• 2025/11/29 掲載

「子育てもあるし、大変だろう?」──上司の“善意”が私のキャリアを奪った日

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「良かれと思って言っただけなのに…」そのひと言が、同僚や部下のキャリアを追い詰めているとしたら。ある30代女性も、そんな「善意のハラスメント」に苦しんだ1人だ。女性が働きやすいはずの職場で、気づけばキャリアの選択肢を狭められていたという。多くの職場で起きているこの問題は、無意識の偏見「アンコンシャス・バイアス」が原因だと、社会保険労務士の村井真子氏は指摘する。『職場問題ハラスメントのトリセツ ~ 窮地の前に自分を守る、取るべきアクションと相談のポイント』を上梓した村井氏が、事例とともに解説する。
執筆:社会保険労務士、キャリアコンサルタント 村井 真子

社会保険労務士、キャリアコンサルタント 村井 真子

経営学修士(MBA)。家業である総合士業事務所で経験を積み、2014年、愛知県豊橋市にて独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所等での行政協力業務を経験。地方中小企業の企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築、ハラスメント対応に従事。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイングを追求するとともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問として活動している。著作に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)、漫画原作に『御社のモメゴト それ社員に訴えられますよ?』(KADOKAWA)、監訳に『経営心理学 第2版』(プロセス・コンサルテーション)ほか。

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「あなたにしかできない仕事をしたらいい」にモヤモヤ…本当の問題点はどこにあるのか
(Photo/Shutterstock.com)

無自覚に自分が「絶対に正しい」と事実を歪める人

 「アンコンシャス・バイアス」は自分では気づかないうちに生じる認知の歪みや偏見のことで、「無意識の偏見」と訳されるものです。人間の脳は、無意識に事実を歪めてしまうことがあります。無意識のうちに生じる歪みなのでアンコンシャス・バイアスがあること自体は仕方のないことですが、アンコンシャス・バイアスの存在に無知であったり、またはアンコンシャス・バイアスが強い人は、無自覚に自分の考え方・ものの見方が「絶対に正しい」として、他人に押し付ける傾向があります。

典型的な行動例:
  • 「普通○○だ、当然……だ、□□すべきだ」という口癖があり、異なる意見を
    受け付けない。
  • 自分の判断が公平で最良のものであるという根拠のない自信がある。
  • 過去の経験や自分の固定観念に基づき、無意識に他人を批評・選別する。

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【画像付き記事全文はこちら】
「~すべき」が口癖、根拠のない自信、固定観念で批評…周囲に心当たりはないだろうか
(Photo/Shutterstock.com)

「女性は子育てをしていればいい」という意味?

 上司の発言にモヤモヤしていて相談します。私の職場は「女性の働きやすい職場づくり」を掲げており、急な欠勤にも対応してくれて、育休は平均2年取得可能と、地域でも人気の企業です。でも、男性に比べて女性の昇進は遅いし、今後のキャリアアップの道もなさそうです。就労のモチベーションが落ちていることを定期面談で上司に伝えたところ、「女性は仕事だけがすべてではないでしょう。せっかく授かった子どもさんなのだから、あなたにしかできない仕事をしたらいいと思う」と言われました。子どもがかわいくないわけではありません。でも、同期の男性は出張や展示会に飛び回っているのに、自分を含めて子どものいる女性は顧客対応から外され、いつの間にか情報が届かない、意思決定に参加できない状況に置かれているように感じます。上司に悪意がないことは理解していますが、「女性は子育てをしていればいい」という意味に聞こえます。これはマタハラではないのでしょうか。
──アヤ(30代・女性)

 アヤさんの状況は「マイクロアグレッション」を受けていると言えます。アンコンシャス・バイアスから生じる、否定的なメッセージを含む言動をマイクロアグレッションと言います。その言動をした本人は、多くの場合において否定をしている意図はありません。

 アヤさんの上司の発言には「仕事だけをする女性は良くない」「子育ては母親がすべき」「子育て中の女性は十分な仕事ができない」というメッセージが含まれてしまっています。しかし、上司にはこのようなメッセージを伝えた自覚がないでしょう。アヤさんもメッセージを善意として受け取っており、そのためにモヤモヤした気持ちになっています。

 さて、上司の発言はマタハラにあたるでしょうか。ここでは、ハラスメントかどうかを早計に判断するよりも、他者の善意によって女性のキャリア構築が困難になっている社風に問題があると考えられます。

 アヤさんによると、勤務先はこのような状況でした。

  • 女性、特に子どものいる女性は、残業がほぼ課せられず、県外への出張、展示会、出向、顧客訪問は命じられない。希望してもなかなか機会が与えられない。

  • 男性は長時間労働が恒常化しており、宿泊を伴う出張もたびたびある。

  • 昇進・昇格の要件が定かではない。

 アヤさんの勤務先のような「女性が働きやすい職場」はあります。ただ、「女性が働きやすい」とは、性別を理由に仕事の責任範囲を限定したり、属性によって働き方を画一的にすることではありません。

 民間会社の調査(注1)では、現在の職場において「女性が不利だと感じる理由」について尋ね、結果、「キャリアビジョンを描きにくい」が第1位(29.2%)でした。組織は、無自覚のままに、性別による業務分担をしていないかを見直し、是正のための改革をしていく必要があります。

注1:「2022年 働く女性実態調査」Job総研

 アヤさんは、初めての出産・育児のときに、気兼ねなく長期休みが取れる職場に感謝した経験がありました。ですから、勤務先に対してネガティブな感情だけを持っているわけではありません。しかし、画一的に「男性だから・女性だから」と、与えられる仕事の範囲や責任が制限されることは、男性にとっても負荷の多い職場であることの証左です。

 その後の相談の続きです。私は、「上司の発言のみでマタハラと断じることはできないが、アンコンシャス・バイアスによって、今後、より直接的なハラスメントと感じる経験があるかもしれない」とアヤさんに伝えました。

 こうした環境にある人には、自分の価値観により近い職場へ転職できるように準備しておくことをおすすめします。就業規則を確認した上で副業や兼業なども試し、自分にとって本当に働きやすい環境を用意できるとよいでしょう。 【次ページ】聞き取りで判明…パワハラが疑われるような指導の数々
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