• 会員限定
  • 2023/12/14 掲載

EVや気候変動で電力不足…再エネは“破滅”への第一歩?「火力発電」支持が爆増のワケ

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
石油や天然ガスの一大産地である南部テキサス州。実は、風力・太陽光発電が広く採用されるGX(グリーントランスフォーメーション)の先進地でもある。今夏の記録的な猛暑日には、州内の電力需要の25%を再エネでまかない、計画停電を回避できたことが話題となった。一方で、電力供給の安定化のため、天然ガスによる火力発電の強化を住民投票で決定するなど、再エネ化を目指す路線からハイブリッド路線にかじを切り始めた。EV普及や気候変動対応などでさらなる電力需要の増加が見込まれる中、エネルギー政策は何が正解となり得るのか。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

photo
電力需要の増加が見込まれる中で、エネルギー政策はどうなっていくのか
(Photo/Shutterstock.com)

大寒波で電力供給がストップ…

 近年のテキサス州では、大寒波や猛暑による電力供給の不安定化、さらに寒さや暑さをしのぐための暖冷房需要の急増が、州当局や電力企業にとっての喫緊の課題となっている。

 まず2021年2月に、連日の気温がセ氏マイナス10度という記録的な寒波で、暖房のための電力需要が急増。発電インフラがこれに追い付けず、450万戸以上の住宅や多数の事業所が大規模な停電に見舞われ、復旧に数日間を要した。停電や凍結による水道管破裂によって飲料水が止まり、さらに暖がとれないことで250人近くが亡くなった。損害は最大見積もりで2,000億ドル(約30兆円)近くにも上り、甚大な惨事となった。

 このように被害規模が大きくなったのは、テキサス州の温暖な気候から住宅の断熱が十分でないことによることが大きい。そのため、寒波が襲った際に、非効率な電力ヒーターの利用が増加し、電力需要ははね上がった。

 さらに州当局が掲げる電力自給で他州との電力相互融通が限られる中、豊富な地元産の天然ガスを使う火力発電所の機器・タービンが凍結し、発電不能に陥ったことも理由として挙げられる。一部停電により、発電所向けパイプラインにガスを送り込むコンプレッサーの一部がストップするなどで、ついには数日間にわたる全面停電となった。

猛暑日には「最大41%」を再エネで供給

 そして2023年の夏。気温がカ氏100度(セ氏38度)を超える記録的な猛暑が州内で2カ月近く続いたことで、冷房を中心に電力需要が飛躍的に伸びた(図1)。

画像
図1:2023年は電力消費量が飛び抜けて多かった
ダラス連邦準備銀行より編集部作成)

 州内電力の9割を供給する独立系統運用機関(ISO)であるテキサス電気信頼性評議会(ERCOT)によれば、過去のピーク電力需要のトップ10の記録が、ことごとく破られた

 ところが、2021年の大寒波の際とは違い、計画停電や予告なしの大停電は起こらなかった。なぜか。テキサス大学ウェバー・エネルギー研究所のジョシュア・ローズ研究員は、「2022年と比較して、テキサス州では太陽光パネルの数が倍増しており、照り付ける太陽光が冷房需要を支えたからだ」との見解を示した。

 たとえば、2023年8月4日の総電力使用量における風力と太陽光を合わせた再生可能エネルギーの割合は14~41%で推移した(図2)。

画像
図2:午前9時から同10時では再エネ割合が41%に達している
ERCOTより編集部作成)

 エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)の分析によれば、太陽光のみを見た場合、6月15日から9月15日の電力使用量が年間で最も大きくなる期間において、平均で全体の13.8%を安定してまかなえたという。

 少なくとも猛暑の電力需要に関しては、太陽光と風力の貢献で停電を回避できることが証明されたのだ。こうしてテキサス州は、2021年の寒波と2023年の猛暑を通して、天然ガス火力発電の脆弱性と、再エネの高い信頼性に関する教訓を学んだ。

 それなら、これからの電力供給安定のために、再エネの割合をさらに増やしてゆくべきではないか。ERCOTの広報担当者も「ピーク時における再エネへの依存を増やしてゆく」との方針を示している。しかし、テキサス州民は2023年11月の住民投票で興味深い選択を行った。

photo
次のページでは、テキサス州民やニュージャージー州民らが選択したエネルギー政策の意向を解説するとともに、EV普及などによる完全脱炭素化の目標が実現可能かについて迫っていく
【次ページ】再エネに幻滅?「火力発電も強化」を選択した真相

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます