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- 2023/11/28 掲載
物流革新緊急パッケージとは何かをわかりやすく解説、置き配だけでない大注目の13施策
連載:「日本の物流現場から」
物流革新緊急パッケージとは
物流革新緊急パッケージとは、2023年10月6日に政府が発表した物流革新に向けた即効性の高い各種施策を取りまとめたものである。具体的には、「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」「商慣行の見直し」の3本柱を掲げ、それぞれ計13の施策で構成している。働き方改革関連法で年間の時間外労働時間の上限が960時間に制限される2024年4月1日、通称、「物流の2024年問題」が差し迫る中、賃上げや人材確保など、すみやかに具体的な成果が得られるよう国を挙げて取り組んでいく方針だ。
また政府は、政策パッケージの各種施策で着実に成果を出していくため、中長期計画を策定するなど、進ちょくの管理も行っていく計画である。
「物流革新に向けた政策パッケージ」から「物流革新緊急パッケージ」へ
2023年3月31日、政府は、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」の第1回会合を開催した。「物流の2024年問題」のマイルストーンである2024年4月1日の1年前にわざわざ開催したわけだ。この席において、岸田首相はこのように述べている。
「(1年後に迫った『物流の2024年問題』に対処するため)1年以内に具体的成果が得られるよう、対策の効果を定量化しつつ、6月上旬をメドに、緊急に取り組むべき抜本的・総合的な対策を『政策パッケージ』として取りまとめてください」
そして2023年6月2日に発表されたのが、「物流革新に向けた政策パッケージ」である。詳しくは後述するが、「1年以内に具体的成果が得られるよう」と言いつつ、「物流革新に向けた政策パッケージ」はまだ具体性に欠けた、うすぼんやりとした内容であった。
「物流革新に向けた政策パッケージ」で挙げられた施策は24項目ある。その中から、即効性の高い取り組みとして13項目に絞られた施策が、今回発表された「物流革新緊急パッケージ」なのだ。
2024年は14%の輸送力不足が発生するが…
政府は、「物流の2024年問題」をこのまま放置すれば、2024年には14.2%、2030年には34.1%の輸送力が不足すると警鐘を鳴らしている(図1)。その対策となる施策が、「物流革新に向けた政策パッケージ」と「物流革新緊急パッケージ」に列記されているわけだが、そのおおまかな対策と効果については以下の図2のように試算している。
「荷待ち・荷役(時間)の削減」で4.5ポイント、「積載効率の向上」6.3ポイント、「モーダルシフト」0.5ポイント、「再配達削減」3.0ポイント、計14.3ポイントを改善するとしている。
上記の4つの施策を2023年中に実施し、「合計14.3ポイント」、つまり2024年に不足する輸送力分を稼ぐことができれば、とりあえず「物流の2024年問題」の序盤を回避できるというのが、政府の描いたストーリーであることを、まず念頭に置いてほしい。そうしないと、「物流革新緊急パッケージ」を誤解してしまうからである。
なお、2030年度分の34.1%については、2023年中に中長期計画を策定して対応を設定する方針だ。
【対照表つき】「物流革新に向けた政策パッケージ」と「物流革新緊急パッケージ」の違い
「物流革新に向けた政策パッケージ」には24項目の施策が、「物流革新緊急パッケージ」には13項目の施策が挙げられている。差分の11項目は、以下に分類される。
- 1つの項目にまとめられた施策
- 2023年6月2日発表の「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」で対策済みの施策
- 取り上げられていない施策
たとえば、「物流革新に向けた政策パッケージ」における「即効性のある設備投資の促進(バース予約システム、フォークリフト導入、自動化・機械化等)」と「物流DXの推進」は、「物流革新緊急パッケージ」では「即効性のある設備投資・物流DXの推進」にまとめられた。
バース予約システムをはじめとする、解決に貢献すると思われるソリューションの具体例が「物流革新緊急パッケージ」において記載されなくなった点については気になるところだ。だが、おそらくこれらは導入に対する補助金・助成金の形で、近々に対策が明らかになる、つまり「物流革新緊急パッケージ」とは別の形で対策を打ってくるものと推測する。
