- 2025/11/23 掲載
「いつか私もこんな目に…?」育休復帰の先輩への止まらない悪口に震える20代女性
経営学修士(MBA)。家業である総合士業事務所で経験を積み、2014年、愛知県豊橋市にて独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所等での行政協力業務を経験。地方中小企業の企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築、ハラスメント対応に従事。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイングを追求するとともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問として活動している。著作に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)、漫画原作に『御社のモメゴト それ社員に訴えられますよ?』(KADOKAWA)、監訳に『経営心理学 第2版』(プロセス・コンサルテーション)ほか。
「感情のコントロールが下手な人」の典型的な行動
感情のコントロールが苦手な人や下手な人は、自分の感情のままに衝動的に行動したり、攻撃的な言葉を口走ることがあります。本人が悪気なく行っている場合でも、職場内での信頼関係の低下や、組織全体の職場環境の悪化を招くことになりかねません。相手の感情をケアする前に、自分を責めることで謝罪を忘れたり、逆に勢いづいて暴言を重ねるなど、二次的な被害を生みやすいのも特徴です。また、自分の感情を周囲にアピールするかのように発散することで、周囲に困惑や不安を与え、威圧していると受け取られる場合もあります。- 突発的な暴言や、衝動的にモノにあたることがある。
- 感情の起伏が激しく、周囲に気を遣わせる。
- 自分の非を鑑みず、自分にそのような感情を持たせた相手が悪いと考える。
それでも課長は、パワハラをしたことになってしまうのか
ミユキさんやミナミさんは、従業員数500名ほどの映像製作会社に勤務しています。ミナミさんは総務課の所属でしたが、簿記の資格があったため、繁忙期の経理課に異動を命じられました。ただ、実務経験はなかったので、ミユキさんら他の社員がOJTを行いました。しかし、決算期前で忙しく、行き届いたサポートはできませんでした。
ミナミさんは休職中の社員の仕事を一部引き継ぎましたが、業務理解が浅かったため、質問すべき相手がわからず、頻繁に課長に尋ねました。けれども、多忙な課長からは丁寧な指導を受けることができません。課長以下全員が忙しいことがわかったミナミさんは、やがて自己判断で仕事を進めるようになりましたが、かえって課員の確認の手間を増やしてしまうことになりました。
ミナミさんは一生懸命に仕事をしていましたが、課長に「子どもじゃないんだから何度も言わせないで。バカなの。何度教えたらできるようになるの」と感情的に怒鳴られ、席を立たれたことで精神的に限界を感じ、元上司である総務課長に相談しました。
すると、総務課長がハラスメントではないかと疑問視したため、ミナミさんはハラスメント相談室で相談することになりました。相談室の社内調査の結果は次の通りです。
- サダ課長がその発言をした事実はある。課内の複数の職員が現場を目撃しており、サダ課長も発言したことを認めている。
- ミナミさんに引き継がれた仕事は、商業簿記ができれば難易度が高いものではなかった。
しかし、ミナミさんの理解が浅く、仕事の精度は粗かった。そのため、サダ課長が何度も口頭やメールで指導した履歴がある。口頭での記録はないが、メールの内容は業務指導の範囲を逸脱したものではない。
課長はヒアリングにおいて、自分も余裕がなく、異動してきたばかりのミナミさんへの配慮が足りていなかったことを認めました。また、離席したのは開始時間が迫っていた会議に出席するためで、ミナミさんに対して他意はないこと、自分の不適切な言動について謝罪したいと伝えてきました。
ハラスメント相談室は調査にあたって、どのような発言がどのような状況下でなされたのかの事実を明らかにする必要があります。その事実認定をもとに、ハラスメントとして認定するかを検討するからです。会社は「サダ課長からミナミさんに対する対応は不適切であった」と認めましたが、本人が強く反省していること、ミナミさんは何度も指導を受けているのに改善できていないこと、初歩的なミスを繰り返すこと、などの課題があったこともあり、課長がミナミさんへ直接謝罪することを条件に、懲戒処分は行わないことにしました。これは調査中、課内からサダ課長をかばう声が多かったことも起因しています。
パワハラの認定には「平均的な労働者の感じ方」が考慮されますが、今回は客観的に見て、「就業する上で、看過できない程度の支障が生じたとまでは言えないものだった」と言えます。ミナミさん本人は強いストレスを感じていますが、パワハラにはあたらないというもので、この事例には「ぬるい職場」の特徴がよく表れています。 【次ページ】「私も妊娠したらこんなふうに言われるのか」という恐怖
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