- 2026/09/04 06:50 掲載
【単独】DXは禁句、紙も残す…福岡の運送会社が見つけた、中小企業DXの「意外な正解」(3/3)
連載:「日本の物流現場から」
「自分が動く」をやめた理由
「スタートアップ企業の時は、自分が加わることでどんどん売上が拡大していきました。ところが柳川合同に入社してから2~3カ月くらいで気が付きましたね、『これ、自分がいなくても回るな』と」(陽佑氏)
物流ビジネスの難しさであり醍醐味を、身を持って知ったのだ。
「自分1人だけが動くよりも、従業員それぞれが最大パフォーマンスを発揮したほうが、より高い効果が出るはず」と気づいた陽佑氏は、すべての営業所を巡り、「自分に何をしてほしいのか?」を聞き回ったという。
「たとえば『事務所をキレイにしてほしい』って言われた時には、掃除をするといった具合です」と振り返る。その結果、得たのが「自分はあえて動きすぎることなく、従業員全員が価値を発揮できるようにサポーターに徹する」というあり方だった。
たとえば、社内でIT研修を行った際には、タイピングの練習や、「Ctrl+C」(コピー操作)のような基本的なショートカットのレクチャーなどを実施したという。
このような(失礼ながら)低レベルのレクチャーが必要となると、最初から「ウチにはデジタル化なんか無理なんだな」と諦める経営者もいるだろう。さらに言えば、陽佑氏のような高度デジタル人材が入社したとなれば、こういった人材にシステム周りの業務を丸投げすることで、見かけ上のデジタル化を成し遂げたつもりになる経営者も少なくない。
「たとえば、Geminiを使ったGoogle App Scriptのバイブコーディングをやって見せて、次は自分で試してみるといった研修も行いました」(陽佑氏)
エンジニアスキルのある従業員は1人もいなかったそうだが、こういった地道な取り組みが功を奏し、今では従業員が制作した健康診断の再受診用アプリ(AppSheetで構築)など、複数のアプリが採用されているそうだ。
「デジタルの奴隷」にならない、中小企業DXの最適解
筆者の経験上、経営者はリーダー役の欠如を嘆き、課長・部長などの現場を統括する立場の人たちは「ウチの従業員たちは、ITツールを使いこなせない」と部下たちのIT・PCリテラシー不足を嘆く。
では、強力なデジタル人材がいれば、社内のデジタル化はドライブするのか?
陽佑氏は、「私も『あなただからできるんでしょ?』と言われたことが何度もありました。その度に『それは逃げです』と指摘してきました」と警鐘を鳴らす。
大切なのは、全従業員に対し業務改善と、その手段であるデジタル化を自分事にすることだろう。そして特に中小企業にとって大切なことは、背伸びをしないことだと思う。
ことデジタル化という観点において、陽佑氏は能力の半分も使っていないのではないか。もし自分自身で社内アプリの開発を行い、あるいは業務プロセスの最適化と、適切なシステム群の導入を行っていたら、柳川合同はとてつもないデジタル企業へと生まれ変われるかもしれない。
だが、もしこんなことをしたら従業員はデジタルの奴隷と化すだろう。継続性はなく、すべての従業員は陽佑氏の理想を追求するためのツールと成り果てる。当然ながら、こんなディストピアのような会社に未来はない。
デジタル化のものさしは一定ではない。企業ごとに、段階に応じた最適な基準を持つべきであり、陽佑氏はこれを実践してきたのだろう。
もう1つ注目すべきは、柳川合同が徹底したホワイト企業を目指している点である。「日本でいちばん大切にしたい会社」審査委員会特別賞受賞など、ホワイト企業としてさまざまな賞を獲得してきた同社では、従業員の心理的安全性が保たれ、「新たなことにチャレンジしよう」という意欲を生み出している。
柳川合同のユニークな経営については、別記事でお届けしよう。
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