「物流革新に向けた政策パッケージ」で指摘された「荷主・物流事業者間における物流負荷の軽減(荷待ち、荷役時間の削減等)に向けた規制的措置等の導入」については、「物流革新に向けた政策パッケージ」と同日発表された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」において、「荷待ち・荷役作業等時間の2時間以内ルール」としてすでに言及されている。
この2時間以内ルールについては、すでに大手荷主や大手物流事業者を中心に、一部の企業では急ピッチで対策を進め始めている。
「物流革新緊急パッケージ」で消えた5つの施策
気になるのは、「物流革新に向けた政策パッケージ」で取り上げておきながら、「物流革新緊急パッケージ」では取り上げられていない施策である。ここに挙げておこう。1については、筆者も反対の立場であり、別メディアで取り上げている。やはり、拙速な施策であるとの判断がなされたのだろうか。
2については、ダブル連結トラックを運用できる物流センターや、休憩・休息を行えるSA(サービスエリア)・PA(パーキングエリア)が不足しているといった事情もあり、またダブル連結トラックを運用できる事業者が限られていることから、「物流革新緊急パッケージ」からは省かれたのだろうか。
4については、即効性に乏しいと判断された可能性がある。だが、共同輸送の促進は、今後の物流クライシスを考えると必須であり、対策をブラッシュアップ、あるいはより具体化して、今後の「物流革新」施策で登場することだろう。
筆者が疑問に感じるのは、3および5が「物流革新緊急パッケージ」にて取り上げられていないことである。
3は、特に都市部では即効性のある取り組みである。
5については、まじめに「物流の2024年問題」に取り組んでいる事業者を、きちんと評価する仕組みを創設しなければ、「正直者が馬鹿を見る」、すなわち、のらりくらりと長時間労働をドライバーに強いる、ブラック(あるいはグレー)運送事業者が得をしてしまうことになりかねない。5については、ぜひ今からでも「物流革新緊急パッケージ」に盛り込むべきと、筆者は考えている。
ここからは「物流革新緊急パッケージ」の施策についてより具体的に見ていくことにしよう。
【補足解説つき】「物流革新緊急パッケージ」の13の施策
「物流革新に向けた政策パッケージ」(6月発表)、「物流革新緊急パッケージ」(10月)のいずれにおいても、施策は、「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」「商慣行の見直し」に大別されている。ただし、「物流革新に向けた政策パッケージ」では、その順番が、「商慣行の見直し」「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」であったのは、各施策について、即効性が高いかどうかを見極めた結果なのだろう。
「物流革新緊急パッケージ」に挙げられた13項目の施策は以下の通りである。また、わかりにくい施策については、最小限の補足を入れておいた。
- 即効性のある設備投資・物流DXの推進
倉庫の自動化・機械化。ドローン物流の推進。港湾物流のDX化。自動運転の実証実験。 - モーダルシフトの推進
鉄道・内航の輸送分担率を10年で倍増。31フィートコンテナの利用拡大(中長期的には40フィートコンテナも利用拡大) - トラック運転手の労働負担の軽減。担い手の多様化の推進
ドライバーの負担軽減のための機器・システムの導入推進。ドライバーに対する免許取得等のスキルアップを支援。 - 物流拠点の機能強化や物流ネットワークの形成支援
中継輸送拠点の整備や、高速道におけるSA・PAの大型トラック用駐車マスの拡充など。 - 標準仕様のパレット導入や物流データの標準化・連携の促進
- 燃油価格高騰等を踏まえた物流GXの推進(物流拠点の脱炭素化、車両のEV化等)
- 高速道路料金の大口・多頻度割引の拡充措置の継続
- 道路情報の電子化の推進等による特殊車両通行制度の利便性向上
2.荷主・消費者の行動変容
- 宅配の再配達率を半減する緊急的な取り組み
置き配やコンビニ受け取り、あるいは「ゆとりある配送日時の指定」を行うことで、現状の再配達率12%を6%に半減させる。 - 政府広報やメディアを通じた意識改革・行動変容の促進強化
- トラックGメンによる荷主・元請事業者の監視体制の強化(「集中監視月間」(11~12月)の創設)
- 現下の物価動向の反映や荷待ち・荷役の対価等の加算による「標準的な運賃」の引き上げ(2023年内に対応予定)
- 適正な運賃の収受、賃上げ等に向け、次期通常国会での法制化を推進
大手荷主・物流事業者に対し、荷待ち・荷役時間の短縮に向けた計画作成を義務付け。大手荷主における物流経営責任者選任の義務付け。多重下請け構造是正のための実運送体制管理簿の作成。契約時の(電子)書面交付の義務付け。
3.商慣行の見直し
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