- 2026/08/14 06:50 掲載
【単独】AI社長・AI製造部長が凄い…愛知の旭鉄工が「勘と経験の工場」を変えた舞台裏(2/2)
【事例】改善ゲームなど「3つの生成AI活用」
AIの活用は、AIキムテツやAI製造部長だけにとどまらない。木村氏自身は、改善の考え方を学べるゲームも開発した。このゲームでは、業務上の問題点に対して、考えられる改善策を入力すると、回答が採点される。外部企業に開発を依頼すれば、相応の手間と費用がかかるが、シンプルな試作品とはいえ、従業員が1日で作ったという。
さらに、工場以外のデスクワークでもAIによる改善を推進。たとえば、従業員が上司に書類を提出する前に、AIで内容を確認する取り組みだ。誤りや不十分な点を事前に修正できれば、提出後に上司が細かな間違いを指摘し、部下が修正するというムダなやり取りを減らせる。
また木村社長への取材やインタビュー依頼への対応にもAIを活用。依頼先に必要な文字数とテーマを事前に確認し、それを基にAIが回答案を作成する。
もちろん、AIの回答をそのまま使えるわけではないが、60~70点程度の下書きにはなるという。完成した回答を依頼側が記事制作に活用できるため、木村氏と取材者の双方の負担を減らせる。
このように旭鉄工では、工場の改善だけでなく、企画、文書作成、社外対応といった間接業務にもAIの活用範囲を広げているのだ。
研修ではない…生成AI活用を「社内で広げた秘密」
一方、企業がDXを推進する際には、社内の温度差が課題になりやすい。積極的にデジタルツールを使う従業員がいる一方で、懸念や不安を抱き、利用に消極的な従業員もいる。そのため、多くの企業では研修や勉強会を実施し、利用率を高めようとする。ただし、旭鉄工は異なる考え方を持っている。「まずDXに関心がない人はいくら説得しても、関わろうとしないでしょう。それならデジタルを積極的に活用したい人と組んで、小さな実績をだんだん積み重ねていく方が、利用率は向上すると感じます。DXに必要なのは、人の説得よりも改善した実績です」
全員を一斉に動かそうとするのではなく、まず意欲のある従業員と小さな成果をつくる。その実績を社内に示すことで、DXを徐々に広げていく考え方である。
組織全体で改善を推進する上では、報酬制度などが注目されることもある。しかし旭鉄工では、制度以上に上司の振る舞いが重要だと考えている。
「私がこのように反応すれば、従業員がデータによる改善に取り組んでくれるだろう、ということを実際に行うわけです。たとえばSlackに改善策を投稿してくれたら、いいねのリアクションだけでなく、簡単なコメントを書けば喜んでくれるでしょう。もちろん私自身にとってもうれしいですし、従業員も褒められればうれしいですよね」
実際に木村氏は、猫の自動給餌器を使った改善に社長賞を授与。このように、自発的な改善に対し、会社が評価する姿勢を明確に示すことで、AI活用を含めた改善活動を組織全体に広げている。
このほか、生産状況をデータで見える化することで、改善の成果が目に見えるため、従業員からは「改善をゲーム感覚で楽しめる」という声も上がっているという。
年10億円の改善を生んだ「AIファースト経営」の根底
木村社長が2013年に旭鉄工へ入社して以降、同社はセンサーを活用したデータ収集、IoTによる見える化、データを分析して改善につなげるDX、そして生成AIの活用へと段階的に取り組んできた。その結果、生産性の向上や労務費の削減を実現し、会社全体の体質を変えている。旭鉄工の改善は、一度の大規模なシステム導入によって実現したものではない。現場の課題を見つけ、小さな対策を試し、結果を確認しながら次の改善につなげるという積み重ねによるものだ。
その根底には、「失敗は成功に至るまでの調整である」という木村社長の考え方がある。失敗を恐れて議論を続けるのではなく、まず実行し、結果を見ながら修正する。この姿勢を長年継続したことが、年間10億円規模の改善につながった。
木村氏の著書『付加価値ファースト』『AIファースト経営』のタイトルにも使った「付加価値ファースト」と「AIファースト」を社長自らが掲げ、AIを目的ではなく改善の手段として使い続けてきた成果と言えるだろう。
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