遅くて授業にならない!の原因「無線AP」をマルチベンダーで徹底比較 その結果は?
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GIGAスクール第1期で浮き彫りになった「ネットワーク」の問題
「クラウド前提の環境で1人1台の端末があるにもかかわらず、ネットワークが遅い、つながりづらいという問題が全国各地で起きています。この原因は多岐にわたりますが、利用者の実態に即した製品を選び抜けていないことが原因の1つにあると考えられます」と話すのは、シスコシステムズで公共分野のシステムエンジニアリングを担当する菅野翔太氏だ。

東日本公共・法人ソリューションズエンジニアリング本部
ソリューションズエンジニアリング第2部
ソリューションズエンジニア
菅野翔太氏
第1期のGIGAスクール構想時には、もちろん校内LAN整備にあたって標準仕様が策定されたものの、まだ端末がない状態かつ授業での実際の使われ方も不明確なままで通信量を想定することは困難だったのだろう。
だが、こうした現状を踏まえて文部科学省はネットワークアセスメントを進めており、問題箇所を特定した上で、第2期となる「NEXT GIGA」でのボトルネック解消を目指している。
学校現場に即したChromebook40台で無線APの性能を検証
「無線APを提供する各ベンダーは、それぞれ独自に試験を実施し、スペックシートに掲載しています。しかし、40人程度の生徒が同時に1つの無線APに接続する前提で試験を行っているとは限りません。また、仮に同一条件だとしても、電波は確実性の保証が困難な部分があるため公平に比較できません。そこで当社のようなマルチベンダーの第三者が、学校現場に即した環境を用意し、比較結果を示したいと考えました」

セールスエンジニアリング部 第1チーム
エキスパート
本田尚平氏
本検証では、GIGAスクール構想で多く採用された8社の無線APを対象とし、実際の教育現場を想定した環境を構築。無線APそのものの性能を公平に検証するために、インターネット回線の影響を排除したローカルネットワーク環境を用意し、使用チャネルを固定。無線APのファームウェアは最新の推奨バージョンとし、推奨設定を施している。これに接続する端末としては、現在教育現場で多く採用されているChromebookを40台を用意した。
検証環境は、ネットワンパートナーズが運営するイノベーションセンター(呼称:netone valley)内に設けられた。ここには、販売パートナー企業との協業によるビジネス創出を目的としたコラボレーションエリアが用意されており、さまざまなパートナー企業とともに、多種多様なメーカー製品の検証を行う充実した環境がある。検証などのプロジェクトに参加するパートナー企業の担当者には入館証が発行され、ネットワンパートナーズ社員の同行なしで施設への入退館が可能となり、スムーズに作業を進められるという手軽さや利便性が特徴だ。
今回の検証で同施設を利用した菅野氏も「検証部屋の外には、リラックスできるフリースペースの空間があり、非常に仕事がしやすい環境でした」と感想を語っている。
「置いてきぼり端末」を発生させないことが重要
加えて「安定性」も重視した。本田氏は「スループットの全体平均が高くても、1つだけ置いてきぼりの端末があれば、教室全体としての満足度が低くなります。40台の端末すべてが平等に通信できることが重要です」と強調する。
実際の検証結果を、まず総スループット測定から紹介したい。ダウンロード速度では各ベンダーで大きな差は見られず、0.7Mbpsを下回る低スループット端末も発生しなかった。しかし、アップロード速度では明確な差が現れ、多くのメーカーで低スループット端末が発生。中には正常にテストが完了しない製品も見られた。一方、Cisco CatalystおよびMerakiはスループットが他ベンダーより高速で、低スループット端末がなかった。
「学校現場ではアップロードが重要です。生徒が端末で写真を撮ってGoogleドライブにアップロードしたり、作成したドキュメントをクラウドに保存したりする場面が頻繁にあるからです。アップロード性能の安定性は授業の円滑な進行に直結します」と本田氏は指摘する。
