• 2025/11/12 掲載

ホリエモンと“空のUber”目指す──新潟発「トキエア」が明かす“型破り”黒字化戦略(2/2)

連載:北島幸司の航空業界トレンド

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燃料効率こんなに違う……強みは「圧倒的な低コスト」

 機材の稼働率を向上させる手段はこれだけではない。

 稼働率を最大化する手段の2つ目が、チャーター便事業の積極的な活用である。

「トキエアが保有するATR機は、リージョナルジェット機(座席数が50~100席程度の小型旅客機)と比較して、運航コストが半分以下という圧倒的なコストメリットがあります。たとえば、大手航空会社が使用するワイドボディ機(客室1階に通路が2本ある大型旅客機)の場合、羽田空港で離陸までに地上を移動している間だけで消費する燃料費で、ATR機は新潟から中部まで飛行できるほどの燃料効率の違いがあります」(和田氏)

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トキエアの「トキ」は佐渡に生息する「朱鷺」が名前の由来だという
(撮影:筆者)
 この低コスト構造を生かし、チャーター便の単価を抑えることで、すでに企業や団体からの問い合わせが増加しているという。和田氏は、チャーター事業を単なる補完ではなく「収益の柱の1つ」として位置づけているとし、通常の定期便運航の合間に効果的に組み込むことで、高稼働率の実現を狙う。

 さらに、この不定期チャーター便の計画においては、得意分野であるAI技術やシステムを活用し、「運航管理の自動化・効率化を推進しています。最終的な目標としては、複雑な空域や空港における手配業務も、アプリを通じて簡便に完結できるレベルまでシステムを高度化し、将来的には空の『Uber』のようなサービスの実現を目指します」と、革新的な構想を語った。

 3つ目は貨物事業だ。「ATR機は小型ではありますが、旅客の手荷物以外にも貨物を搭載できるスペースが確保されています。たとえば、北海道産のとうもろこしやイチゴを午前中に輸送し、新潟で午後に味わうことができるなど、鮮度の高い産品を迅速に届けることで新たな価値を創出したいと考えています」と意欲をみせる。

最重要な「安全」体制は? ホリエモンの“マーケ構想”

 航空事業の根幹である「安全」については、「一切の妥協を許さない考え」であることを強調する。

 経営上のリソースを安全担保のために惜しみなく投じており、「予算配分においても安全に関わる部分には『こんなにかかるのか』と思うほどの手厚い配分を行っています」と述べた。

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トキエアCEOの和田 直希氏(写真左)、COOの長谷川 政樹氏 (写真右)
(出典:トキエアのプレスリリースより)
 新体制では、CEOである和田氏が財務を含む経営全般を指揮し、従来から代表の長谷川 政樹氏が共同代表のCOOとして運航全般を担当する。

 安全面では、安全統括管理者にJAL出身の整備経験者を執行役員に据えるなど、航空のプロフェッショナルを要職に配置することで、イノベーションと安全性の両立を図っている。

 新たな産業の創出ということでは、取締役に就任した“ホリエモン”こと堀江 貴文氏の起用も大きい。堀江氏は自らビジネスジェット機を所有することでも知られており、航空事業への造詣が深い。

 和田氏と堀江氏の考えは、地方創生の中長期的な切り札として、LSA(Light Sport Aircraft:超軽量飛行機)事業の構想を掲げている。この事業がトキエアにもたらす業績はかなり限定的ではないのかという質問に、和田氏は次のように答えた。

「よく聞いてくれました。直接的な収益への貢献は限定的かもしれませんが、元三菱重工などの優秀な人材が集まり、さらに燕三条の金属工業を活用することで、数千億円規模の航空関連産業を誘致できれば、地方創生という目的は十分に達成できると思います」(和田氏)

 また、マーケティング分野でも堀江氏のアイデアが大きく広がる。たとえば、新潟で開催されるフェスへの関西圏からの集客に際し、神戸~新潟間の航空券購入者に特別席を提供するなどの考えがある。

 さらに、長崎県や熊本県などの島々を巡るチャーター企画による「アイランドホッピング」など、観光分野でもATR機の短距離滑走路対応という特性を生かした新たなサービス展開を計画している。

 なお、和田氏は現行機材の変更は考えておらず、経済的な優位性が維持できる限り、ATR機の運用を継続する方針を示した。

「2026年後半には必達」黒字化への具体的な見通し

 収益構造についてトキエアは、旅客輸送を主力事業として収益全体の約80%を占める柱としつつ、高収益が期待できるチャーター事業および小口貨物輸送を新たな収益源として加え、多角的な事業展開を目指すとした。

「2027年度の通期黒字化達成を目標とし、その前段階として2026年後半には単月黒字化を必達します」(和田氏)

 これらの目標は、「経営改革によるコスト優位性の確立と事業の多角化による相乗効果を見込んだ、現実的な計画」に基づくと語り、新潟を拠点とした新たな日本の航空産業の未来を創造に向けて、決意が示された。

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