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  • 2024/02/14 掲載

社員17人でも「取引先は1100社超」、長野のメーカーに「熱狂的ファン」爆増のワケ

連載:目をそらしてはいけない、製造現場のリアル

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長野県伊那市に本社を構え、メイド・イン・ジャパンの在り方を再定義することに挑戦している製品設計会社、スワニー。社員数17人の中小企業だが、新卒入社2カ月の社員が第一線で活躍するなど、30代を中心に若者たちが躍動する。それでも「熱狂的なファン(顧客)」を生み、事業を大幅に拡大させ、取引先数はなんと名だたる大手企業をはじめ1100社を超えた。同社はどのようにして、若者が活躍できる土壌を作り上げてきたのか。業界も注目する同社の取り組みに迫る。

執筆:ジャーナリスト 加賀谷 貢樹

執筆:ジャーナリスト 加賀谷 貢樹

1967年生まれ。茨城大学大学院人文科学研究科(修士課程)修了後、産業・環境機器メーカー兼商社に勤務。1998年7月に独立し、ビジネス雑誌、オピニオン雑誌、新聞等に寄稿を開始する。ビジネス・経営分野などで執筆を行うかたわら、全国の「ものづくりの街」を訪れ、各地の元気なものづくり企業や技能者への取材を多数行ってきた。著書に『中国ビジネスに勝つ情報源』(PHP研究所)などがある

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現場で働く若者が打ち合わせをしている風景。スワニーはいかにして若者が挑戦できる環境を整えたのか
(筆者撮影)

新卒入社2カ月目でも第一線で活躍

 スワニーは製品設計会社でありながら、プラスチック製品の設計・3Dモデリングから3Dプリンティングによる試作・量産、自社開発の3Dプリント樹脂型「デジタルモールド」(後述)、射出成形によるプラスチック部品の試作・量産まで幅広い業務を手がける。目指すは「日本で1番頼ってもらえる製品設計会社」だ。

 最近では「大型の樹脂部品にも対応してほしい」という顧客の声に応えるため、米3D SYSTEM社製の大型3Dプリンタ(ペレット押し出し&CNC切削方式)「EXT 1070 Titan Pellet プリンタ」を国内で初導入。日本における大型ペレット押し出し3Dプリンティングの普及に向けて同社と協業し、同プリンタを備えたデモセンター「SWANY TITANファクトリー」(同本社に隣接)を、2023年10月20日にオープンさせた。

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スワニーが国内で初導入したペレット押し出し&CNC切削方式の大型3Dプリンタ「EXT 1070 Titan Pellet プリンタ」。市販ペレットを使用可能で、従来のフィラメント方式3Dプリンタに比べて材料コストを最大1/10に削減できるという
(提供:スワニー/3D SYSTEM)

 そんなスワニーでは今、若手社員たちが現場での実践力を急速に身につけ始めている。ある社員は、新卒で入社してからわずか2カ月目で、射出成形用の簡易アルミ金型を設計し、自ら切削を行い、金型を組み立て、射出成形するところまで任せられるようになった。学生時代に機械分野を専攻していたとは言え、驚くほどの成長ぶりだ。

 ちなみに同社のエンジニアは、朝一番で顧客と連絡を取りながらプラスチック製品の設計、あるいは金属製品の樹脂化設計を進め、射出成形用の簡易アルミ金型を製作。射出成形も行い、2日間で部品を500個ほど作って出荷する。さらには、QC工程表や作業標準書の作成、量産の立ち上げ、見積もり作業、出荷作業、請求書発行までもすべてを1人でこなすのだ。

秘密は「職人を育てない」

 「10年前なら、とても無理だったと思います。これを後押ししてくれているのがデジタル化。ただし、デジタルツールをそろえるだけではできません。徹底的に標準化を進めたからデジタル化ができているのです」と、同社代表取締役社長の橋爪良博氏は語る。

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スワニー
代表取締役社長
橋爪 良博氏
 同社の標準化で象徴的なものの1つが独自の「コンパクトモールド・システム」である。射出成形用の簡易アルミ金型に装着する入れ子ブロック(注)は、成形する部品によってサイズが異なり、その種類も多くなるが、同社では4種類(S、M、L、2Lサイズ)に標準化されている。

注) 入れ子ブロックとは、金型本体(母型/おもがた)にはめ込んで使用する金属部品を指す。一般に、入れ子ブロックを使うことで材料費の削減、金型部品の取り付けや交換の簡便化、メンテナンス性の向上、保管場所の節減などにつながる。

 入子ブロックの材料となるブランク材も毎回加工するのではなく、あらかじめサイズ別に整理されて材料置き場にストックされている。そこから適当なサイズのものを取ってきて、自社開発の超小型切削加工機にセットすれば、社歴の浅い若手でも作業できるのだ。

「デジタルツールを導入したから『使いなさい』、使わなかったら『やる気がない』とか『モチベーションが低い』と判断することは良い対応とは言えません。誰でもツールを使え、仕事ができる仕組みと環境をまず作ることが大切です」(橋爪社長)

 橋爪社長はさらに、人材の育て方について、こう意見を述べる。

「『職人を育てない』という方針もあるんです。職人は、おのずと育っていくものであり、育てようと思っては駄目なのです。『職人を育てよう』と思って教育を行うと、属人化が進んでしまいます。職人が支えてきた日本の製造業ではありますが、今はデジタルネイティブの若者たちが会社に入ってくる時代。だからこそ、今までのやり方を変えなければならないと思います」

 橋爪社長は、職人そのものを否定しているわけではない。あくまで、職人気質からくる組織文化が属人化を助長してはならない、と指摘しているのだ。今には今の若者たちに合った、人の育て方があるということだ。 【次ページ】東芝らも採用、「最速で育てる」独自の仕組み

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