- 2025/08/27 掲載
補助金廃止でいよいよ「EV終焉」か…購入希望も「たった16%」の全然“冴えない”未来(3/3)
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
EV補助金の廃止はどう影響?
米バンクオブアメリカ証券のジョン・マーフィー上席自動車アナリストらが6月4日に発表した予想では、2025年の新車販売台数は1650万台と堅調に推移し、2028年には1800万台まで回復する。これは、パンデミック中に実現しなかった繰り越し需要があるためだ。しかし、EVはこの繰り越し需要の恩恵を受けられない可能性がある。2025年に予定されていた新モデルの投入が軟調な需要のため急減していることに加え、税額控除の撤回で、EVの市場シェアは2025年には前年と同水準の8%、以降1年ごとに2ポイントずつ拡大するものの、2028年は14%にとどまるとマーフィー氏は予想する。
一方、ハーバード大学の気候変動・サステナビリティ研究所は3月に、(1)補助金など現状に変更なし、(2)新車EV税額控除・充電インフラ助成金(NEVI)の撤回・代替燃料施設に対する税額控除(30C)の全廃、(3)EVに対するあらゆる支援策の打ち切りの政策シナリオについて、どれほどEVの市場シェアが影響を受けるかを試算した(図5)。
それによると、政策変更なしで2030年にEVの普及率は新車販売の50%、EV税額控除・充電インフラ助成金の廃止で30%台半ば、支援全廃で30%近辺となる。極めて楽観的な予想であり、実際にはバンクオブアメリカ証券の予測に近い結果になるのではないだろうか。
消費者がEVで最重視していること
トランプ大統領の大きく美しい税制・歳出法案は、EV補助金をカットすることで、EV新車需要を押し下げる可能性がある。こうした中、メーカーによる差が注目されよう。米自動車大手のフォードは5月に、従業員向けEV優待価格やその他のインセンティブを導入したにもかかわらず、前年同月比のEV販売台数が25%も落ち込んだ。連邦補助金がまだ廃止されていない中、値下げをしても売れなかった。
ここで示唆されているのは、トランプ政権の税額控除打ち切りや、消費者のEV敬遠で、見通せる限りの将来においてEV需要が全体的に低迷することだ。
一方で、ホンダのPrologueや韓国ヒョンデのIoniq 5などは、市場規模全体を押し上げるには至らないものの、それなりに売れている。製品に魅力があるからだろう。
そうした中、EVメーカーは基本に立ち返り、「消費者がEVに何を求めているか」という、ユーザーのニーズに沿ったマーケティングを展開すべきではないだろうか。前述の2025年3月のAAAの調査によれば、EVに興味を持つ理由(複数回答)として、「ガソリン代の節約」(74%)、「気候変動」(59%)、「メンテナンス・修理費の抑制」(47%)、「税額控除やリベートによる価格優位性」(39%)、「先端技術」(22%)、「在住する州におけるガソリン車の禁止」(10%)などが挙げられていた(図6)。

これらの選択肢の多くは経済性と価格優位性に関するものだ。アーリーアダプタ需要が一巡した今、一般消費者がEVに求めているのは、まずは航続距離や充電時間などの「性能」や「信頼性」だ。しかし同時に、「経済性」もまた非常に重要視されている。
EVはついに本格的な「冬の時代」を迎えた。それでも、売れるモデルは売れている。メーカーによる魅力的な製品の開発と、経済性の顕著な向上が、米EV市場の発展のカギを握っていると言えよう。
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