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現在、欧州を中心に活発に議論されているテーマに「データ共有圏(Data Space)」がある。これは、企業・団体など複数の主体が垣根を超えてデータを共有し、業界の発展に向け連携する動きで、代表的な組織として
GAIA-X(ガイアX)や
Catena-X(カテナX)などがある。日本でも経産省がデータ共有に向けた取り組みを「ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)」と命名し活動を推進しているほか、2024年2月にはデータ共有を推進する企業として、トヨタ自動車やホンダなど国内自動車メーカー14社と、自動車部品・蓄電池の業界団体が参画する「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター」が誕生した。今回は、「ウラノス・エコシステム」と「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター」を分かりやすく解説する。
そもそも「データ共有圏」とは何か?
欧州で活発に議論されているデータ共有圏とは、企業・団体など複数の主体が垣根を超えてデータを共有し、業界の発展に向け連携する枠組みを指す。データ共有圏のコンセプトを理解するには、プラットフォーマーによるデータ共有の在り方と比較すると分かりやすいかもしれない。
たとえば、これまで何らかのデータを他者と共有・交換する場合は、グーグルやアマゾンなどのサービスプラットフォームを利用して(介して)データを共有・交換する方法が一般的であった。この場合、データの仲介者となるプラットフォーム側が、取得したデータの活用方法やデータを使ったマネタイズの方法を決めることができる立場となり、もともとのデータ所有者が「データ活用方法」に関与できない状況にあった。
一方、欧州発で検討が進むデータ共有圏では、コネクタを通じてデータの出し手・受け取り手を“直接”つなぐ分散型のデータ共有・交換の形をとる。そのため、データ所有者の“データ主権”が担保され、データ所有者が「他者がデータをどのように、いつ、いくらで利用できるかを自己決定する」ことができる。これが欧州を中心に議論されるデータ共有圏の重要なコンセプトだ。
どんな組織がある? データ共有圏をタイプ別に整理
現在、このデータ共有圏を創出するために、あらゆる組織が誕生し、取り組みが進められている。これら組織は大きく2種類に分けることができる。
1つ目が、あらゆる業界における共通の仕組みづくりを目的とする組織だ。たとえば、「
IDSA(International Data Space Association)」や「
GAIA-X」などの組織が挙げられる。
2つ目が、業界共通の仕組みづくりを目指す組織を土台としつつ、より細分化されたテーマによるデータ共有を目指す組織だ。たとえば、自動車業界におけるデータ共有を目指す「
Catena-X」、製造業全般の「
Manufacturing-X」など存在する。
さらに、自動車業界におけるデータ共有を目指すCatena-Xを土台とする、個別のソリューションを展開するサービス企業「
Cofinity-X」なども存在する。
一方、日本においては、企業・業界・国境をまたいだデータ共有の仕組みづくりを目指すイニシアチブとして「ウラノス・エコシステム」が存在する。
そして、このウラノス・エコシステムには「公益デジタルプラットフォーム」として事業者を認定する制度があるが、制度が開始しだい申請を予定しているのが、一般社団法人の「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター(ABtC: Automotive and Battery Traceability Center)だ。これは、電池関連事業に携わる企業・団体同士がデータ共有を目指す組織だ。
ここからは、ウラノス・エコシステムと自動車・蓄電池トレサビリティ推進センター(以下、ABtC)を詳しく解説する。
ウラノス・エコシステムとは
日本は経産省・DADC(Digital Architecture Design Center)を中心に、産官学連携で企業・業界・国境をまたいだデータ連携・利活用を目指すイニシアチブとして、ウラノス・エコシステムを立ち上げている。
産官学のさまざまなプレイヤーがシステム連携し新たな価値を創出していくという観点から、ギリシャ神話の天空の神「Ouranos(ウラノス)」に由来し、「ウラノス・エコシステム」と名付けられている。
ポイントは名称にもあるように「エコシステム」である点だ。なお、ウラノス・エコシステムはシステムそのものではないため、直接データ共有基盤や、データ連携をするためのコネクタなどの技術開発を行うのではない。
具体的な活動としては、データ連携を進める実事業者を「公益デジタルプラットフォーム運営事業者」として認定し、その支援を通じて各産業がデータ連携によって産業競争力を維持・向上できるよう、下図のような「ユースケース・価値創出」を支える。
そのため、下図にあるように、ウラノス・エコシステムとしてはユースケースやエコシステムなどを担っており、データスペースの技術基盤開発などを担っている他組織などとは力点の置いている階層が異なる。
ウラノス・エコシステムとしては、技術基盤に関しては実事業者である公益デジタルプラットフォーム単位で最適なものを選択し産業・領域ごとに勝てる仕組み構築を行っていくことを支援する。
そのため、支援対象の公益プラットフォームの取り組みとして、業界・領域として合理的であると判断した場合に、Catena-Xの基盤を活用することや、コネクターとしてGAIA-XやCatena-Xなどで活用されるEDCコネクターを通じてデータ連携を行うことを選択肢として除かない。
重要であるのは「目的」としての産業の競争力であり、「手段」にこだわりスピード感が失われてしまうことを防ぐために、協調領域や使える技術・インフラは徹底活用する考えだ。
ウラノス・エコシステム、活動の2つのポイント
データ連携においては、データ連携のコンセプトありきで議論をしていては総論賛成のコンセンサスはありつつも、抽象的な議論で終わってしまい具体的な日本が勝てるモデルというのは出てこない。
また、政府支援のスキームを整備したとしても、各事業者がその支援スキームを活用してどのようなモデルを構築し得るのかのイメージやロールモデルがなければ、手をあげる事業者が生まれない。技術ありきで進めたとしてもユーザーやコミュニティがなければ社会実装に至らないことは多くの領域で日本が経験してきている点だ。
そうした点を踏まえ、ウラノス・エコシステムとしては、(1)ロールモデルとしての日本の勝ち筋を集中的に構築し、(2)その上で各業界・領域の支援を広く実施する、アプローチを取る。
上図で示したユースケースのうち、1つ目が「自動車バッテリーのカーボンフットプリント可視化規制の対応」であり、ABtCがそれに取り組む事業者にあたる。ここからはABtCについて詳しく解説していく(ユースケースの2つ目「デジタルライフライン」については記事後半で解説します)。
【次ページ】自動車・蓄電池トレサビリティ推進センターとは
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