているだけでは足りない。それをAIと結び付け、使われるサービスへ変え、進化させ続けられるか。リコーの挑戦は、AI時代に既存企業がどう戦うかという問いを映している。