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5月に「Dyson Zone空気清浄ヘッドホン」の日本での発売開始を発表し、大きな話題を起こしたダイソン。特徴的なデザインと革新的な新機能、多岐にわたる付属ツールなど、独創的な製品を続々と生み出している。これを可能としている秘訣が、独特な開発手法にあり、その原点が創業者兼チーフエンジニアであるジェームズ ダイソン氏の開発姿勢にある。そして忘れてはならないのが、次世代への投資だ。毎年、国際エンジニアリングコンテスト「James Dyson Award(JDA)」を開催し、革新を追求する若き才能を育成・発掘している。本稿では、JDAの国内審査員を担い、ダイソンのリードデザインエンジニアである菅原 祥平氏に、独創的な新製品を生み出す秘訣などについて単独インタビューを行った。
ダイソンの掃除機は「まだ完成されてない」
──(聞き手は筆者)まずは菅原さんの自己紹介をお願いいたします。
ダイソン 菅原 祥平氏(以下、菅原氏):桑沢デザイン研究所を卒業後、2015年にダイソンジャパンに入社し、2018年からはダイソンのイギリスの研究デザイン開発拠点で働いています。新製品の研究開発の初期段階に携わるNew Product Innovation(NPI)という部署に所属し、リードデザインエンジニアという肩書きで、掃除機のカテゴリーの開発を担当しています。
また、ジェームズ ダイソン財団が主催している国際エンジニアリングコンテスト「James Dyson Award(JDA)」で、日本の審査員を担当しています。学生の時には、参加者として応募し、国際トップ20位
(注)にランクインしました。
注)各国の国内で審査を通過した提案が、国際ステージに進出し、その中でトップ20およびトップ1~3が選出される仕組み。
──JDAについては後ほど改めてお伺いします。まず、私自身、「Dyson Micro 1.5kg」、「Dyson Digital Slim Fluffy」を愛用しているのですが、そうした掃除機にも携われているのでしょうか?
菅原氏:たとえばDigital SlimやMicroという掃除機は、私が設計部分の最初のステージを担当しました。サイクロン部分の通気口の数や角度、大きさや位置は私がデザイン・設計を行い、実験を通して今の形になっています。
──私の手元にある製品を手掛けていたとは驚きです。普段、開発は何人体制で行っているのですか?
菅原氏:チームは10人程度から始まり、製品の発売に近づくにつれてエンジニアが追加され、最終的には何百人もの人々が関わります。
消費者目線だとダイソンの掃除機は完成された製品と思われるかと思いますが、いまだに新たな問題を発見して、その解決策を組み込んでいます。まさに、「終わりなき戦い」と言えます。
圧倒的に多い付属品、続々と生み出す「開発の秘密」とは
──ダイソンの掃除機には、他社を圧倒できるほどの多種多様なモーターヘッドやブラシ、
ノズルといった付属ツールが用意されています。これらは、エンジニアが日々「こういうのがあったらいいのに」というアイデアを基に設計して開発しているのでしょうか?
菅原氏:その通りです。エンジニアたちは、「こういうアタッチメントがあったらいいんじゃないか」というアイデアを出し合いながら新しいアタッチメントを開発しています。ユーザーからの声も集めますが、そのまま形にするというわけではありません。
それをどういう解決策につなげるかは、エンジニアの技術やアイデアが試されるところです。顧客が何にフラストレーションや課題を感じているか理解し、問題解決に立ち向うという役割を担っています。
その点では、世界で初めてガソリン自動車を製作したフォードの創業者、ヘンリー・フォードの言葉が思い出されます。彼がガソリン車を製作する前、「どんな乗り物が欲しい?」と人々に尋ねたところ、人々は「もっと速く走る馬が欲しい」と答えたそうです。しかし、その本質的なニーズは「より便利により速く快適に移動したい」というものでした。
このエピソードと同様に、エンジニアリングや技術で問題を解決することが使命であり、そのためには顧客のフラストレーションや課題を把握する必要もあります。その両者を、どう解決策に結びつけて製品を開発するかが、エンジニアの醍醐味でもあります。車を作るという革新的な解決策を見つけ出したフォードのように、我々もユーザーのニーズを満たす最適なソリューションを模索し続けています。
これがダイソンのエンジニアリングチームの働き方であり、アタッチメントや新製品を生み出す一連の流れとも言えます。個々のエンジニアの独創性と技術が、ユーザーにとって価値ある製品を創造する原動力となっています。
奇抜なデザインは「必然的にそうなった」
──新製品を発案する際に大事にしていることは何ですか?
菅原氏:意外かもしれませんが、「自分を信じること」です。新しいものを創造する初期段階では、データが少なく、具体的なイメージが曖昧です。その段階で、自分が思い描いている「これが良い」というイメージを周囲の人々に共有し、共感してもらうことが重要です。
そのプロセスで反対意見に遭遇することもありますが、それは自分の信念を試す機会でもあり、失敗から学び、事実に基づいた調整をしていくことが大切です。その中で、自分がどの方向に進みたいかを定めていくことが求められます。
──菅原さんはデザインエンジニアという肩書をお持ちですが、このデザインはいわゆるデザイナー的な役割を担うのでしょうか。
菅原氏:ダイソンのデザインエンジニアは「設計」を担当し、テクノロジーを形にする役割を担っています。ダイソンでは「形態は機能に従う(Form Follows Function)」という原則を大切にしており、製品の形状は、実験や合理的な理由から導かれます。
ジェームズ ダイソンがインタビューで、「奇抜なデザインにしたかったわけではなく、機能を追求した結果、必然的にこのデザインになった」という話をしていましたが、その感覚は僕にも結構あります。イメージに合わせて作るのではなく、実験の結果や合理的な理由で自然とその形・デザインになっていくというイメージです。
【次ページ】開発の原点、大きすぎる「ジェームズ ダイソン」という存在
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