メインフレーム/ミッドレンジサーバー利用者必見 「段階的クラウド移行」に見るインフラモダナイゼーションの最適解
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メインフレームとミッドレンジサーバーユーザーが直面する課題
メインフレームだけでなく、ミッドレンジ帯のハードウェアについても同様だ。かつてはAS/400などのオフコンや、UNIX系OSを搭載したハイエンドサーバーなど、さまざまなラインアップが企業向けコンピューター市場をけん引してきた。現在はダウンサイジングやオープン化の波を受けつつ市場規模が縮小しているが、今でも多くのユーザー企業が最新のハードウェアへと更新し、その上で動くアプリケーションも継続利用している。
ところが、システムのクラウド移行が進む昨今では、限界も見え始めている。ハイブリッドクラウドやマルチクラウドの活用、AIやデータの活用といったトレンドが現れる中、こうしたハードウェアのユーザー企業は旧来のアーキテクチャー上で作りこまれたIT資産を最新のデジタルに適合させることが難しい状況となっている。そう語るのは、キンドリルジャパン プラクティス事業本部 コアエンタープライズ & zCloud事業部長 理事 中尾友謙氏だ。

理事
プラクティス事業本部
コアエンタープライズ & zCloud事業部長
中尾 友謙 氏
「クラウドシフトの重要性が指摘されて以降、WindowsやLinuxといったIAサーバーの領域では多くのシステムにてクラウド移行が進んできました。しかし、メインフレームやAS/400、ネイティブUNIXなどの環境では、マルチクラウド環境に移行させるにあたりシステムを刷新して作り変える必要があり、多くの企業が二の足を踏んでいます。モダナイゼーションしたいと思いつつも、自社のデータセンターやオンプレミス環境に古いアプリケーションが残る状況です」(中尾氏)
オンプレミスのハードウェア運用にて生じる3つの課題
まずクラウドとの接続性という部分では、アプリケーションをクラウドサービス上の機能と連動させるニーズが高まっている中、レガシーなアプリケーションではシステムが「うまく接続できない」またはオンプレゆえに「クラウドとの距離が遠い」という問題が生じる。特にAIを用いたアプリケーション開発では、クラウドサービス事業者が提供するエンジンや開発環境を活用するケースが多いが、AIの学習に用いるデータがオンプレミス環境にあることでパフォーマンスに影響が出てしまう。
人材面では、メインフレームやIBM iシリーズ、AIX関連の保守ができる人材が退職してしまい、システムを保守することが今後より困難になっていくだろう。ただでさえIT人材の確保自体が難しい中、多くの企業は新たな人材を競争領域に近いクラウドやアプリケーション開発領域に振り分けたいと考えるのが普通である。古いインフラの維持や保守のために人材を割くのは、決して簡単ではない。
セキュリティ面について、メインフレームや商用UNIXのシステム単体で見ると、WindowsやLinuxのシステムと比べると安全性は極めて高いものの、昨今では攻撃手法も巧妙・複雑化して内部からの情報漏えいも増加しており、ハードウェア単体のセキュリティに頼るのでなく、ネットワークやアクセス経路全般を含めた複合的な対策が必要となる。それを踏まえると、企業が自前で完全なサイバーセキュリティ対策を施し続けることは、コスト面を含め負担が大きい。
段階的なクラウド移行アプローチで一歩目を踏み出す
「自社のオンプレミス環境にハードウェアを保有する限り、製品開発の終了や保守切れ問題に悩まされ、資産を維持するためにリプレース時に毎回大きな費用と手間がかかってしまいます」と中尾氏は指摘する。
そうした中で、これからの時代に適合したITインフラのモダナイゼーションを図る上ではクラウドの活用が現実的な選択肢となる。そして、多くの企業が「モダナイゼーションを行うべき」という認識は高まりつつもその第一歩を踏み出せていない現状に対して、「段階的な移行」が有効な打ち手になると、キンドリルジャパン クラウド事業本部長 執行役員 橋本寛人氏は説く。

執行役員
クラウド事業本部長
橋本 寛人 氏
