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  • 2025/09/11 掲載

今さら聞けない「改善基準告示」とは、ドライバーの“厳しすぎる”労働ルールの中身

連載:「日本の物流現場から」

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労働基準法では、労働者が雇用主によって酷使されることを防ぎ、健全に就労できるようにルールを定めている。私たちが当たり前のように取っている昼休みも、労働基準法第34条(休憩)において定められたルールだ。トラックドライバーのような職業ドライバーには、さらに厳しい労務コンプライアンスルールが定められている。それが改善基準告示である。本記事では、2024年4月1日に改正されたトラックドライバー向けの改善基準告示について解説する。
執筆:物流・ITライター 坂田 良平

物流・ITライター 坂田 良平

Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。

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改善基準告示とは
(Photo/Shutterstock.com)

改善基準告示とは、主な目的は3つ

 改善基準告示(正式名称「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」)とは、トラックなどの自動車運転業務に従事する運転者の拘束時間や休息期間、運転時間などが定められた、厚生労働大臣による告示である。1989年に策定されて以来、社会情勢の変化に応じて改正が行われてきた。


 改善基準告示の基本的な目的は、以下の3点に集約される。

  • 長時間労働の抑制
    他の仕事と比べてトラックドライバーら職業運転手は、どうしても長時間労働になりがちである。改善基準告示は、拘束時間の上限などを具体的に定めることで、長時間労働を是正し、過重労働を防ぐことを目的としている。

  • 自動車運転者の健康確保
    長時間労働や不規則な勤務は、ドライバーの心身に大きな負担をかけ、過労による脳・心臓疾患などの健康障害リスクを高める。実際に、トラック輸送産業の従事者は、脳・心臓疾患による労働災害支給決定件数が全産業の中でもっとも多い。改善基準告示は、適切な休息期間の確保などによって、ドライバーの健康を守ることを目的としている。

  • 交通安全の確保
    ドライバーの疲労は、交通事故を惹起する可能性がある。改善基準告示によって労働時間等を適切に管理することで、運転者の疲労を軽減し、ひいては道路交通全体の安全を確保することを目的としている。

 30年ほど前の4月1日、当時引越会社のドライバーだった筆者は、前頭部を11針縫う大怪我を負った。引越業界にとって4月1日と言えば、繁忙期の真っ最中である。

 日々数時間の睡眠しか取れず、また肉体的にも疲労のピークにあった筆者は、集中力を欠き、引越荷物の転入先となるアパートの梁に激突してしまったのだ。

 だがこのケースでは、筆者の自滅だったからまだ良かった。一歩間違えば、他者を巻き込む死亡事故を引き起こしていた可能性もあったからだ。

 残念ながら、いまだにドライバーの体調不良が引き起こした悲惨な交通事故はなくならない。意識を失ったドライバーが乗るトラックは、凶器と化して他の自動車とその乗員に悲劇をもたらす。

 労働基準法よりもさらに厳しいルールを運送事業者とドライバーに課す改善基準告示は、悲劇的な交通事故を防ぎ、またトラックドライバーという職業を守るために設けられている。

改善基準告示が改正された「2つの理由」

 2024年4月1日に改善基準告示が改正された最大の理由は、働き方改革関連法である。2019年に施行された働き方改革関連法では、720時間を超える年間時間外労働を禁じた。

 ただし、この際に「長時間労働が常態化していること」「労働環境に特殊性があること」「国民生活や経済活動に与える悪影響が大きいこと」といった事情を考慮し、建設業従事者、医師らとともに、職業ドライバーに対する時間外労働の上限規制には、5年間の猶予が設けられた。

 ちなみに猶予期間が終了し、トラックドライバーへの時間外労働上限規制が発動した結果生じたのが、大きな話題を呼んだ「物流の2024年問題」である。

 働き方改革関連法による規制と、改善基準告示に整合性をもたせる必要があったため、2024年4月1日に改正改善基準告示が公布されたのだ(以降、本記事で「改正改善基準告示」と表記した場合には、2024年4月1日の告示内容を指す)。

 次に挙げられるのが、物流クライシス対策である。

 ドライバー不足は、もはや物流業界だけの課題ではなく、日本社会全体の課題である。この課題をクリアするためには、長時間労働を是正し、また職業としての安全性を労働管理の観点から高めることでドライバーの職業的魅力を高めるという目的を改正改善基準告示は備えている。

