• 2025/12/22 掲載

【独自】ホンダは「空飛ぶクルマ」をいつ飛ばす?eVTOLで示す“全電動ではない”答え(2/2)

連載:北島幸司の航空業界トレンド

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「全電動では飛べない」ホンダのeVTOLが示した“現実解”

 ホンダは今回のeVTOLで「ハイブリッド方式」を採用している。この選択の背景には、自動車業界における豊富な経験が深く関わっている。

 世界の自動車産業で電気自動車(EV)の開発が急速に加速した時期でも、トヨタをはじめとする日本メーカーは航続距離やエネルギー効率の課題を見据え、ハイブリッド自動車(HV)を重視した開発を継続してきた。この戦略は、限られたエネルギー資源を効率的に使用し、現実的な航続距離を確保するという点で、市場から高い評価を得た。

 ホンダが開発するeVTOLにおいても、このハイブリッド戦略が踏襲されている。これは、東氏が「バッテリーはエネルギー密度が低いです」と説明するように、全電動(BEV)では実用的な航続距離や積載量を確保することが極めて困難であるという技術的な制約が背景にある。

 航空機の分野、特にeVTOLが目指す都市間輸送では、ハイブリッド機体の優位性が際立つ。バッテリーのみに依存する全電動機体と比べ、ガスタービンエンジンと高回転ジェネレーターを組み合わせた高効率な発電システムであるターボジェネレーターを搭載することで、より長く、より遠くを飛ぶことができるためだ。航空機において、エネルギー密度が低いバッテリーよりも、燃料を燃焼させて発電するシステムの方が、エネルギー搭載量あたりの重量効率が格段に優れているためだ。

 東氏は、このハイブリッドシステムこそが市場で求められる“現実的な解”であるとし、「価値はレンジ(航続距離)にあります」と断言している。

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ホンダのブース。右側の機体がモックアップで、左側の黒い機体は1/3のサブスケール試験機
(写真:筆者撮影)

空飛ぶクルマの“常識”を覆す設計とは

 ホンダのeVTOLは、設計哲学においても独創的である。それは、ホンダのモノづくりを貫く「MM思想(マン・マキシマム/マシーン・ミニマム)」、すなわち「人のためのスペースは最大に、機械のためのスペースは最小に」というイズムである。東氏は、「特に居住性や乗降時の快適性を重視し、キャビンのヘッドクリアランスを広く取りました」と強調している。

 公開された実物大のキャビンモックアップは、この思想に基づき、「人中心の設計」となっている。キャビンのデザインには、自動車部門のデザイナーが参画しており、最大でパイロット1名とモックアップでは乗客4名の座席が設定されており、将来的には最大6名までの座席が設定可能になるように設計を進めている。

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フルスケールのキャビンモックアップ。右手前にあるのは、発電システムとなるターボジェネレーター
(写真:筆者撮影)
 比較的低高度での運航を想定している点も特徴だ。巡航高度は4000フィート(1200m)から6000フィート(1800m)、最大1万フィート(3000m)までの非与圧飛行を想定している。

 このハイブリッドeVTOLが実現した場合、日本の都市間輸送のあり方を根本的に変える可能性を秘めている。

 限られた滑走路を持つ空港に依存せず、現存する都市部や地方のヘリポートから垂直に離着陸できるハイブリッドeVTOLは、長距離の航続能力を持つことで、日本の複雑な地理的条件や都市間のアクセス課題を解決する手段となることが期待される。

 米国での開発においても東氏は「マンハッタンからJFK空港などの都市内輸送だけでなく、ニューヨークからワシントンD.Cやボストン、ロサンゼルスからラスベガスなどの大都市圏輸送も視野に入れています」と話す。

2026年初飛行・2030年代商用化、ホンダが描くロードマップ

 ホンダは、このeVTOL開発について明確なロードマップを提示している。「2026年春に初飛行を目指し、その後の型式証明取得プロセスを経て、2030年代早々に商用飛行を開始することを目指しています」(東氏)と話した。

 生産体制についても、既存のHondaJetの製造・品質管理ノウハウを活用することが計画されており、工場はジェット機と共に運用される可能性が高い。HondaJetの成功に続くことが期待されるこのハイブリッドeVTOLは、長距離飛行が可能な次世代のエアモビリティとして、都市間移動の未来像を塗り替える存在となることを目指して開発が進められている。

 ホンダは、ドバイエアショーでの公表を皮切りに、この革新的な技術と設計思想をもって、世界のエアモビリティ市場における確固たる地位を築くことに挑戦していくだろう。その挑戦が、空の移動を「一部の特別なもの」から「日常」に変えられるのか、答えは2030年代に明らかになる。

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