• 2025/09/26 掲載

未来が現実になりはじめた----物流展にヒューマノイド登場、ダイフクも活用を模索(2/2)

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増える自動化機器を背景に「WES」の活用は当たり前に

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YEデジタルのWES「MMLogistation」


 業界を牽引するYEデジタルの「MMLogistation」を筆頭に、WMSの下で自動機器を接続して制御するための仲立ちシステム「WES」を出展する企業も増えた。WESとは何かという話については本連載バックナンバー、2022年の「「知能化ロボット」と「データドリブン」が倉庫と工場を変える」をご覧いただきたいが、3年前とはだいぶ状況が変わっている。すっかり認知度が上がり、当たり前になりつつあるのだ。それだけ自動化機器が種類も数も増えたということだろう。

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「MMLogistation」の新機能「Analyst-DWC」。各工程の進捗を予測し、人員の最適配置をサポートする

 「MMLogistation」の対応機器を増やしているYEデジタルは今回、意思決定支援ダッシュボード「Analyst-DWC」を押していた。これは作業員の稼働状況をリアルタイムで収集し、作業が遅延したり、人手が不足しているところに素早く適切な人員を回せるようにするというものだ。

 いわゆるリソースアロケーションのための意思決定支援システムである。これも最近、あちこちで耳にするようになりはじめた。「Analyst-DWC」では、それぞれの作業員のパフォーマンスも可視化されており、作業終了時間の予測まで出る。導入すれば確実に管理者の負担は減るだろう。経験とカンコツ頼みの現場作業も徐々に形式知化されつつある。

新しい機器導入時には思わぬトラブルも

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ラピュタロボティクス須藤圭佑氏(左)と日本出版販売 物流企画部 企画課 尾形萌花氏(右)によるトークセッション

 具体的事例の紹介も面白かった。たとえばスタートアップのラピュタロボティクスは自社開発の自動倉庫「ラピュタASRS」の導入事例について、実際の導入先である出版取次の日本出版販売(日販)の担当者と並んで、ミニセミナーを開催した。日販の倉庫「N-PORT新座」はWMSとしてセイノー情報サービス「SLIMS(スリムス)」を導入しており、「ラピュタASRS」はその下で、文具雑貨商品等の保管および仕分・出荷を担っている。90台のロボットが9000ビン(専用オリコン)を動かしている。


 大規模なシステムの本格運用はラピュタ側も初めてだったため、実際に自動倉庫を動かすと、思わぬトラブルも発生したという。「ラピュタASRS」は、NVIDIA Jetson ORINを搭載した独自の薄型ロボットが樹脂製の床上を走行する構造だ。車輪に特殊な構造の「メカナムホイール」を使うことで、旋回することなく前後左右斜めと任意の方向に移動できる(詳細はNVIDIAのブログ参照)。

 ところが実際に稼働させ始めると、走行に伴う車輪と床面との摩擦によって静電気が発生。ロボット制御にトラブルが頻発した。静電気の発生そのものは予想されていたが、倉庫全体が乾燥していたこともあり、その帯電の影響がラピュタ側の事前想定よりも大きかったのだ。最初は原因究明にも時間がかかったという。その後、静電気をアースして逃すことで解決した。

 新しい機械を動かすと、たいてい何かしらは起こるものだ。現在は順調に稼働しているそうだ。理想と現実のギャップにぶつかり、乗り越えた話は興味深い。

ヒューマノイドによるソーターとの連携 セミオートからフルオートへ?

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日建リース工業とDamonによるセミヒューマノイドを使ったソーター投入

 このように、現状の物流は自動化機器と人手を組み合わせた「セミオートメーション」が主流となっている。現時点では妥当な解決手段だ。

 この物流展に「次世代の技術」として、ヒューマノイドが出展された。構図は少しややこしいが、野村不動産による自動化・省人化による課題解決に取り組むためのコンソーシアム型のオープンイノベーションプログラム「Techrum(テクラム)」のパートナー企業17社による共同出展ブースのひとつ、日建リース工業による展示の一部である。

 日建リース工業とコラボしてヒューマノイドを出したのは、中国の総合物流システムインテグレーターDamon(デーモン、徳馬科技)。実際に使われていたロボットは「Damonロボット」とされていたが、AGIBOT(智元機器人)のセミヒューマノイド(上半身型で下半身は車輪移動型)だ。頭部の3つの広角カメラとRGB+Dカメラ、両手首のカメラを使って物体を認識する。

