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- 2024/05/07 掲載
迫る農水産業の崩壊、「法令違反」でも長距離輸送する「九州の運送会社」の苦悩と本音
連載:「日本の物流現場から」
2040年に「日本の1/4」が居住不可に…?
そもそも、地方、あるいは一次産業が物流クライシスに陥ることは、以前から分かっていた。「第3回 持続可能な物流の実現に向けた検討会」(2022年11月11日開催)において発表された、「『物流の2024年問題』の影響について」(NX総合研究所)では、以下が試算されている(図1)。- 「農産・水産品出荷団体」(すなわち一次産業)では、32.5%のトラック輸送能力が不足する。
- 地域別では、中国地方が20.0%で最大。以下、九州の19.1%、関東の15.6%、中部の13.7%と続く。
ここで断っておきたいのは、トラック輸送能力不足は、「物流の2024年問題」、すなわち働き方改革関連法による残業時間規制だけに端を発しているものではないことだ。
NX総合研究所は以下の試算を提言書で発表した。「物流の2024年問題」の影響として、今でも数多くのメディアで報道されている。
- 2024年には、14.2%/4.0億トン相当のトラック輸送能力が不足する。
- 2030年には、34.1%/9.4億トン相当のトラック輸送能力が不足する。
だが実は、2. の試算には補足がある。「物流の2024年問題」の影響により不足するトラック輸送能力は、15.6%/4.0億トンであり、差分の19.5%/5.4億トンは、ドライバーの減少によって生じるものなのだ。
別の試算も紹介しよう。「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」(リクルートワークス研究所)では、2040年にドライバー不足率が24.2%に達した結果、「荷物が届くかどうか」が、人が住める地域を決めるようになり、日本の1/4の地域は事実上居住不可能になると警鐘を鳴らしている。
「物流の2024年問題」というキーワードが物流クライシスの代名詞として使われているため、世間に誤解を与えているのだが、そもそもドライバー不足を起点とする日本社会の危機は、以前から予測されていた。
そして、こうした試算や予測はすでに現実のものとして起き始めている。
九州の運送会社が「コンプラ違反」でも続ける長距離輸送
九州のある地域で、運送会社を営むA社長。A社長の運送会社は、じゃがいも、玉ねぎを中心に、トマトやいちごなども輸送している。輸送先の9割は東京と神奈川である。「そもそも、県産品として大都市圏へ出荷する前提で、県を挙げて農産物をアピールしていますから、首都圏が輸送先になるのは当然です」とA社長は説明する。首都圏を含む東名阪の商圏規模は、地方より格段に大きいのは明らかだ。本ケースに限らず、より大きな商圏を求めて首都圏へ特産品を売り込もうという地方行政の考え方は間違ってはいない。
ただ九州から東京は遠い。「たとえば、東京の大田市場まで輸送すると、4日行程で3000キロメートル近く走行することになります」(A社長)。
現行は、次のような行程で運行しているという。
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