【表で解説】改正内容まとめ

項目 改正前
(~2024/3/31)
改正後
(2024/4/1~)
主な変更点・備考
1年の拘束時間 3516時間以内 原則:3300時間以内
例外:3400時間以内(労使協定による)
原則時間が216時間短縮
労使協定による上限も116時間短縮
1カ月の拘束時間 原則:293時間以内
例外:320時間以内(労使協定により年6カ月まで、年間総拘束時間の範囲内)
原則:284時間以内
例外:310時間以内(労使協定により年6カ月まで、年間総拘束時間の範囲内)
原則時間が9時間短縮
・例外の上限も10時間短縮
・例外適用には追加条件あり(下記参照)
1カ月の拘束時間
例外適用の条件
特段の規定なし 以下の(1)(2)を満たす必要あり
(1) 284時間超は連続3カ月まで
(2) 1カ月の時間外・休日労働時間数が100時間未満となるよう努める
・例外適用に新たな条件が追加された
1日の拘束時間 原則:13時間以内
上限:16時間以内
(15時間超は週2回まで)
原則:13時間以内
上限:15時間以内
(14時間超は週2回までが目安)
・上限が1時間短縮
・長時間拘束(14時間超)の抑制がより強調
1日の拘束時間 例外(宿泊を伴う長距離貨物運送) 特段の規定なし(1日の上限16時間以内が適用) 上限:16時間まで延長可(週2回まで)
※条件:1週間の運行が全て長距離(450キロメートル以上)かつ、一の運行の休息期間が住所地以外
・特定の条件下で16時間拘束が維持されるが、適用条件が明確化
1日の休息期間 継続8時間以上 継続11時間以上を与えるよう努めることを基本とし、継続9時間以上を下回らない ・最低基準が1時間延長(8時間→9時間)
・11時間以上確保が努力義務として明記
1日の休息期間 例外(宿泊を伴う長距離貨物運送) 特段の規定なし(継続8時間以上が適用) 継続8時間以上(週2回まで)
※上記「1日の拘束時間 例外」と同じ条件
※休息期間が9時間未満となる場合、運行終了後に継続12時間以上の休息を与える
・特定の条件下で8時間休息が維持されるが、適用条件が明確化
・事後的な補償休息(12時間)のルールが新設
運転時間 2日平均1日:9時間以内
2週平均1週:44時間以内
変更なし
連続運転時間 4時間以内
(中断は合計30分以上、1回10分以上目安)
4時間以内
(中断は合計30分以上、1回おおむね10分以上、原則休憩)
(10分未満の中断は3回以上連続しない)
例外:SA・PA等で駐車スペースがなく、やむを得ない場合、4時間30分まで延長可
・中断の定義が若干詳細化(「おおむね」追加、原則「休憩」)
・やむを得ない場合の延長ルールが明確化
分割休息 1回3時間以上、合計10時間以上(2分割)、合計12時間以上(3分割) 1回継続3時間以上、合計10時間以上(2分割)、合計12時間以上(3分割)
・3分割は連続しないよう努める
・一定期間(1カ月程度)の全勤務回数の1/2が限度
・「継続」が明記
・3分割の連続回避努力義務、適用回数上限が明確化
2人乗務(車両内ベッドあり) 最大拘束20時間、休息4時間 最大拘束20時間、休息4時間
例外(一定の要件を満たすベッド※)
・拘束24時間まで延長可(運行後11時間以上の休息必要)
・さらに8時間以上の仮眠を与える場合、拘束28時間まで延長可
・特定の高品質ベッドの場合、拘束時間をさらに延長可能とする規定が新設
※長さ198センチメートル以上×幅80センチメートル以上の平面、衝撃緩和機能など
予期し得ない事象への対応 特段の規定なし 事故、故障、災害等、客観的記録があれば、対応時間を1日の拘束時間、運転時間(2日平均)、連続運転時間から除くことができる。勤務終了後、通常の休息期間は必要。 ・新設
表の内容はExcel資料にも記載しております
【次ページ】特に重要な「4つの改正ポイント」
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