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  • 2023/07/19 掲載

想像以上にヤバい「2024年問題」、人手不足だけじゃない…物流業界が抱える“爆弾”とは

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セブン-イレブンが加工食品の即日配達を取りやめるなど、2024年問題解消に向けた物流システムの見直しが進んでいる。だが一連の問題は単に物流の混乱にとどまる話ではない。日本経済は前代未聞の人手不足時代に突入しており、経済全体の供給制限という大きな問題を引き起こす可能性がある。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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日本経済は異次元の人手不足時代に突入しているが、これが経済全体の供給制限という大問題を引き起こす可能性がある…
(Photo/Shutterstock.com)

異次元の人手不足が発生しているという現実

 物流業界では労働基準法などの改正により、2024年以降、ドライバーの労働時間が年960時間に制限される。同じ量の荷物を配送するためには、より多くのドライバーを雇用する必要があり、今の体制では現状の物流システムを維持することが難しくなっている。

 物流の効率化や雇用拡大には限度がある以上、配送頻度を減らしたり、リードタイムを伸ばすといった形で状況を緩和させる以外に目立った方策はない。この話は一般的には物流網の混乱という問題で捉えられがちだが、現実はもっと深刻である。

 物流はすべての産業と密接に関わっており、仮にごく一部であっても物流が滞ると、経済の動き全体に影響を与えてしまう。加えて今回の人出不足は従来とは次元が異なるものであり、簡単に解消することができない。そうなると経済圏全体の製品やサービスの供給に制限が加わることになり、場合によっては成長が阻害されたり、インフレを進行させる可能性が出てくる。これはもはや日本経済全体の問題となっているのが現実なのだ。

 では、なぜ今、異次元の人手不足が発生しているのだろうか。

 人手不足は以前から指摘されていたことであり、今に始まった話ではない。だが、これまでの時代は、年金制度に対する不安などから、高齢者の就業が増加しており、これが若年層の労働力不足を補い、全体の就業者数を維持してきた。ところがコロナ渦をきっかけに、多くのベテランが退職を決める一方、低賃金や労働環境の悪さから、若年層の人員確保がままならない状況となっている。ベテラン社員の離職と若年層の労働力不足が重なったことで、一気に人手不足が深刻化した図式である。

 これは構造的な人手不足であり、短期間で解消できる話ではない。そして最大の問題は、特に人手不足が懸念される業界というのは、経済全体の中で重要な役割を占めており、いわゆるボトルネックが発生しやすい業界に集中している点である。

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人手不足が懸念される業界は、経済全体の中で重要な役割を占めており、いわゆるボトルネックが発生しやすい業界に集中している
(Photo/Shutterstock.com)

一部の滞りが全体に影響を及ぼす

 ボトルネックというのは、経営学でよく用いられる概念で、製造プロセスの中の一部分が滞ってしまうと、全体のスループット(単位時間あたりの生産量)が一気に低下するという問題である。たとえば、工場の生産ラインの中で検品が占める割合はごくわずかだが、検品作業が出来なければ製品を出荷できないので、この部門がトラブルを起こすと、場合によっては生産がゼロになってしまう。

 こうした状況は、瓶の首の部分が細くなり、ここで水の流れが滞ることに見立てて「ボトルネック」と言われている。ボトルネックが発生すると、全体としては十分なリソースがあったとしても、一部の滞りが全体に影響を及ぼしてしまう。

 この問題は、経営学の世界ではごく当たり前のテーマだが、マクロ経済の分野では、あまり顧みられているとは言えない。どこかで滞りが発生しても、市場メカニズムによって別ルートが確保され、経済全体としては大きな問題にならないと考える専門家が多く、ボトルネックがもたらす影響を軽視しがちである。

 確かに経済活動が順調に行われている経済圏では、ミクロの問題は全体に影響を与えないが、今の日本のように、経済が機能不全を起こしている場合、そうはいかなくなる。介護や建設、物流、公共インフラなど、特定業界の問題であっても、それがマクロ経済に直接、悪影響を与えてしまう可能性が否定できないのだ。

 日本の就業者人口を見てみると製造業と卸小売業が最も多く、それぞれ1044万人となっている。建設(479万人)や運輸(351万人)、エネルギー(32万人)などは、就業者数からすると規模が小さい業界だが、この業界でボトルネックが発生すると、すべての産業に影響を与えてしまう。

 身近で分かりやすいケースは家のリフォームだろう。

 家の工事には手順があり、ある工程が終了しないと次の工程に進むことができないケースが多い。たとえば、何らかの理由でユニットバスの到着が遅れた場合、ユニットバスを設置してからでなければ施工できない工程は、すべて「待ち」になってしまう。こうした事態があらゆる業界で発生するので、経済全体の生産量が著しく制限されてしまうのだ。

 近年、気象状況の変化によって、大雨による鉄道の遅延や電話の不通といったトラブルが発生しやすくなっている。こうしたところに物流の供給制限が加わると、復旧にさらに時間と手間がかかる。平時であっても、メンテナンスの頻度が落ちるといった問題が発生する可能性があり、非常時の影響を大きくしてしまうリスクも否定できない。 【次ページ】このまま放置されると起きる?「2つの最悪のシナリオ」

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