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- 2022/08/23 掲載
日銀が「利上げ」しても「円安トレンドは変化しない」といえる理由
2005年、第一生命保険入社。2008年、みずほ証券出向。2010年、第一生命経済研究所出向を経て、内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間「経済財政白書」の執筆、「月例経済報告」の作成を担当する。2012年に帰任し、その後第一生命保険より転籍。2015年4月より現職。2018年、参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当領域は、金融市場全般。
金融政策の現状維持に止まらない日銀批判
本題に入る前に、まず直近に開催された金融政策決定会合を振り返ろう。日銀は7月に開催された金融政策決定会合でも引き続き金融政策の現状維持を決定した。具体的には、短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導するイールドカーブ・コントロール政策を続け、また将来の政策指針を示す文言、いわゆるフォワードガイダンス(政策指針)も以下のとおり据え置いた。
新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している一部の市場関係者が削除を予想していた、将来的な利下げに含みを持たせる表現は残り、金融緩和にこだわる日銀の姿勢が改めて示された。
そうした日銀の政策態度については、マスコミ報道を中心に「円安を助長し、輸入物価上昇に拍車をかけている」との批判が強まっている。
3月下旬頃から急速なペースで進んだ円安の背景には、日米金利差の拡大がある。日本の長期金利が0%近辺に張り付き、将来的な引き上げも予想されない中、FRBの金融引き締め観測が急激に高まったことで米長期金利が上昇し、日米金利差が拡大した。
日銀に円安批判の矛先が向くのはある意味当然の帰結
6月の金融政策決定会合の直前には、金融緩和策が修正されるとの推測から、日本の長期金利に上昇圧力が生じ、一時的に円安が止まる場面もあった。しかし、日銀が緩和継続の固い意志を示したことで、そうした観測は遠のいた。こうして日米金利差の拡大観測はより強固なものになり、投資家は円売り・ドル買いのポジションを膨らませ、7月に一時1ドル=140円に迫った。この円安によって7月の円建て輸入物価は前年比プラス48.4%と大幅に上昇した。
契約通貨ベースの輸入物価はプラス25.4%の上昇であったから、約半分が円安に起因したことになる。日銀に批判の矛先が向くのはある意味当然の帰結と言えるだろう。
もっとも、為替の変動は日米金利差だけで説明することはできない。日米金利差は為替変動を説明する最もポピュラーな存在であり、現在それが材料視されていることに疑いの余地はないのだが、認識しておくべきより重要な事実がある。それは何か。
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