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AI時代、従来型ERPはもう限界? 富士通が“50年の常識”を疑った「再出発」の舞台裏
人手不足や法制度の変更、AIの急速な進化など、いま企業には環境変化へ迅速に対応できる経営基盤が求められている。ところが、企業活動を支えるはずのERPが複雑化・分断され、かえって変革を阻むケースも少なくない。「データはあるのに活用できない」「刷新したくても業務を止められない」……こうした状況から、企業はどう抜け出せばよいのか。この問題に1つの答えを示そうとしているのが、富士通だ。50年以上にわたり日本企業の基幹業務を支えてきた富士通の“再出発”と、AI時代のERPに求められる新たな役割を、同社のキーパーソンに取材した。日本企業が「変わりたくても変われない」厳しい現実
ただし、日々の業務を止めることなく変化に対応することは容易ではない。特に多くの企業を悩ませているのが、会計や人事給与、販売などの基幹業務を支えるERPだ。
実際、ERPの更新にかかる負担は、企業に重くのしかかっている。法改正や事業環境の変化に迅速に対応したくてもシステム更新が追いつかず、対応できたとしても膨大なコストがかかる。また、AIなどの最新技術を取り入れようとしても、従来の更新方法では活用できるようになるまでに数年を要してしまう。
特に中堅企業においてはシステムのサイロ化も大きな問題だ。富士通 エンタープライズ事業 ソリューションアーキテクト事業本部 GLOVIAソリューション事業部 事業部長 大金拓郎氏は、次のように説明する。
「本来、ERPは1つの大きなシステムとして導入することで価値を発揮します。ところが、その導入にはコストも時間もかかるため、特に人的・資金的な余裕の少ない中堅企業においては、会計、販売、人事給与などのシステムが個別に導入されて、結果的に部分最適化されているケースがほとんどです」(大金氏)
システムがバラバラだと、その運用も複雑になる。また、AI活用のためにデータを使おうとしても、データの在りかもバラバラであるため「データはあるのに活用できない」事態に陥る。
「もちろん、ほとんどの企業はこうした状況をなんとかしたいと考えています。しかし現実には、多くの企業が『変わりたくても変われない』もしくは『変わりたいのに変わり方が分からない』という状況に陥っているのです」(大金氏)
では、「変わりたくても変われない」状況から、企業はどう抜け出せばよいのか。その突破口として注目されるのが、新たなERPのあり方である。
“二者択一”だった従来型のアプローチ…富士通が出した答え
1つはパッケージとカスタマイズを組み合わせた形態だ。標準的な機能を持つパッケージを導入し、足りない機能はアドオン開発する。企業の細かいニーズに対応できる一方で、開発にはコストと時間がかかり、変化に迅速に対応できなくなるのがデメリットだ。
もう1つは、ERPに業務を合わせる「Fit to Standard」の形態だ。ERPの標準機能に業務を合わせることでムダを省き、全体最適を目指すのがその考え方だ。ただし、「導入におけるハードルは高い」と、富士通 ソリューションアーキテクト事業本部 オファリングイノベーション統括部 GLOVIAソリューションビジネスグループ シニアディレクター 亀浦雄氏は次のように述べる。
「Fit to Standardでは『システムを業務に合わせる』のではなく、『業務をシステムに合わせる』ことが求められます。しかし、その際に発生する業務ギャップは現場で吸収しなければなりません。つまり、システムをシンプルにする代わりに、人の作業や運用ルールが増えてしまうことがあります。結果として現場の負荷が高まり、特に中堅企業では継続的な運用が大きな課題となります」(亀浦氏)
これまで企業は、「自社の業務に合わせてERPをカスタマイズする」か、「ERPに合わせて業務を変える」かという、難しい二者択一を迫られてきた。富士通が模索したのは、その“中間”に位置する新たな選択肢だった。
「私たちは、個別のアドオン開発やカスタマイズにはできる限り依存しないアプローチを目指しました。一方で、標準機能に業務を無理に合わせることで現場に負担を強いることも避けたいと考えています。そこでコアとなる部分には手を加えず、不足する機能は周辺ソリューションとの組み合わせによって補完できる仕組みを目指しました。これにより、お客さまに大きな業務変更を求めることなく、自社に合った業務を維持しながら、導入時やバージョンアップ時の負担も抑えられると考えています」(亀浦氏)
