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  • 2021/04/06 掲載

GAIA-Xとは何か、GAFAMも巻き込む欧州のクラウド・データインフラ構想

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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欧州統合データ基盤プロジェクト「GAIA-X(ガイア-エックス)」が、2020年6月に正式発足されました。ドイツ主導で立ち上げられ、フランスとともに準備が進められてきたGAIA-X発足の背景には、クラウドコンピューティングやデジタルプラットフォームビジネスの分野で米国や中国の後塵を拝しているとの欧州の危機感があると言われます。今回は、正式発足から半年が経過し、2021年にデータインフラのプロトタイプの構築、運用を開始予定のGAIA-Xについて取り上げます。

執筆:東芝 福本 勲

執筆:東芝 福本 勲

東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス 代表
中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)
1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRM、インダストリアルIoTなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長をつとめる。主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』(共著:近代科学社)、『デジタルファースト・ソサエティ』(共著:日刊工業新聞社)、『製造業DX - EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』(近代科学社Digital)がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。また、企業のデジタル化(DX)の支援/推進を行うコアコンセプト・テクノロジーなどのアドバイザーをつとめている。

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GAIA-X発足の背景やGDPRとの関係を詳説する

(Photo/Getty Images)

米中の後塵を拝した欧州の危機感

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みの進展に伴い、データは「21世紀の石油」とも呼ばれるようになり、ビジネスにおいて極めて重要なものになっています。現在、世界のデジタルデータの多くは、米国のGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)や中国のBAT(百度(バイドゥ)、阿里巴巴集団(アリババ)、騰訊(テンセント))などが提供する巨大プラットフォーム上に集積され、その上で解析や活用が行われています。

 欧州も例外ではなく、欧州で発生したデータもこれらの巨大プラットフォーマーの新たなビジネスに利用され、欧州自体のデジタル経済の拡大に結び付いていないことが懸念されてきました。このため、欧州がデジタル経済での巻き返しを図るには、蓄積・処理・活用されるデータの管理を欧州外の企業に依存せず、欧州自身で実行できる技術環境の整備が必要と考え、デジタル主権の確立を最大の目標に、欧州独自のデータインフラを構築するGAIA-Xプロジェクトが発足されました。

 GAIA-Xの目的は、欧州域内外の企業のさまざまなクラウドサービスを単一のシステム上で統合し、業界をまたがるデータ交換を容易に行える標準的な認証の仕組みを通じて、インターオペラビリティ(相互運用性)を実現することにある、とされます。

 この点から見ればGAIA-Xは、既存のクラウドベンダーを置き換えるものではなく、その補完的な役割を担うものと考えられます。

 こうした壮大なプロジェクトを進めるには、欧州の政府や企業が一体となりプラットフォーム構築を推進する必要があります。GAIA-Xにはドイツ企業では、ボッシュ、SAP、ドイツテレコム、ドイツ銀行、シーメンス、フェストなどの大手・中堅企業が名を連ね、フランスの大手ITコンサルティング会社のAtosなども参加しています。



GAIA-Xの目的とアーキテクチャー

 GAIA-Xは、以下の7つの原則に基づいて、欧州域内に存在する通信インフラや設備、産業・個人データの収集・活用、デジタルプラットフォームを統合するデータインフラの構築を目指しています。

  1. (1)欧州のデータ保護
  2. (2)開放性と透明性
  3. (3)信頼性と信頼
  4. (4)デジタル主権と自己決定
  5. (5)自由な市場アクセスと欧州の価値創造
  6. (6)モジュール性と相互運用性
  7. (7)使いやすさ

 GAIA-Xでは、前述の原則を実現するためのアーキテクチャー(リファレンスアーキテクチャー)が検討されており、基本モデルは次の3レイヤーで構成されます。

  1. (1)各産業部門から生成されるデータの相互運用やポータビリティを実現する「データエコシステム」レイヤー
  2. (2)クラウド、高パフォーマンスコンピューティング、クラウド、エッジコンピューティングの相互運用を実現する「インフラエコシステム」レイヤー
  3. (3)データインフラを利用する際のセキュリティ、データ主権を維持したデータ交換、データ利用カタログ、個人データ保護に関する共通ルールや標準を定める「フェデレーションサービス」レイヤー

 GAIA-Xの組織は大きくGAIA-X AISBL(注)、GAIA-X Community、GAIA-X Hubsの3つに分かれています。

注:AISBL:Association internationale sans but lucratif(仏語)。国際非営利団体の意。

 GAIA-X AISBLにはアーキテクチャーやフェデレーションサービス(一度認証を通れば、その認証情報を使って、許可されているすべてのサービスを使えるようにするサービス)などのワーキンググループが配置され、GAIA-X Communityにはデータ主権や相互接続性などを検討するワーキンググループが配置されています。



 GAIA-Hubsは、GAIA-Xコミュニティを活性化するために、参加国単位で設置され、国単位のユーザーエコシステムの情報発信の場となります。ドイツとフランスはすでにGAIA-Hubsを設置しており、オランダ、ベルギー、フィンランド、イタリアは設置を進めています。そして各国のGAIA-X Hubsが一体となって、GAIA-Xの実装を推進するネットワークが形成されることが期待されています。

 2020年10月にはEU27か国が「Building the next generation cloud for businesses and the public sector in the EU」という共同宣言を行い、2021年から2027年の7年間で20億ユーロ(約2,600億円)を拠出し、各国の企業投資と合わせて総額100億ユーロ(約1兆3,000億円)の投資を行うことが合意されました。この中でGAIA-Xは産学連携の代表的な取り組みと位置付けられており、この取り組みには、暗号資産(GAIA-Xトークン)を発行しGAIA-Xの市場通貨として使用する計画も含まれています。

 ユースケースとしては、インダストリー4.0、スマートリビング(より上質で快適な生活を実現するためのサービス)、金融、公共部門、移動・交通、農業が挙げられており、GAIA-Xにより各分野のデータを活用した新たなビジネスモデルの構築のための技術基盤の整備が進むことが期待されています。

 一方、当初のGAIA-Xのロードマップによれば、2021年初頭までにデータインフラのプロトタイプを構築し、運用を開始する予定でしたが、現時点においては、実装に向けたアプローチの合意には至っていないように見えます。

【次ページ】GAIA-XとEU一般データ保護規則(GDPR)との関係

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