- 2026/04/01 掲載
悪口だらけ・3割退職…愛知の町工場&三重の運送会社が大復活「常識外れの人材戦略」
1993年早稲田大学第一文学部卒業後、ぎょうせい入社。地方行政をテーマとした月刊誌の編集者として、IT政策や産業振興、防災、技術開発、まちおこし、医療/福祉などのテーマを中心に携わる。2001年に日本能率協会マネジメントセンター入社。国際経済や生産技術、人材育成、電子政府・自治体などをテーマとした書籍やムックを企画・編集。2004年、IDG Japan入社。月刊「CIO Magazine」の編集者として、企業の経営とITとの連携を主眼に活動。リスクマネジメント、コンプライアンス、セキュリティ、クラウドコンピューティング等をテーマに、紙媒体とWeb、イベントを複合した企画を数多く展開。2007年より同誌副編集長。2010年8月、タマク設立、代表取締役に就任。エンタープライズIT、地方行政、企業経営、流通業、医療などを中心フィールドに、出版媒体やインターネット媒体等での執筆/編集/企画を行っている。
【側島製罐】業績低迷に悪口の応酬…光明は「社員の怒り」?
側島製罐は、1906年創業の愛知県の老舗製缶メーカー。ブリキ缶やスチール缶の製造を中心に、お菓子や海苔などの保存缶、贈答用パッケージを手掛け、100年以上にわたり缶づくりを続けている。代表取締役社長の石川 貴也氏が側島製罐に入ったのは2020年4月のこと。日本政策金融公庫で中小企業への金融支援に携わっていた石川氏を、初日に待ち受けていたのは「お前の親父の正体すぐわかるからな」という言葉だった。
「ようこそ、とかじゃないんですよね。最初っからもう攻撃されるという、結構つらい感じでした」。石川氏は当時をそう振り返る。
社内には部署間の悪口が飛び交い、雰囲気は最悪。その背景には業績の低迷があった。20年間で売上は15億円から5億円を切るまでに減少し、社員は真面目に働き続けても給料は上がらず、結果、人も減っていく。
「業績が悪くなった犯人を捜し始めるわけですよね。誰かが悪いに違いないって」(石川氏)
働きやすい職場づくりの取り組みを表彰するGOOD ACTION AWARD(GAA)審査員のアキレス 美知子氏(三井住友信託銀行取締役)から「途方に暮れる中で、どこに光を見つけたのでしょうか」と問われた石川氏は、1人ひとりとの対話の中で見出した希望を語った。
「1人ひとりに話を聞いてみると、みんな怒っているんです。でも怒るってことは、期待値とのギャップがあるから起こるわけじゃないですか。諦めていたら怒りさえ湧かない。何十年も耐えて頑張ってきたのに報われないという怒り、お客さまのために迷惑をかけたくないのにできないという怒り、そういう気持ちがちゃんとあるんだっていうところが、最初の取っ掛かりになったのです」
【側島製罐】人事評価を“捨てた”納得理由
こうした中、自律的な組織へと変革を遂げるため、あらゆる変革を行う。象徴的なのが、社員が自分の給与と役割を自己申告する「自己申告型報酬制度」の導入だ。石川氏は当初、理念に基づいた人事制度をコンサルタントと作ろうともしていたが、完成直前で2度ほど「ちゃぶ台返しをした」という。
「理念を大事にする、それに基づいて給料を決めるとなった時に、今度はミッション・ビジョン・バリューをやるっていう他人軸になるわけですよね。それって行動のマネジメントが思想のマネジメントに路線変更してるだけじゃないですか。本質的には何も変わってない。せっかく社員から湧き出る貢献心や『こういうことをやりたい』という思いが出てきているのに、それを殺してしまう制度は良くないはずです。悩みに悩んだ末、もう評価などを止めるしかないと決断しました」(石川氏)
現在の制度では、社員同士が「投資委員会」で互いの給与や仕事内容について対話を繰り返すという。守島 基博氏(GAA審査員、学習院大学 教授 兼 一橋大学 名誉教授)からの「重要なのはメンバー同士で見ているということですよね。会社としての仲間意識ができてくる。会社としてまとまっていく1つの大きなきっかけになったのではないですか?」との問いに、石川氏は「その通りだと思います」と応じた。
こうした変革の結果、社員の可能性が拡張されている。
「指示命令というものがないので、自分でスマートHRを全社導入したり、工場の生産システムをデジタル化するためにアプリ開発する人が現れたり、本当は持っている各人の強みや特性が拡張されて表現されるようになりました。これが一番うれしい変化ですね」(石川氏)
【側島製罐】なぜ石川氏は「右腕」を作らなかったのか?
こうした変革の過程で、石川氏はあえて「右腕」を作らなかったという。安斎 勇樹氏(GAA審査員、MIMIGURI代表取締役Co-CEO)から右腕的な存在について問われると、「結論的には自分1人だと思っています。ただ、孤独だったとは思っていないです」と答えた。誰かを右腕にすれば、その雰囲気を出すこと自体が分断を生むと語った石川氏はこう続ける。
「何かの縁があって同じ会社にいる仲間なんです。休まず定時に出勤してくる人に悪い人なんかいないわけですよ。そう信じ切ってやり抜くことを大事にしました。だって毎日みんな出勤してくれるんですもん。それだけでも尊いなって思います」(石川氏)
また石川氏は「経営者は孤独だ」という“常識”にも疑問を投げかける。
「経営者はつらい思いをしないと会社経営できないみたいな一般論も、それで社会って良くなるんだっけ?って思います。みんなが楽しく経営できた方が良いに決まってるわけじゃないですか。経営者が『つらいつらい』と言っている会社で、社員が楽しめるはずがない。お互いリスペクトを全員し合って、役割があって、リスペクトし合って、そういう意味で、みんなで仕事するってすごく本質的で大事なことなんじゃないかなと思うのです」(同氏)
今後の展望について石川氏は「野望みたいなものが全然ない」と笑う。
「たとえば100億円企業になろうみたいな野心もありません。本質って、今目の前にあることをどう変えていくか、どこに問いを立てるかということだと思います。背伸びせずに、等身大で本当にその問いに向き合って、自分たちがどうあるべきか、すべきかを考えて実行していくことを繰り返し続けていくだけです」(石川氏) 【次ページ】【カワキタエクスプレス】3つのルールで「3割超」退職
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