• 2025/12/29 掲載

【ついに来る】AIの進化が“2026年”に止まる? データ枯渇よりヤバい「本当の限界」(2/2)

連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質

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【2025年】歴史上で前例ない「AIの負の側面」に焦点

 AIの影響がこれほどまでに大きくなった理由は、それが特定の用途に限定された技術ではないからだ。それは研究、教育、医療、行政、金融、軍事などの分野を横断的につなぎ、人間の意思決定や知的活動の内部にまで入り込んでいる。

 “ChatGPT is a GPT”と言われるように、とりわけChatGPTに代表される生成AIは、GPT(General Purpose Technology:一般汎用技術)なのである。文章や会話、そして画像や動画を生成する能力を通じて、人間との高度な意思疎通を可能とし、「考える」「書く」「判断する」という行為そのものを再定義し始めている。

 しかし『TIME』は、AIに感情移入した若者が自殺に至ったという痛ましい事例を取り上げ、AIが人間に壊滅的な影響を及ぼす可能性を指摘。AIの負の側面にも踏み込んでいる。この点は、技術論を超えた重要な示唆を含んでいる。

 人類はこれまで、多くの機械を発明してきたが、機械に人格を感じて情緒的な関係を結ぶという経験は、ほとんどなかった。ましてや、機械との関係性の中で生死に関わる選択がなされるという事態は、人類の歴史で前例がない。

 生成AIは単なる道具ではなく、疑似的な「対話主体」として人間に認識され始めているのだ。人はAIに質問し、助言を求め、時に共感を抱く。これは、蒸気機関や電気、コンピューターとは質的に異なる技術体系である。

 AIは人間の外部にある装置ではなく、内面の思考や感情に直接作用する存在となったのだ。この点にこそ、生成AIの本質がある。

【2026年】AIの2026年問題の「本質が超重要」

 以上で述べた状況を考えれば、2025年を代表するトピックとしてAIが選ばれたことは、ごく自然だ。実際、1年を通じて、新聞やニュースで「AI」という言葉を見ない日は一度もなかった。

 2025年は年末になっても、OpenAIが新しいモデルGPT-5.2を発表して、競合するグーグルを引き離そうとするなど、活発な動きがあった。このモデルでは、従来のAIの欠陥であったハルシネーション(誤った回答)を大幅に減少させたとしている。こうした活発な動きが、2026年にも続くと考えている人は多いだろう。

 一方で、AIの進化が今後もこれまでの延長線上で続くか否かについての疑問が広がっている。最近注目されているのが、「2026年問題」だ。これは、AIの急速な進歩が学習データの枯渇という構造的制約に直面するというものである。

 これまでの大規模言語モデルは、モデルを巨大化し、より多くのデータを学習させることによって性能を高めてきた。しかし、この手法は永続的でないというのだ。

 AI研究の権威であるスチュアート・ラッセル氏は、2023年の国際電気通信連合の国際会議において、「モデルの巨大化とデータ拡張に依存する流れは終わりに近づいている」と指摘した。

 実際、GPT-4の学習には、公開web上のテキストに加えて、非公開文書を含む膨大なデータが用いられてきた。その総量は人類がこれまでに書いた書籍の量に匹敵すると言われる。

 しかし、AIの進化を分析する研究機関EPOCH AIは、高品質なテキストデータは2026年頃に枯渇し、低品質なデータも2030年代以降に限界を迎えると予測している。画像や動画データについても、同様の問題が生じるとされる。

 この問題は、単なる情報量の制約にとどまらない。著作権や個人情報保護といった制度的制約が、AIの学習可能領域を急速に狭めている点も重要だ。クリエイターや新聞社、出版社は、自らの著作物が無断でAI学習に利用されることに強く反発しており、画像や動画、有料記事を巡って訴訟や利用差し止めの動きが顕在化している。

 技術的限界と社会的制約が同時に進行している点には、「2026年問題」の本質がある。

【2026年】AIの進化は終わるのか? どう向き合うべきか?

 もっとも、これをもってAIの進化が終わると結論づけるのは早計とも言える。むしろAIは、量的拡大の段階から質的転換の段階に入りつつあると考えることができる。

 実際、合成データの活用や、特定用途に特化した小規模モデルの活用、限られたデータから効率的に学習する新たな手法など、別の進化経路が模索されている。進歩の速度は鈍化しても、AIが社会に浸透する度合いはむしろ深まる可能性もある。

 基本的な問題は、AIを誰のために、どのように使うのかという点にある。AIは生産性向上の切り札と見なされがちだが、その恩恵が自動的に社会全体に行き渡るわけではない。

 中間的なホワイトカラー職の代替、リスキリング費用の負担、データと計算資源を握る巨大企業への権力集中など、経済的・社会的な歪みは拡大する恐れがある。AIは成長を促進する一方で、不平等を増幅する可能性を併せ持つ。

 『TIME』誌が「AIの設計者たち」を選んだことは、AIがもはや技術者だけの問題ではなく、経営者、政策担当者、そして市民1人ひとりが向き合うべき存在になったことを意味する。AIは人類の能力を拡張するのか、それとも人間を置き換えるのか。その行方は、アルゴリズムではなく、人間がどのような制度と価値観を選択するかにかかっている。

 AIは歴史の転換点にある。その未来を決めるのは、技術そのものではなく、人間の判断だ。

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