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- 2024/09/30 掲載
三菱重工「MSJ」中止から1年、2035年国産航空機事業「成功のカギ」とは
連載:「北島幸司の航空業界トレンド」
MSJの失敗と下請けに安住する日本の航空宇宙工業
日本航空機製造(NAMC)のYS-11が世界で飛んでいた1950年ごろ、日本の航空機産業は、世界の航空機製造において一翼を担うことが期待されていた。しかし以降50年、小型の民間機として製造された三菱MU-2、富士重工FA200、三菱MU-300(飛行順)を除き、旅客の定期輸送に適する新たな国産旅客機が飛ぶことはなかった。その後、日本の航空機製造の再開として大いに期待されたMSJプロジェクトは、完成間近になりながら技術的な課題や市場競争の激化により、2023年2月に事業を断念し、最終的に機体は世に出なかった。この失敗は、日本の航空機産業にとって大きな打撃であり、再挑戦のハードルを高くしている。
YS-11の製造が中止された1973年以降、日本は半世紀以上にわたりボーイングやエアバスなどのメーカーの下請けに安住しているのだ。
日本の航空宇宙工業の生産額は、世界のGDPランキングに対して規模感が非常に小さいという現状がある。日本はGDPでドイツに抜かれたとはいえ、先進国の中でも高く、世界4位の位置にいる(図1)。
しかし、航空宇宙工業の生産額では主要6カ国のうち6位なことに加えて、その額はかなり低い(図2)。日本の生産額は米国の6%でしかなく、対仏でみても20%だ。
ただ、暗い話ばかりではない。そのような中でも機体を構成する航空機装備品では、世界で高い評価を得ている企業がある。ナブテスコ、パナソニックアビオニクス、ジャムコ、東レの製品について紹介する。
世界で高い評価を得るナブテスコ、パナソニックアビオニクス
・ナブテスコナブテスコは、航空機用制御システムの分野で高いシェアを持つ。特に、操縦用では主翼の補助翼や尾翼の昇降舵(だ)などの可動翼を作動させ、機体の飛行姿勢を制御するシステム(FCAS)で強みを発揮している。国産機への装着率は100%だという。
「ボーイング機においては、現行の777、767、量産が終了した747-8に加え、737MAXにおいて一部、フライバイワイヤー方式に変更されたスポイラーアクチュエーター(電気エネルギーでスポイラーを動作させる変換装置)、開発が進む777X向けのFCASを取り扱っています」(同社航空宇宙カンパニー談)
同社は、航空機の可動システムが油圧から電気に変換される過渡期に、先端技術を身につけた企業として、他社に先んじている。
・パナソニックアビオニクス
パナソニックアビオニクスは、乗客が機内で映画や音楽を楽しむための機内エンターテインメントシステム(IFE)の世界的なリーダーである。最新の「コネクト」と呼ばれるインターネットシステムを装備するシステムのシェアは、70%を超えるといわれる。
パナソニックアビオニクスを傘下に持つ、パナソニック コネクト マーケティング部のレイノルズ・ジュダ氏は、次のように語る。
「最新型システム『アストローバ』は、世界初の有機LED画面を備えたシステムです。また、5月にコンセプトモデルとして、最先端でありながら実現可能(Most Advanced Yet Achievable)との意味を持つ『マヤ』を発表しました。これは、45インチの曲線画面を特徴とするデザインで、乗客に没入型の視覚体験を提供します」(ジュダ氏)
また、同社では、安定したWi-Fiコネクトの技術も確立されつつある。現在は機内からのリモートへの接続は不安定だが、今後は機内からのリモート会議への出席がスムーズになるかもしれない。 【次ページ】世界シェア50%のジャムコ、レノボとリサイクルを進める東レ
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