 AGIBOTはEnd-to-Endでのロボット基盤モデルを作るための大規模なデータ収集を行っていることでよく知られている中国のユニコーン企業である。上海の同社オフィスでは100台単位のロボットを人が遠隔操作することで多種多様な動作データを膨大な量、収集しているという。


 Damonはこのデータ収集に協力している。今回の日建リース工業ブースで行われていたデモも、このような大規模な動作データ収集によって実現した。具体的には、パック詰めされた封筒などの荷物をバーコードが読めるように正しい向きにそろえて、仕分けを行うDamonのフラッシュソーターへと投入していくというものだ。フラッシュソーターはバーコードをスキャンし、注文情報を取得して、カートが荷物を仕分け口へ振り分ける。実際に物流倉庫では、このようなオムニソーターに投入する作業が人間によって行われている。米国Figure社が動画で披露しているデモとも、よく似ている。

 封筒は柔らかいので変形する。またそもそも異なる形のものばかりだ。ロボットはこれらに対応して連続作業が可能だ。広げないとバーコードが見えない場合もあるので、それをきれいに広げてソーターへと投入していく。最大で5kgまでの重量物に対応でき、ロボットの連続稼働時間は5時間。仕分け精度は「99.7%」とされていた。日建リース工業は国内代理店である。

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Damonは独自ブースも出展していた

 このようなソリューションが国内で公開されたのは今回が初めてである。「現在は開発段階であり、将来的な可能性としての提案」とのことだった。現時点ではロボットの作業速度は遅い。だが生成AI登場後のAIの進展速度は速い。今後、ロボット分野においても、ロボット基盤モデルの性能そのほかによって、急激に状況が変わる可能性がある。

 しかもロボットならば、人の割り振りや訓練など雇用に関連する手間がない。会社にもよるが、物流倉庫のなかでの業務は細分化されていて、臨時雇用でも、すぐに対応できるような仕事も少なくない。「DASへの投入にはちょっとした訓練が必要だが、そういった仕事であればヒューマノイドが代替できるようになる可能性があるのではないか」というのが日建リース工業の担当者の見立てだった。

 少なくとも今後起こるかもしれない大きな変化に対して、準備しておいたほうがいいということだろう。実際に導入されるときがきたら、おそらくはSaaS、あるいはRaaSモデルで提供されることになるのだろう。

我々は新しい変化の時代の入り口に立っている

 本連載のバックナンバー「転換期を迎えたロボット・フィジカルAI開発、AIとシミュレーションがもたらす変化」でも述べたが、生成AI、基盤モデルの登場によって、ロボット開発の姿が、いま大きく変化しようとしている。認識、プランニング、実行とそれぞれ人がプログラミングしていたものがニューラルネットワークに置き換えられ、さらにはEnd-to-End、つまり全て一気通関で一つのモデルで処理させるという研究も爆速で進んでいる。AI自体に物理的なセンサーやアクチュエーター情報を処理させる「フィジカルAI」「エンボディドAI」といった言葉も、徐々にだが普及しつつある。

 AIロボット協会も立ち上がって国の予算も投じられるが(「ロボット開発の壁を破るか? 300億円超を投じる国産オープンソフト基盤の勝算は」)、残念ながら、今もまだ日本の反応は鈍い。「激動の海外のヒューマノイド事情 置いてけぼりになった日本が取るべき戦略は?」で触れたように、海外における日本の存在感も薄くなりつつある。機械学習系の学会でも同様の傾向があると聞いている。

 だが、ついに国内の物流展示会にもヒューマノイドが現れた。「とりあえず触ってみよう」と考える企業も、徐々に出てくるだろう。かつて産業用ロボットであったように、開発では遅れを取ったとしても、「現場での活用」では日本がトップに立つといった姿も考えられなくはないと筆者は思っている。

 現在のロボット基盤モデルや機械学習技術の進展によって、ロボット自体の性能がどこまで伸びるかはわからない。米中企業への投資は集まっているものの、活用分野やプレイヤーのエコシステムがどこまで広がるかも未知数だ。

 しかし倉庫や工場といった現場を超えて、産業そのものの風景が、AIとロボットによって変わり始めていることは確かだ。私たちは今、新しい時代の入り口に立っているのかもしれない。

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