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- 2023/03/31 掲載
「Manufacturing-X」とは何か? いま製造業で起きている“見落としてはいけない”最新動向
連載:デジタル産業構造論
株式会社d-strategy,inc 代表取締役CEO、東京国際大学 データサイエンス研究所 特任准教授
日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所、産業革新投資機構 JIC-ベンチャーグロースインベストメンツを経て現職。2024年4月より東京国際大学データサイエンス研究所の特任准教授としてサプライチェーン×データサイエンスの教育・研究に従事。加えて、株式会社d-strategy,inc代表取締役CEOとして下記の企業支援を実施(https://dstrategyinc.com/)。
(1)企業のDX・ソリューション戦略・新規事業支援
(2)スタートアップの経営・事業戦略・事業開発支援
(3)大企業・CVCのオープンイノベーション・スタートアップ連携支援
(4)コンサルティングファーム・ソリューション会社向け後方支援
専門は生成AIを用いた経営変革(Generative DX戦略)、デジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム・リカーリング・ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス・ロボットSIer、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。
近著に『メタ産業革命~メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる~』(日経BP)、
『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。
【問い合わせ:masahito.komiya@dstrategyinc.com】
今、欧州で何が起きてる? 見落としてはいけない最新動向
現在、欧州で進むデータ共有の在り方を模索する取り組みに関して、多くの人の目が行きがちなテーマが、「各企業が保有するデータのうち、どこを他の企業と協調する領域に設定すべきか」や「データ共有・交換を行うための標準をどう作るか」という点だ。しかし、その裏側の動きにも留意する必要がある。なぜなら、欧州企業を中心に、すでにデータ共有の標準に沿った具体的なデータ共有のためのソリューション開発や、欧州電池規制をはじめとしたデータ共有をすることがビジネス上必須となるようなルール作りがセットで進められているからだ。
そのため、標準などの開発の動向を様子見し、標準が出来上がった段階で活用を検討するといったスタンスでは大きく後れを取ってしまうことに注意しなければならない(図表2)。
Manufacturing-Xとは
そうしたデータ共有に向けた流れがある中で、立ち上がってきた構想が「Manufacturing-X」だ。Manufacturing-Xとは、製造業固有のデータ共有基盤の構築を進めようとするプロジェクトだ。すでに、製造業の中でも、自動車業界においてはCatena-X(自動車業界のデータ共有エコシステム構築に向けた取り組み)が存在するが、Manufacturing-Xでは自動車を含めた製造業全体が対象となる。Catena-Xを土台(BluePrint)としつつも、製造業のセクター横断で進めていくイニシアチブとなっている。
2022年8月31日に承認されたドイツ連邦政府のデジタル戦略においてManufacturing-Xが提示されたのがはじまりだ。なお、VDMA(ドイツ機械工業連盟)は主導している組織の1つであり、その他ndustry4.0推進組織であるPlatform Industrie4.0や、SAPをはじめとするドイツ主要企業が取り組みをリードすると見られている。
Manufacturing-Xの構想が立ち上がった背景
Manufacturing-Xの検討が進む背景には、新型コロナウイルスの感染拡大や、ウクライナ危機、エネルギー危機・原料価格の高騰、気候変動が関係している。これら変化により、世界では供給の不足や生産停止、インフレなど進み、現在、急速に景気後退リスクが高まるなど競争環境が悪化している。そうした危機感もManufacturing-Xの検討が進む理由にある。また、ドイツの産業としては中小企業が多いという特徴があり、これら中小企業がプラットフォーマーに依存しない相互運用性の高いデータエコシステムの構築が求められている。その裏側には、欧州としては図表4のとおり、莫大なデータをもとに競争力を持つ米国や中国をはじめとするメガプラットフォーマーへの対抗軸を打ち出すという思惑も存在する。
Manufacturing-Xの「3つの目的」
Manufacturing-Xが掲げている目的は大きく3つに分かれる。(1)レジリエンス
インシデントに迅速に対応できるバリューネットワークの再構築
(2)持続可能性
新しいビジネスモデル、循環型経済、効率性の向上
(3)競争力
ドイツ産業のグローバル・リーダーシップの確保、デジタルイノベーションの拡大
このように、Manufacturing-Xが掲げる目標は、人間中心とともにレジリエントやサステナビリティをコンセプトに掲げる欧州委員会の「インダストリー5.0」や、ドイツがIndustry4.0の次のコンセプトとしてデータ共有につながる自己決定権・自律性やサステナビリティ、インターオペラビリティを掲げている「Industry4.0 Vision2030」と大きくリンクしている形となる。 【次ページ】Manufacturing-Xの超重要な「5つの柱」
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