- 2026/07/15 掲載
“奴隷制度”批判を乗り越えるはずが…外国人ドライバー雇用に潜む「残酷な落とし穴」(2/2)
山口氏も警告、特定技能2号への移行の「高すぎる壁」
もう1つ、特定技能2号にステップアップするには大切な要件がある。それは、監督者としての実務経験である。かつて大手運送会社の役員として物流倉庫分野で技能実習生受け入れの責任者を務めた後に行政書士として独立起業、現在では物流業に限らずさまざまな産業における外国人雇用の支援を行っている、行政書士やまぐち事務所 山口 嘉公氏は、「特定技能2号へのステップアップに際し、『監督者としての実務経験』が足かせになるケースがあります」と警鐘を鳴らす。
出入国在留管理庁(入管)による特定技能制度の運用要領には、特定技能2号で在留する外国人に対し「熟練した技能」に加え、「監督者として業務を統括すること」を求めている。そのため特定技能2号では、多くの分野で「2年以上」といった年数を定めた上で、現場リーダーなどの実務経験を求める。
「実際、特定技能2号へのステップアップを検討したものの、監督者としての実務経験が足りず、断念せざるを得ないケースも出てくるでしょう」と山口氏は語る。
ほぼ間違いなく、トラックドライバー分野でも監督者としての実務経験が求められることになるだろう。しかしこれは、2つの課題をはらんでいる。
- 高齢化が進む運送業界においては、20代の外国人ドライバーが、50代以上のベテランドライバーを監督するケースが起こり得ること
- 2年の実務経験が求められる場合、3年目から監督者に従事する必要がある。経験年数3年で監督実務を務めるというのは、運送業界では例外であること(図2)
実習生にも聞いた「なぜ失踪するのか?」
2024年、筆者は製造業の工場で働く、ミャンマー人の技能実習生に取材を行った。「失踪する技能実習生について、どのように考えるか?」と質問したところ、以下のような回答を得た。- 来日するまでブローカーから日本での仕事内容を教えてもらえない人もいる。運が悪いと好きじゃない仕事をさせられて、嫌になって逃げてしまう。
- 待遇や給与に不満があっても、技能実習制度では転職が許されない(当時)。そういった人が、他者の給与や待遇を聞くと、自分もその職場で働きたいと考え、失踪してしまう。
- 最初から失踪するつもりで来日する人もいると思う。
ほかにも、職場でパワハラやセクハラなどを受けるケースもあるだろう。給与や待遇、ハラスメントなどへの不満が高まれば、「他の職場で働きたい」と思うのは当然だ。
特定技能制度では、転籍(転職)が認められているものの、日本人のように自由な転職活動はできない。入管への手続きはもちろん、働く分野を変更する場合には、もう一度、特定技能1号評価試験に合格しなければならないからだ。
加えて山口氏は、SNSを介して失踪などの手引きをする人物の存在を示唆する。
「SNSでは、出身国別に日本で働く外国人たちの非公開グループがあります。人によっては、個人情報保護の感覚が低く、自分の給与明細などをグループ内で公開し、不平不満を漏らしています」(山口氏)
こういった人たちが言葉巧みに騙され、職場から失踪し、不法就労に足を踏み入れてしまうわけだ。
では、特定技能外国人の失踪を防ぐためにはどうしたら良いのか? 山口氏は、「不平不満が生まれにくい就労環境を用意することが大切です」と説明する。
特定技能外国人の受け入れに関係なく、常日頃からホワイトな職場環境を整え、従業員たちの心理的安全性をきちんと確保しておくこと。外国人と働くことに不安やストレスを感じる人もいる。そういった人たちの不平不満が、特定技能外国人へのハラスメントに発展しないように注意を怠らないこと。
そして問題が発生してから対応するのではなく、そもそも問題が発生しないような環境を整えておくことが大切だというのが、山口氏のアドバイスである。
受け入れ企業にかかる金額は?「費用と手間」の落とし穴
全日本トラック協会では、外国人ドライバーの採用などにかかるコストを試算、公開している(図3。本資料は2024年5月31日作成のもののため、現在の実態と異なる箇所がある)。「人材紹介費:1人あたり60万円程度」「支援委託費:月額5万円程度」「ビザ取得費:印紙代+委託費20万円程度」といった具体的な金額が説明されている。運転免許の取得費用も考えると、初期コストだけで簡単に100万円は超えるだろう。しかも、これらのコストは、招いた外国人ドライバー候補が特定技能1号資格を得られなかった場合、すべてムダになる。
もう1つ考えるべきは、受け入れ企業側の手間である。先のミャンマー人技能実習生へのインタビューの際、受入企業側の事前準備も取材したが、寮の手配に加え、食器、冷蔵庫、洗濯機、布団、テレビ、冷暖房器具などの基本的な生活必需品の手配を行っていた。
「外国人に部屋を貸すことを嫌がる大家も多く、今回も寮の手配は苦労しました」と担当者は嘆いていた。この担当者は、休日を返上して実習生を観光地へ案内するなど、献身的に業務にあたっていた。ある時、ミャンマー人の実習生にこんなことを言われたそうだ。
「私はミャンマーに帰りたくないです。内戦があるからです。私は死にたくない」「もどかしいですよ。できれば、ずっと私たちの会社で働いてほしいのですが…」。言葉を濁す担当者の表情を、筆者は忘れられない。
当時の技能実習制度では在留期間が過ぎたら基本的には帰国せざるを得なかった。永住権取得への道は現行制度でも難しいが、当時はさらにハードルが高かったのだ。
先行する他分野で外国人労働者を受け入れてきた現場では、制度の窮屈さに苦悩を感じながら、いかに「私たちの仲間である」外国人に寄り添うか、常に葛藤し続けてきた。そして特定技能外国人ドライバーを迎え入れれば、あなたもその葛藤に向き合わなければならない。
以前と比べれば、特定技能外国人を雇用し続けるハードルは低くなっている。しかしドライバー分野に関して言えば、若手外国人ドライバーにベテランドライバーを指導・監督する経験を積ませなければならないなど、ハラスメントを誘発しかねないハードルが立ちはだかる。
かといって、特定技能外国人ドライバーを1号だけで運用、数年ごとに入れ替え続けるとなれば、受け入れる運送会社側の負担は大きなものになってしまう。そもそも「日本人がトラックドライバーとして働いてくれないなら、外国人にドライバーになってもらえば良い」という発想は、少々あさましくはないだろうか?
まず政府が手掛けるべきは、外国人であろうが日本人であろうが、職業としてのトラックドライバーの魅力と価値を高める政策である。これが十分でないまま、海外へ労働力を求める政府の安易な姿勢には、どうしてもモヤモヤを感じてしまうのだ。
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