5年後は仕事の半分はAI? NTTドコモビジネスとIBMが徹底解説「リアルな未来の職場像」
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どこまで進んだ?企業の「生成AI活用」の最前線
執行役員
ビジネスソリューション本部
スマートワールドビジネス部長
福田 亜希子 氏
「生成AI活用が広がり始めた当初は、各社から提供される大規模言語モデル(LLM)サービスのどれを使えば良いのかを比較・検証し、業務の補助役として導入を進めてみるという企業が多かったように思います。その次の段階として、RAGを用いた検索の仕組み構築を検討する企業が増えていき、最近ではAIエージェントを活用し、現場業務を効率化する取り組みが進んでいます。さらにはロボットやドローンと連携するフィジカルAIのように、リアルな現場業務における活用が広がりつつあり、AI活用の成熟度が高まってきたと感じています」(福田氏)
同様に最近の生成AI活用のトレンドについて、日本アイ・ビー・エム テクノロジー事業本部 通信事業統括 執行役員の今野智宏氏は次のように述べる。
「これまでは業務部門の一部でPoCを実施し、1~2割の業務削減ができれば“成功”と捉えられてきました。しかし今は、視点がより高次へと移りつつあります。組織全体として生成AIでどう成果を最大化するかを考える企業が増えているのです。現場への実装・運用が本格化すれば、3~5割、場合によっては業務の10割をAIで代替できるケースも出てくるでしょう。生成AIの活用レベルそのものが、大きくシフトし始めています」(今野氏)
テクノロジー事業本部 通信事業統括
執行役員
今野 智宏 氏
今野氏の語る効率化の未来は、単なる夢物語ではない。実際に2025年11月、NTTの島田明社長がメディアの取材に対して「5年後に業務の5割をAIで代替できるようになる」と述べて注目を集めている。
グループのこの方針について福田氏は、「人を採用したくてもできないのは、当社を含めたすべての日本企業に共通の課題でしょう。そうである以上、AIで省力化するしかありません。5年後に5割というのは、我々が本気で目指している数値なのです」(福田氏)
AIエージェントの本格活用を進める企業が直面する課題
ただし、AIエージェントを実現するには、いくつか超えなければならないハードルがあると、日本アイ・ビー・エム Data and AIエバンジェリストの田中孝氏は次のように指摘する。
Data and AIエバンジェリスト
田中 孝 氏
「AIエージェントを実現するには、LLMやRAGによる検索の仕組みに加えて、さまざまな業務システムとの連携も必要となり、システム全体が複雑になります。したがって、複雑なシステムをうまく設計・制御して精度をいかに高めるかが重要なポイントとなります」(田中氏)
さらに「セキュリティ」も欠かせない。今野氏は、その重要性を次のように説明する。
「AIエージェントを活用するには、社内データをAIに統合する必要があります。たとえば、製造業であれば最も重要な知財も扱うことになるため、その流出は絶対に避けなければなりません。したがって、データを扱うAI環境にはクローズドであり、かつ高いセキュリティが求められます」(今野氏)
もう1つの重要な課題が「ガバナンス」だ。田中氏は、その必要性を次のように説明する。
「AIが流行っているからと各部門が勝手にAIサービスを使い始めたら収拾がつかなくなります。また、国や地域によってAIのガイドラインや規制が作られているため、その対応も必要です。さらに、AIが不適切な回答をしたり、AIが想定外の使われ方をしたりするリスクにも備えなければなりません。したがって、AIの使い方に関するガードレールを作り、統制をかける『AIガバナンス』が非常に重要になると考えられます」(田中氏)
NTTドコモビジネスが描く「AIエージェント時代の社会像」
たとえば、世界的に入手が困難となっているGPUをはじめとするリソースの確保、膨大な電力を消費するデータセンター、高速なネットワーク、生成AIに関する先端技術、セキュリティやガバナンスへの対応──など。これらを1社で担うのは限界があるのだ。
こうした状況を受け、NTTドコモビジネスが発表したのが「AI-Centric ICTプラットフォーム構想」だ。
「GPUは膨大な電力を消費し、大量の熱を出します。また、筐体も非常に重く、古いデータセンターの床荷重では耐えられません。そこで、こうした条件をクリアしたデータセンターを分散して構築し、各データセンターを我々が持つ光通信技術であるIOWN(アイオン)で結ぶ『AI-Centric ICTプラットフォーム構想』を発表しました。複数のデータセンターを発電所の近くに置くことで電力の問題を解決し、IOWNで結ぶことで、あたかも1つのデータセンターのように機能させることが可能です」(福田氏)
