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膨らみ続けるコスト…パーソルHDの驚異的な「IT運用改革」、「工数97%減」の舞台裏
パーソルホールディングスは、グループの成長に伴い、膨らみ続けるIT運用コストに悩まされていた。AWS利用料は倍増、障害対応時間も目に見えて増加していた中、同社はある“大胆な改革”を行ったことで「AWS利用料を20%削減」「リソース最適化の工数を97%削減」という驚異の成果を得たという。この改革を指揮したキーパーソンが、逆転の裏側を明かした。2年で「スタッフ2倍」「システム1.5倍」になった結果……
その中でパーソルホールディングスは、同グループの持ち株会社としてグループ全体の戦略立案や経営計画・管理などを担う。グループ共通のITシステムの開発・運用も、同社の重要な役割だ。同社 グループAI・DX本部 ビジネスITアーキテクト部の菅井 俊氏は、次のように説明する。
「私が所属するビジネスITアーキテクト部は、主にグループ共通の基幹システムに向けてDXやAI活用の推進を行っており、企画・開発・運用を担っています。グループの成長に合わせてスタッフも増え、運用・保守が必要なシステムも増えています。具体的には、2023年から2025年にかけてスタッフは約2倍、サーバ保守が必要なシステムは約1.5倍に増えました」(菅井氏)
AWS利用料は「倍増」……膨らみ続けた運用コスト
「チームを任されたのち、次第に毎月の工数が右肩上がりで増えていくことに気づきました。調べてみると、アプリケーションやサーバの数が急増しているにもかかわらず、その数を誰も正確に把握できていないことが分かったのです」(菅井氏)
グループAI・DX本部
ビジネスITアーキテクト部 テッククオリティ&イノベーション推進室 室長
菅井俊氏
数が分からなければコストも正確に把握できない。現実に2021年から2024年にかけてはAWS利用料が倍増し、予算担当のメンバーからは「AWSの利用料が大きくブレて予算を立てづらい」という声も出ていたという。こうした状況を見て、菅井氏は「このままではマズい」と危機感を強めていった。
菅井氏が危機感を抱いたのは、アプリケーションやサーバの運用・保守にかかるコストの増大だけではなかった。障害件数は横ばいながらも、2023年から2024年にかけて障害の性質が変わってきており、その結果として調査工数が増加していることが明らかになったのである。
「端的にいえば、AWSをはじめとするITインフラのリソース管理、アプリケーションの監視が不十分、もしくは“手つかず”に近い状態でした」(菅井氏)
ところが、部門内でこうした状況への関心は低かったという。
「背景には、ITインフラの運用保守部分をパートナーに任せていたことがあったと思います。その一方で、パーソルグループのIT投資が強化され組織やシステム数の増加につながったのですが、ITインフラ部分への対策が不十分で後手に回っていました。その結果、パートナーは工数を増やして対応する状況に陥っていたのです」(菅井氏)
この状態を放置すればコストは増大し続け、いずれ大きな障害も起きかねない。グループ共通のシステムで障害が発生すれば、約7万8000人の従業員を抱えるグループ全体に影響が及ぶ……ただし、リソース管理やアプリケーション監視に強い人材は社内に育っていないというジレンマを抱えていた。
課題は見えているのに有効な打ち手が見つからない状態が続く中、偶然の出会いが生まれる。たまたま菅井氏とIBMの営業担当者が接触する機会があったのである。
「当社はこれまでIBMと接点がなかったこともあり、最初は半信半疑で話を聞いていました。ところが、徐々に話の内容が我々の課題解決に直結することに気づき、最後には『これはスゴい』となりました。その話の中身が、Turbonomic(ターボノミック)だったのです」(菅井氏)
【驚異】なぜ、AWS利用料 20%減・工数 97%減できた?
「Turbonomicであれば、AWSに関する高度な知識・スキルがなくても“ボタンを押すだけ”でリソースを最適化できます。導入するだけでクラウドの利用料を確実に下げられることに驚きました」(菅井氏)
2024年7月からTurbonomicのPoC(概念実証)を開始。その結果、AWS利用料を20%削減し、リソース最適化にかかる作業をサーバ1台あたり「6.25時間から10分」と97%も削減できることを確認した。
Turbonomicの有効性を確認した菅井氏は、障害発生時の調査工数の増加という課題についてもIBMに相談する。そこで提案されたのが「Instana(インスターナ)」である。
Instanaは、アプリケーションのパフォーマンスを管理し、システム全体のオブザーバビリティー(可観測性)を高めるソリューションである。システム全体の状況をリアルタイムに可視化し、ダッシュボードに表示することができる。
「2024年12月末から、IBMのパートナーである日本情報通信(NI+C)の手厚い支援を受けてInstanaのPoCを開始しました。その結果、障害発生時の調査・確認の作業を大幅に効率化できることが判明しました。具体的には、調査から最後の報告まで、1件あたり50時間の工数を半分の25時間にできることを確認できたのです」(菅井氏)
こうしてビジネスITアーキテクト部は、2025年7月からTurbonomicとInstanaの本格導入を開始。現在、その成果が徐々に現れつつある段階にある。
スタッフの意識にも変化、チームで議論しながら調査可能に
また、スタッフの意識にも変化が起きつつあると、菅井氏は次のように説明する。
「これまではシステムの運用・保守にあまり関心のなかった若手エンジニアが、IBM CSMによる伴走支援によりTurbonomicやInstanaの勉強会に積極的に参加するようになりました」(菅井氏)
また、Instanaによってチーム全体でアプリケーションを監視・分析できる体制も整いつつある。
「Instanaはシステム全体の状況をリアルタイムにダッシュボードに表示しますので、複数のメンバーで同時に見ることができます。それぞれが持つスキル・経験に応じて分かるところを調べ、議論しながら分析を進められるのは、Instanaならではのメリットだと思います」(菅井氏)
AI活用が進む中、次の挑戦は「自動化」「IT投資の最適化」
「今後、AI活用でコストのかかる取り組みが増えていきます。だからこそ、これまで人手に頼っていた工程をできるだけ自動化し、運用・保守にかかるコストを下げていく必要があると考えています」(菅井氏)
さらに菅井氏が目指しているのが、ITにかかるコスト全体の最適化だ。今回は、菅井氏の長年の経験がリソースのムダの発見につながった。逆にいえば、菅井氏がいなければ問題は放置されていたかもしれない。菅井氏は、特定の人に依存した仕組みからの脱却が必要だと説く。
「人に依存するのではなく、どこにどんなムダがあるのかをシステムとして可視化できる仕組みが必要だと考えています。そこで次は、その実現に向けてIBMのクラウド財務管理ツールである『Apptio(アプティオ)』を検討しているところです」(菅井氏)
今回の取り組みは、同社のビジネスITアーキテクト部内で実施したものだ。しかし、「ボタンを押せばコストが下がる」「チームでアプリケーションを調査・分析できる」といった明白なメリットに対し、他部門からの関心は高いという。
「ビジネスITアーキテクト部はグループ共通のシステムを運用している部門です。だからこそ、我々の取り組みで成果が出れば、それがグループ全体に波及しやすいと考えています。今後もこの考え方のもと、運用・保守の効率化、コスト削減を進めたいと思います」(菅井氏)
同部のチャレンジが、今後、パーソルグループ全体にどのような変化をもたらすのか、その動向にぜひ注目したい。
https://www.ibm.com/jp-ja/products/instana
IBM Turbonomic - リソースの利用状況を可視化し、割り振りを自動的に実行
https://www.ibm.com/jp-ja/products/turbonomic