NEXT GIGAでWi-Fi7対応製品を選ぶべき理由
Wi-Fi7にはいくつかの新機能があるが、特に注目すべきは6GHz帯活用とチャネルボンディングの効果だ。Wi-Fi7は従来の2.4GHz、5GHzに加え6GHz帯が利用可能となる
チャネルボンディングとは、複数のチャネル(通信路)を束ねて太い道路のように使う技術と例えると分かりやすいだろう。6GHz/40MHz幅での検証結果では、Cisco CatalystとMerakiが他ベンダーより高いスループットを記録した(図左下)。
目玉機能として、複数の周波数帯を同時に使用するMLO (Multi-Link Operation)を利用し、2.4GHzと6GHzを組み合わせた検証でも同様だ(図右下)。
そして現在の教育現場ですぐに恩恵を受けられるのが、端末側が対応する5GHz帯の結果だ。(左上)
「比較的安価な2ストリーム(2つのアンテナ)を搭載するAPでも、シスコ製品は200Mbpsを超える性能を発揮しました。コストパフォーマンスに優れるAPで、これだけの速度を出せるのはシスコ製品だけでした」と本田氏は語る。
本田氏によると、まだPC端末側が Wi-Fi7 に対応していないものが多いため、今すぐWi-Fi7のAPを導入して効果を実感できる場面は限定的だというが、機器更新のライフサイクルを考えると、Wi-Fi7レディな環境を整える好機だ。今Wi-Fi7対応のネットワーク環境を整えておくことで、PC端末が対応した際に即座にメリットを享受できるようになる。
検証する重要性とそのための理想的な環境
たとえば、Wi-Fi7の新機能MLOでは、当初5GHzと6GHzを束ねた検証を想定していたが、端末側の仕様で2.4GHzと6GHzの組み合わせしかサポートしていないことが判明した。こうした情報は公開されておらず、実際に検証してみて初めてわかることだ。また、一部APベンダーでは「MLO対応」をうたっているものの、実際の検証時点では利用できないケースが確認された。
菅野氏も、今回の検証に参加した感想として、「シスコはワイヤレスのトップメーカーとして、公平に比較検討するための材料を示す責務があると考えていたところでしたので、検証に協力できたことは幸いでした」と語る。
さらに、ネットワンパートナーズの環境や体制面について、「当社でも機器を検証できる場所はもちろんありますが、netone valleyは検証環境として、非常に整備されていると実感しました。また、本田さんはじめ、シスコ社員よりも詳しいのではないかと思うほど製品に精通したエンジニアが多数在籍されているので、検証環境の構築から実際のオペレーションまで、特に不安に感じることなくリードしていただきました。このように信頼して任せられる会社と協業することは重要だと考えています」と評価する。
NEXT GIGAにおける理想的な無線環境構築をサポート
特に無線ネットワークについては、電波干渉など現場の物理的な外的要因による影響を受けやすく、またそうした環境は実際の教育現場によっても多種多様だ。本田氏も、「検証環境の構築中、電波干渉によるパフォーマンスへの影響が見られた場面もあり、製品を比較する際には、しっかり検証してみることの重要性を改めて痛感しました。スペックシートだけでの判断を避け、学校現場に即した環境での性能を確認し、さらに将来性や運用面も加味することをおすすめします」と呼びかける。
菅野氏も「多くのメーカーが、電波干渉を自動的に回避する機能を実装していますが、メーカーによって検出可能な干渉波の種類や検出タイミングなど、電波干渉回避のアルゴリズムに差があります」と話し、実際に比較検証することの必要性を示唆した。
なお、今回紹介した検証結果は概要のみだが、ネットワンパートナーズでは、個別に相談があった際にその詳細を紹介することもできるという。教育現場のネットワーク整備に携わっている担当者は、ぜひネットワンパートナーズに問い合わせてみてはいかがだろうか。