空回りする日本企業のCX戦略
──最近はCXへの注目が高まり、「CXの向上」を経営課題として取り組む企業が増えてきました。こうした現状についてどう見ていますか。
田中氏:たしかにCXに取り組んでいるという企業は増えていますね。日本では、ロレアル、リクシル、マツダ、カルビー、メットライフ生命、ソニー損保、SMBC日興証券……などが取り組まれています。しかし、こうした大企業でさえも全社的・組織的に取り組めている企業は多くはありません。
たとえば、最近、顧客ロイヤルティ指標の1つであるネットプロモータースコア(NPS®)を採用する企業が増えているようですが、従来の顧客満足度調査をNPS®調査に替えるだけではCXは向上しません。顧客接点での顧客体験をいち早く調査して、顧客へフィードバック(CXの専門用語で「クローズドループ」と呼ぶ)する必要があります。
また、カスタマー・ジャーニーを書くことや割引クーポンを配布したり、商品のレコメンドをしたりすることがCXだと考えている方もいます。企業は「CXとは何か」「CXを企業の経営に生かすとはどういうことなのか」といったことを徹底的に議論するともに、正しく認識すること、マインドセットを変えることから始めなければならないのです。
倉橋氏:今後、世界中のサービスがボーダーレスに流通していくと、1人の消費者がタッチポイントを持てるサービスの総量は増加します。その結果、サービス提供側は、その中から選んでもらうというシビアな競争にさらされます。そのとき重要なのが、簡単に模倣できない優位性や価値が、サービスや事業に内包されているかどうかです。そこでキーとなるのがCXなのですが、AIやボットなどのテクノロジー主導で考えてしまう"手段の目的化"に陥る企業は少なくありません。そこは、経営がしっかりかじ取りする必要があると思います。
田中氏:倉橋さんが指摘されたことは、いろいろなところで起きています。たとえば、昨年、ある企業が「女性から支持される」ことを目標に、スマホのさらなる活用を検討したことがあります。当時、疑問に思ったのは、「なぜ、スマホありきなのか」ということでした。本来は「女性に支持されるとはどういうことか」を徹底的に調べたり、考えたりして、スマホが必要になれば、そのとき活用を考えれば良いのに、発想が逆になっていたのです。
倉橋氏:似たことは非常に多いですね。企業として取り組んでいないとマズいので取り組む。もしくは、同業他社が取り組んでいるのでウチも、というケースは少なくないと感じます。顧客を蚊帳の外に置いたこうした競争は、あまり本質的でありません。これまで、こうした競争があまりに多かったため、その揺り戻しとしてCXに注目が集まっているという見方もできるかもしれませんね。
「CXの向上」=「利益の向上」になるのか
──企業はCXに取り組む際、どのようなKPIを定めるべきなのでしょうか。
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