「オンプレミス環境を刷新し続けるより、変化が激しい昨今のビジネス環境では、拡張性や柔軟性を備えたクラウドの利用を念頭に置いたインフラのあり方をきちんと見直していくべきです。さまざまなテクノロジーが日進月歩で進化する中で、レジリエンスを確保しつつ、そうした最新テクノロジーを最大限に活かせるインフラへ少しずつ置き換えていくことがポイントです」(橋本氏)
IBM PowerのAzure移行の障壁を低減するソリューション
まずメインフレームユーザー向けには、キンドリルが運用するIBM Z向けマネージドクラウドサービスである「zCloud」を用意している。これは既存のIBM Z環境をそのままキンドリルのクラウド上に移行できるソリューションだ。メインフレーム上のアプリケーションの大幅な改修を回避するほか、メインフレームに保存されていた大規模かつ重要な基幹系のデータをクラウド環境に移植することで、クラウド側のAIとの親和性も向上する。さらに、他の各種クラウドサービスとの高速接続によって、それらが提供するPaaSメニューも低遅延環境で活用できる。
「昨今メインフレームマイグレーションがバズワード化していますが、メインフレームを完全に脱することは簡単ではありません。そのため、当社としては、残すべきものは「zCloud」上の新しい環境で維持しつつ、パブリッククラウドを組み合わせてシステム環境を段階的にモダナイズしていく形を推奨しています。お客様のワークロードの特性に合わせて将来的に最適なアプローチを提供することができます」(中尾氏)
同様のアプローチがミッドレンジサーバーでも可能だ。キンドリルは2024年にIBM iやAIXなどIBM PowerのワークロードをMicrosoft Azure上に移行する「Skytap」を買収したことで、より多彩な選択肢を顧客に提供できるようになっている。
これまで、上記のワークロードをクラウドへ移行する際は、アプリケーションをLinuxベースなどで再構築する必要があった。しかし、このSkytapではAzure上にIBM Power環境をそのままホスティングすることが可能になる。
レガシー環境を維持しつつDXに適した基盤を構築可能
「既存システムの改修を最小限に抑えながら、ITインフラのコストを、資産を持たないOPEXモデルに移行させることができます。オンプレミス特有のハードウェアの制約から脱却することで、ビジネスの需要に応じたITリソースの縮退も可能。またクラウド環境を活かしたDR環境構築で、事業継続計画(BCP)強化をより実現しやすくなります」(橋本氏)
さらにSkytapは、2025年秋に新たに東京と大阪リージョンでの利用が可能となる。データを日本国内のデータセンターで保持したいというガバナンスの観点やデータ通信のレイテンシーの観点からも、より日本企業にとって利用しやすいソリューションとなっている。
「こうしてクラウドリフトしたその次のステップとしては、システムをLinuxやWindowsベースに刷新したり、Azureが提供するAIやデータ、セキュリティなど各種機能を活用して最新のクラウドネイティブなモダンアプリケーション開発を行ったりするという段階的なアプローチが可能です。そこでは、Skytap上のIBM Power環境にデータを置きながら、リアルタイム性を備えたハイブリッド型のアプリケーションの開発も可能です」(橋本氏)
コンサルティングフェーズから運用まで
「キンドリルはIBMのインフラサービス事業を引き継いだ会社なので、IBM ZやIBM Powerの専門知識を有する技術者が多く在籍しています。既存の仕組みの勘所を踏まえたうえで、コンサルタントが最適なモダナイゼーションジャーニーをプランニングし、実際の移行およびその後の運用まで支援可能です。移行に際しては、メインフレームのCOBOLやPL/1で書かれたコードのリファクタリングを行うほか、関連会社やパートナーと連携することでアプリケーションの再構築も対応できます」(中尾氏)
「我々はモダナイゼーションジャーニーのトラステッドアドバイザーとして、共に歩んでいきたいと考えています。その際に、お客様にはシステムを『刷新する』のではなく、『進化させていく』という考え方で臨んでいただきたいと考えています。一歩、踏み出していただければ、あとは我々が運用フェーズまで導きます」(橋本氏)
現在、国内ではまだメインフレームは数百台、UNIXサーバーは数千台が稼働していると言われている。長い歴史のある製品の技術と最新技術の双方の知見を活かしたキンドリルのサービスモデルは、まさにこうした製品のユーザー企業にとって有益なものとなるだろう。