その構想を形にしたのが、新しいERP「GLOVIA One(グロービア ワン)」だ。富士通は、これまで市場や企業規模に応じて展開してきた「GLOVIA SUMMIT」「GLOVIA iZ」「GLOVIA きらら」の3ブランドを、2026年4月に「GLOVIA One」として統合した。
異なるアーキテクチャを持つ3製品をGLOVIA Oneブランドとして統合し、会計、人事給与、販売、生産管理の領域をカバーするERPとして展開していく。そのうえで、必要な機能をAPIでつなぐ「コンポーザブルERP」の考え方を採用したという。
「GLOVIA Oneは、単体ですべてを囲い込むERPを目指しているわけではありません。コアはシンプルにしながら、富士通やITパートナーが持つ機能、他社の製品、AIを組み合わせ、お客さまに提供できる価値を広げていく。そのための“プラットフォーム”として育てていきたいと考えています」(亀浦氏)
「50年続けてきたからこそ…」富士通自身も迫られた大変革
「我々は全国に拠点を持ち、長年にわたって企業を支援してきました。その中で見えてきたのが、アドオン開発や個別最適化を前提とした大規模導入や、数年ごとの更改を繰り返す従来の導入モデルの限界です。それに代わる選択肢を提供することが、我々の責務だと考えています。その選択肢が、GLOVIA Oneなのです。GLOVIA Oneでは、継続的に進化し続けるSaaS型ERPとして、お客さまが必要な機能から段階的に利用範囲を広げられる業務基盤を目指しています」(亀浦氏)
従来のGLOVIAは、対象とする市場や企業規模に応じて3つの製品に分かれ、それぞれ別の組織が開発していた。顧客ごとに適した製品を提供できる一方、開発の知見や顧客から寄せられる声も分断されやすく、新機能を展開するスピードを上げにくいという側面もあったという。
「3製品でそれぞれ異なっていた組織を現在は1つに統合し、営業がお客さまから聞いた声を開発側へ直接フィードバックできる体制に変えています。そういう意味で、内部的な壁はなくなったと思います」(亀浦氏)
ただし、長年にわたって異なる製品を育ててきた組織を1つにまとめる作業は、容易ではなかった。製品によってアーキテクチャが異なれば、開発に携わってきた人も異なる。どこまでを共通化し、どこに自由度を残すのか。その線引きを巡って意見を合わせることにも、苦労したという。
最大の壁は、技術だけではなかった。50年以上にわたりERPを提供してきた実績そのものが、発想を転換する難しさにもつながっていた。
「50年やってきたからこそ、『ERPとはこういうものだ』という考え方が固まっていました。それをがらりと変えるのは簡単ではありません。特に、すべてを自分たちで作ろうとする“自前主義”から脱却し、ITパートナーと一緒に作っていく考え方へ切り替えることには苦労しました。これは現在進行形の変革です」(大金氏)
すでに2026年4月という提供開始時期が決まる中で、異なる3製品をどのような順序で統合していくのか、目指すアーキテクチャをどう実現するのかを詰めていった。製品、技術、組織、そのすべてを同時に変えるプロジェクトだったのである。
その転換を後押ししたのが、AIの進化と顧客との対話だった。富士通が改めて現場を見つめると、課題はシステムへのデータ入力や記録だけでなく、その後の運用にこそ残されていた。
「これまで我々は、システムを開発して提供することを中心に考えてきました。しかし、お客さまが本当に困っているのは、そのシステムを使った日々の運用です。たとえば、入力された伝票と証憑を突き合せて確認する作業があっても、従来のシステムでは帳票出力までがシステムの役割であり、その後の突合・確認作業は利用者が運用で補完することが前提となっていました。その結果、業務負荷の増加や人的ミスのリスクが発生していました。システムだけを見ていては限界がある。運用まで支援しなければならないと気づいたのです」(大金氏)
経理や購買など、企業経営を支えるバックオフィス業務は、会計ルールや社内規程、業務手順などの明確な基準に従って実施される。そのため、業務を細かく分解してAIに学習させれば、従来は人が担っていた確認や分析の一部を支援できる。
