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- 2025/09/11 掲載
今さら聞けない「改善基準告示」とは、ドライバーの“厳しすぎる”労働ルールの中身
連載:「日本の物流現場から」
Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。
改善基準告示とは、主な目的は3つ
改善基準告示(正式名称「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」)とは、トラックなどの自動車運転業務に従事する運転者の拘束時間や休息期間、運転時間などが定められた、厚生労働大臣による告示である。1989年に策定されて以来、社会情勢の変化に応じて改正が行われてきた。改善基準告示の基本的な目的は、以下の3点に集約される。
- 長時間労働の抑制
他の仕事と比べてトラックドライバーら職業運転手は、どうしても長時間労働になりがちである。改善基準告示は、拘束時間の上限などを具体的に定めることで、長時間労働を是正し、過重労働を防ぐことを目的としている。 - 自動車運転者の健康確保
長時間労働や不規則な勤務は、ドライバーの心身に大きな負担をかけ、過労による脳・心臓疾患などの健康障害リスクを高める。実際に、トラック輸送産業の従事者は、脳・心臓疾患による労働災害支給決定件数が全産業の中でもっとも多い。改善基準告示は、適切な休息期間の確保などによって、ドライバーの健康を守ることを目的としている。 - 交通安全の確保
ドライバーの疲労は、交通事故を惹起する可能性がある。改善基準告示によって労働時間等を適切に管理することで、運転者の疲労を軽減し、ひいては道路交通全体の安全を確保することを目的としている。
30年ほど前の4月1日、当時引越会社のドライバーだった筆者は、前頭部を11針縫う大怪我を負った。引越業界にとって4月1日と言えば、繁忙期の真っ最中である。
日々数時間の睡眠しか取れず、また肉体的にも疲労のピークにあった筆者は、集中力を欠き、引越荷物の転入先となるアパートの梁に激突してしまったのだ。
だがこのケースでは、筆者の自滅だったからまだ良かった。一歩間違えば、他者を巻き込む死亡事故を引き起こしていた可能性もあったからだ。
残念ながら、いまだにドライバーの体調不良が引き起こした悲惨な交通事故はなくならない。意識を失ったドライバーが乗るトラックは、凶器と化して他の自動車とその乗員に悲劇をもたらす。
労働基準法よりもさらに厳しいルールを運送事業者とドライバーに課す改善基準告示は、悲劇的な交通事故を防ぎ、またトラックドライバーという職業を守るために設けられている。
改善基準告示が改正された「2つの理由」
2024年4月1日に改善基準告示が改正された最大の理由は、働き方改革関連法である。2019年に施行された働き方改革関連法では、720時間を超える年間時間外労働を禁じた。ただし、この際に「長時間労働が常態化していること」「労働環境に特殊性があること」「国民生活や経済活動に与える悪影響が大きいこと」といった事情を考慮し、建設業従事者、医師らとともに、職業ドライバーに対する時間外労働の上限規制には、5年間の猶予が設けられた。
ちなみに猶予期間が終了し、トラックドライバーへの時間外労働上限規制が発動した結果生じたのが、大きな話題を呼んだ「物流の2024年問題」である。
働き方改革関連法による規制と、改善基準告示に整合性をもたせる必要があったため、2024年4月1日に改正改善基準告示が公布されたのだ(以降、本記事で「改正改善基準告示」と表記した場合には、2024年4月1日の告示内容を指す)。
次に挙げられるのが、物流クライシス対策である。
ドライバー不足は、もはや物流業界だけの課題ではなく、日本社会全体の課題である。この課題をクリアするためには、長時間労働を是正し、また職業としての安全性を労働管理の観点から高めることでドライバーの職業的魅力を高めるという目的を改正改善基準告示は備えている。 【次ページ】【表で解説】改正内容まとめ
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