そして、このプラットフォームの上で提供されるのがAIエージェントソリューションだ。
福田氏は、「まずは、金融、公共、製造といった高い専門性と機密性が求められる業界を対象に、20種の業務特化型AIエージェントを活用した業界別ソリューションの提供を開始しました。たとえば、『特許出願業務に特化したAIエージェント』を使うと、似た特許を調べたり、アイデアを壁打ちしたりすることで、申請業務を圧倒的に効率化することができます。もちろん、クローズドな環境で完結するので情報漏洩の心配もありません」と話す。
同社では、この取り組みを全業界に拡大し、2026年には200種類のAIエージェントを提供する予定だ。もちろん、対象は大手企業にとどまらない。中堅・中小も含めたすべての日本企業が対象となる。
2社で実現する「安心・安全なAIエージェント基盤」とは
「NTTグループがAIで特徴を出すならセキュリティやガバナンス、信頼性の領域であるべきだという議論は2~3年前からありましたが、当時はまだほとんどの企業がLLMを比較・検討している段階であり、時期尚早でした。それが、今年度に入ってから急速に動き始めたのです。その際、長年のお付き合いがあり、watsonx.governanceなどのソリューションをお持ちのIBMさんであれば、我々が持っていないところを補完していただけると判断し、協業にいたりました」(福田氏)
一方のIBMの田中氏も、NTTドコモビジネスと協業にいたった背景を次のように述べる。
「IBMでは、2018年から社内にAI倫理委員会を設置し、AIの信頼性を確保したうえでお客さまに製品・サービスを提供してきました。こうした我々の取り組みが、NTTドコモビジネスさまが目指されている方向と合致したのだと考えています」(田中氏)
具体的に進められているのが、watsonx.governanceの活用だ。これは、IBMのAIプラットフォームであるwatsonxの一部で、企業のAIライフサイクル全体を管理・監視するためのガバナンスツールである。
「たとえば、AIが不適切な回答をしないように監視したり、証跡を残しながらAIを開発・運用したりする仕組み、各種の規制やガイドラインに対応する仕組みなどを構築することができます」(田中氏)
この仕組みの提供に向けて現在両社でプロジェクトを進めており、“信頼”をコンセプトとし、信頼性高くAIエージェントの運用を可能とする基盤の提供に向けて検討を進めている。これにより、企業は安全性を担保しながら安心してAIエージェントを活用できるようになるだろう。
2社で目指す「AIを意識する必要のない世界」とは
「AIが私たちの生活を侵食するのではなく、我々人間を支援してくれる、助けてくれる世界が望ましいと思います。そのためには、安心安全が担保されたAIの社会基盤が不可欠であり、それをNTTドコモビジネスさまとともに作っていけることをうれしく思います」(今野氏)
また田中氏は、IBMが自社の製品やサービスを直接顧客に届けるには、NTTドコモビジネスとの協業が重要だと、次のように語る。
「AIのテクノロジーやサービスをお客さまに直接届けるには、我々はまだまだ力不足だと感じています。だからこそ、お客さまにより近いところでビジネスをされているNTTドコモビジネスさまと協業させていただくことで、日本市場、日本経済により貢献したい、貢献できると考えています」(田中氏)
そして、AIエージェントやフィジカルAIが“当たり前”になる世界を目指して、その基盤の重要性を訴えるのが福田氏だ。
「AIエージェントやフィジカルAIが当たり前の世界は、もはやAIを意識する必要はありません。たとえば、自動運転タクシーの利用者は、AIを利用しているとは思わないでしょう。あくまでタクシーを利用しているのです。今我々は、その世界を実現する基盤を作っています。それには“信頼”が不可欠です。我々もIBMさんも、ともに“信頼”を重視する企業です。その両者が手を組んで安全なAI基盤、日本を変えていく土台をともに作っていけることを、我々も楽しみにしています」(福田氏)
https://www.ibm.com/jp-ja/solutions/ai-agents
watsonx.governanceで信頼できるAIを拡張
https://www.ibm.com/jp-ja/products/watsonx-governance
AIコンサルティング・サービス
https://www.ibm.com/jp-ja/consulting/artificial-intelligence