ERPを「業務を処理し、データを記録するシステム」から、「業務の運用まで支える基盤」へ変える。ただし、その実現に必要な機能や知見を、富士通だけですべて用意するわけではない。顧客やITパートナーとともに価値を作り、継続的に進化させていく──それが、GLOVIA Oneで富士通が目指す再定義である。
日本企業に合うERPとは?「共進化」を支える3つの柱
「我々は、『共進化』をGLOVIA Oneのビジョンとして掲げました。それは、日本の地域・社会で生まれた事業に寄り添い、お客さま、我々、ITパートナーがともに進化していくことを表現しています」(亀浦氏)
そして、共進化を実現するGLOVIA Oneの3つのコンセプトが「INSIGHT」「FIT TO JAPAN」「PARTNERSHIP」だ。
「INSIGHT」は、現場におけるデータ収集や分析、資料作成に必要な時間・工数をAIで短縮して、経営における迅速な意思決定を実現することを意味する。「FIT TO JAPAN」は、日本企業に最適なERPとして進化し続けることを指す。
「お客さまの中で標準化された業務、我々が日本における商習慣として『こうあるべき』と考える機能などを総合的にまとめ、標準化して、GLOVIA Oneに実装していきます。これにより、個社ごとのアドオン開発を避け、システムの複雑化を避けながら日本企業への適合を図ります。そのために、開発・導入・保守においてもAIエージェントを活用し、短期間で必要な機能を開発・実装する体制を構築しています」(大金氏)
そして「PARTNERSHIP」が、富士通やITパートナーが開発・提供する機能やサービス、知見を組み合わせて全社最適化を実現すること、さらに将来的には業務を自律的に実行するAIエージェントによって企業の持続的な成長を後押しすることを意味している。
AI時代のERPはどう進化? 求められる新たな役割
こうした構想の背景には、顧客との対話から見えてきた現場の実態がある。たとえば、富士通がある顧客企業とバックオフィス業務について意見交換した際には、Excelやマクロを使った作業が属人化し、異常な仕訳明細の発見や原因の究明が、熟練者の経験や暗黙知に依存していることが話題に上ったという。こうした人に依存する確認作業は、AIエージェントが価値を発揮できる領域の1つだ。
「会計部門では、社内規定にのっとったさまざまな確認業務があります。売上や仕入れ、経費などのデータと会計システムの仕訳情報を突き合わせ、異常がないかを確認する業務などが代表的ですが、GLOVIA Oneを利用すれば、エージェントがシステムを横断して自動的にチェックし、検知した異常についてAIを使って自然言語で分析できるように目指します」(亀浦氏)
このほかにも、販売や会計、外部データを活用した資金繰りリスクの可視化や、経営における意思決定の迅速化に貢献できるという。
冒頭に述べたように、現在、多くの日本企業は「変わりたくても変われない」「変わりたいのに変わり方が分からない」状況にある。GLOVIA Oneは、そうした状況からの脱却を目指して開発されたERPだ。
「私たちは、自らが培ってきた知見や導入事例だけでなく、お客さまやITパートナーが持つ経験や成功事例も共有できる環境をつくりたいと考えています。同じ課題に直面した企業の知見が蓄積され、それを他のお客さまが活用できる。さらに、その実践から生まれた新たな知見が再びコミュニティへ共有される。そうした学びと成長の循環を生み出すことで、お客さま、ITパートナー、そして私たち自身が共に進化し続けられるエコシステムを実現したいと考えています。その中心となるのが、GLOVIA Oneです」(大金氏)
GLOVIA Oneの進化は、まだ始まったばかりだ。今後、機能やITパートナーとの連携が拡充されることで、その全体像は徐々に明らかになっていくだろう。
重要なのは、ERPを「一度導入して終わるシステム」から「環境変化に合わせて進化し続ける経営基盤」へと捉え直した点だ。「自社の業務に合わせて作り込むか、システムに業務を合わせるか」という二者択一を超え、必要な機能や知見を組み合わせながら変わり続ける。“変わりたくても変われない”日本企業にとって、GLOVIA Oneは、その状況から抜け出すための新たな選択肢になろうとしている。