- 2026/02/12 掲載
3万台即完→大量出品…バイトダンスの約8万円「AIスマホ」が72時間で地に落ちたワケ(2/2)
【落胆の理由1】シンプルに「まだ早かった」
1つは、どのような操作でもスムーズにできるわけではなかったことだ。モニター版を購入した人からは「コーヒーを注文するのに6分もかかった」など時間がかかる例、操作に失敗して中断する例が続々と報告された。当たり前だがアプリごとにUIが違うため、AIは迷いやすく、操作が遅れたり失敗したりする。中でも大きなノイズになっているのがポップアップ広告だ。クローズボタンを目立たなくしたり、ボタンの意味を誤解させより多くの広告を見せようとする、人間でも誤操作する“悪質広告”にAIも惑わされる。
バイトダンスでは、豆包AIはまだ学習途上にあるため、認識率は92%前後だと発表していた。しかし、これは1画面あたりの認識率で、複雑なドリンクの注文であれば10ステップ近い操作が必要になる。とすると、1画面92%でも、10画面が必要な操作になると成功率は“半分以下”に落ちる。
さらに、AIコストも疑問視された。ある研究によると、ボタンの認識と操作結果の推論には、単純なテキスト質問の253倍のトークンを消費するという。AIスマホが普及して誰もが使うようになると、必要とされるAI演算量が爆発的に増加し、それを支えるデータセンターをバイトダンス1社で維持できるのかという疑問も投げかけられた。
【落胆の理由2】「主要アプリがAI拒否」の大誤算
もう1つの、より大きな問題が、AIによるアクセスを拒否したアプリが続出したことだ。アプリ側がAIを拒否した理由は明確だ。「広告」と「入り口支配」という巨大利権が脅かされるからである。中国のネットユーザーの約9割が利用しているSNS「WeChat」を皮切りに、タオバオ、アリペイ、高徳地図、京東、王者栄耀、建設銀行、招商銀行など決済機能を内蔵しているアプリが続々とAIアクセスを拒否する対策を行った。理由は「セキュリティ上の懸念」。AIがWeChatなどのアプリを起動しようとすると「手動でログインしてください」という警告ダイアログが現れて、操作が止まるようになった。主要アプリがこの状態であるため、AIスマホはほとんど何もできない状態になってしまったのだ。
中国人民銀行や国家金融監督管理総局が定めている決済機能を有するアプリのガイドラインでは、自動ログインが厳しく制限されている。しかし、アプリ運営企業の本当の狙いは別のところにあると見られる。
その狙いが広告収入だ。主要アプリは1日に数億人がアクセスするようになっている。このアプリのトップ画面などに掲載される広告出稿料は安くなく、アプリ運営企業の貴重な収入源になっている。人間はこの広告を見てくれるが、AIは広告など見てくれない。AIアクセスを許すと、広告の価値が失われ、大きな収入源を失ってしまうのではないかという懸念がある。
また、インターネットの入り口を制する競争という点でもアプリ運営企業は脅威を感じている。ネットビジネスは、とどのつまり、誰が最もトラフィックを集められるかという競争であり、トラフィックさえ獲得すれば、マネタイズの方法はいくらでもある。
検索で集めたトラフィックを広告主に分配することでマネタイズをしたのが初期のグーグルであり、中国では「WeChat」や「アリペイ」「抖音」(中国版TikTok)といったスーパーアプリがネットの入り口となりトラフィックを独占している。あとはそれを分配することで収益が得られる。
ところが、AIスマホは、入り口がAIとなり、トラフィックをすべて独占してしまう。これをスターバックスに分配するかラッキンコーヒーに分配するかは、AIのさじ加減1つになる。ここに各スーパーアプリ運営企業が脅威を感じたのではないかと見られている。
72時間で露呈…「最大の壁」は技術ではなく“○○覇権”だった
熱狂を落胆に変えた2つの理由のうち、最初の学習不足問題は解決可能だ。学習を進めることで成功率を高めることができ、アプリ運営企業と協働することで、AIが理解しやすいアプリ設計に変えてもらうことも可能だ。しかし、後者のトラフィックの覇権を誰が握るかという問題は簡単には解決しない。譲った方が競争から脱落する構造になっているため、膠着(こうちゃく)状態になっている。
バイトダンスでは、AIをさらに改善し、各社とも協議を進めて、AIスマホの正式発売にこぎ着けたいとしているが、現在のところ発売日に関しては発表されていない。
中国AIで最も優れた環境構築をしているのはアリババだ。大規模言語モデル「Qwen」を開発し、アリクラウドを持ち、AIチップやGPUの開発も手掛け、フルスタックAI企業と呼ばれるようになっている。アリババは、現在、タオバオやアリペイ、高徳地図などの自社アプリに積極的にAI搭載を始めている。すでに自社エコシステムの中で、豆包AIスマホが狙う世界観に近いものを実現しようとしている。
そして、これまで静かだったテンセントも「元宝」(ユエンバオ)にDeepSeekを導入することで強化をし、春節(旧正月)時期に大々的なプロモーションを行った。
テンセントが運営するスーパーアプリ「WeChat」は、430件の小売業、飲食業のミニプログラム(アプリ内アプリ)に対応している。WeChatにAIエージェントを搭載するだけでも、生活関連の多くのことが自動化できる。
各社が、AI開発の段階を終え、利益を確保する出口戦略が本格化している。バイトダンスとアリババが先頭を走るところに、テンセントが追いつこうとし、新BAT(バイトダンス、アリババ、テンセント)という言葉がメディアをにぎわせるようになっている。さらに、専門性の高いDeepSeek、Kimiが加わり、この5つのAIが中心になってAIビジネスを確立しようとしている。
その1つの出口が、スマホではない新しいAIデバイスだ。それがスマホの形をしているのか、眼鏡の形をしているか、イヤホンの形をしているのか、あるいはまったく見たことがない形をしているのか、それは誰にもわからない。しかし、スマホの次の時代へ向かって、中国テック業界は走り始めている。
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