• 2026/05/21 掲載

スズキが推進する「神の視点」システム、工場も街も「丸ごと制御する」驚愕の正体(2/2)

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倉庫や工場さえも激変させる「空間データの価値」

 では空間を起点にモビリティを制御することで、どのような価値を生み出すのか。スズキが見据えるのは、自動走行にとどまらない空間全体の最適化である。

 たとえば工場では、このシステムにより、モビリティの動きだけでなく、人の動線、製品の在庫状況、設備の稼働状況までを一体的に把握できる。空間内で「何が」「いつ」「どこで」起きているかをリアルタイムで捉え続けることが可能になる。

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空間データにより倉庫や工場などの空間も最適化する可能性を秘めている
(画像:スズキ提供)

 その結果、生産量の変動や人員の過不足といった変化が生じた際にも、どこにリソースを振り向けるべきかを即座に判断しやすくなる。

「このシステムを活用することで、状況の変化にも即座に対応でき、ムリ・ムラ・ムダのない空間をリーズナブルに提供することができます。製造会社が生産量を拡大していこうとすれば、課題となるのは工場内の生産ラインの整備だけではありません。部品を運ぶトラックの出入り、従業員の移動、完成車の出荷など、周辺環境を含めた全体最適が求められます。モビリティ連携基盤は、こうした工場を取り巻く空間まで含めて制御する手段となり得えます」(杉村氏)

 何より、特徴の1つであるデータの一貫性は大きな可能性を秘める。従来のデジタルツインは、複数のカメラやセンサーが個別に取得した情報を仮想空間上で統合するため、どうしても見落としやズレが生じる可能性もあった。一方、本システムは空間そのものを直接データ化するため、情報の欠損が発生しにくいという。

 そしてこれらのデータは、AIによる複雑な学習処理を前提としない。空間全体を俯瞰して把握できるため、物体同士の位置関係を基にしたルールベースの制御で運用できる。これによりシステム構成をシンプルに保ちながら、多様な用途に展開できる。

 具体的には、棚の在庫残量を体積として把握し補充のタイミングを通知する在庫管理や、荷崩れの兆候をリアルタイムで検知する仕組みなどへの活用が想定される。加えて、警備や安全管理、ドローンの運行制御など、応用範囲は工場や倉庫にとどまらない。

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モビリティ連携基盤はあらゆるユースケースが考えられる
(筆者作成)

「空間データがあれば、複雑なAI処理を行わなくても、これまで自律型でなければ実現できないとされてきたことが可能になります」(杉村氏)

 自動走行を起点に構築された仕組みは、やがて空間データという新たな経営資源として蓄積されていく。モビリティの制御にとどまらず、現場全体の運営そのものを変革する可能性を秘めているのだ。

スマートシティを超える…スズキが見据える「街全体の変革」

 工場や倉庫での活用にとどまらず、スズキが見据えるのは街全体への展開である。街の中にLiDARを設置し、エリア全体の空間を制御することで、物流の効率化や環境負荷の低減、防災対応など、さまざまな社会課題の解決につながる可能性がある。

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空間データによってあらゆる社会課題を解決できることが期待される
(画像:スズキ提供)

「解決すべき課題自体は、これまでのスマートシティ構想と変わりません。ただし、従来の方式とは経済合理性の面で大きな違いがあります」(杉村氏)

 これまでのスマートシティの取り組みは、多くが実証実験にとどまってきた。補助金を前提としたプロジェクトが多く、事業として継続できないケースが少なくなかったためである。

 こうした状況に対し、スズキは一貫して採算性を重視する。「実証実験のためにソリューションを提供するつもりはありません。採算が成立する形で現場に届けることが大前提です」と杉村氏は強調する。

 なお、実証実験は次の段階へと進みつつある。2026年から、京都リサーチパーク(KRP)の地下エリアや自動車学校、スズキ社内において本格的な検証を開始する。実際の街に近い環境で運用しながら、システムの実現性を検証していく。「空間情報を活用した新たなモビリティインフラの実現を目指したい」と杉村氏は話す。

「事業化と収益モデル」の展望

 スズキは、モビリティ連携基盤の2027年度中の事業化を目指している。当面は工場や倉庫、商業施設などを対象に導入を進め、段階的に機能を拡大させていく方針である。

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 2026年4月からは組織名を変え、事業化に向けた体制を整えつつある中、すでに複数の企業から引き合いが寄せられており、異業種での導入検討も進んでいるという。

 収益モデルは、システムの利用料を軸とする形を想定する。加えて、同社の多目的電動台車「MITRA」との組み合わせによる提供も視野に入れる。「スズキは中期経営計画にて、新規事業領域で収益500億円を目指すとしている。この中の大きな柱の1つに成長させたい」と杉村氏は意気込む。

 一方で、事業拡大に向けた課題もある。その1つがIT人材の確保である。空間データを扱うこのシステムは、従来の自動車開発とは異なるスキルセットを求められる領域でもある。人材不足を補い、開発体制を強化するため、同社は産学連携にも力を入れている。芝浦工業大学との共同研究講座の開設や、同大学認定ベンチャーのハイパーデジタルツイン社との連携を通じ、基盤づくりを進める。

 杉村氏は、本システムにかける思いをこう語る。「この取り組みの可能性や面白さは、まだ十分に知られていません。一緒により良い社会を実現していく仲間を求めています」

 工場から工業団地、そして街へ。モビリティ連携基盤が描く未来は、スズキが目指す「生活に密着したインフラモビリティ」への転換を体現するものと言える。自動走行システムという入り口から始まった取り組みは、やがて都市のあり方そのものを変えていくのか。その壮大な構想は、着実に実現へと近づいている。

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