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  • 2023/06/06 掲載

医療メタバースの先端事例7選、診療・手術・リハビリの常識を変える“意外な方法”とは

連載:デジタル産業構造論

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ここ数年、それぞれ注目を集めてきた「メタバース」と「デジタルツイン」だが、今これら2つの技術を組み合わせることで誕生した技術やサービスが、これまでの産業の在り方を大きく変えようとしている。今回は、『メタ産業革命~メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる~』(日経BP)の内容の一部に加え、本記事のために追加した内容をもとに、「医療・ヘルスケア」の現場で起こる変革を解説したい。
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メタバースとデジタルツインを組み合わせると、どのような変革が起きるのか? 今、医療・ヘルスケア領域で起きている変革の最新事例を解説する
(Photo/Shutterstock.com)

「メタバース×デジタルツイン」がもたらす大変革

 近年、「メタバース」と「デジタルツイン」が、産業を大きく変革させる技術として注目されはじめている。

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メタ産業革命~メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる~』(日経BP/小宮昌人著)
本書は60を超える事例を通じて、さまざまな産業・都市でのメタバース×デジタルツインの融合による「メタ産業革命」のインパクトについて解説している
 メタバースとは、「アバターを介して相互交流することができる3次元仮想空間」を指す。主に、ゲームの領域において浸透しており、『マインクラフト』や『あつまれ どうぶつの森』などがわかりやすい事例として挙げられる。

 一方、デジタルツインとは、たとえば、建築物のような物体の3Dデータや、取り付けられたセンサーなどから収集したデータを基に、リアル空間の物体とそっくりな物体をデジタル空間上に再現する技術を指す。これにより高度なシミュレーションなどを行うことができる。

 それぞれ注目の技術だが、近年はこの2つの技術が融合・補完しあうことで、産業により大きな変革をもたらすとして期待されているのだ。そうした、メタバースとデジタルツインの組み合わせによる変革を「メタ産業革命」と呼ぶ。

 ここからは、医療・ヘルスケア領域で起きているメタバースとデジタルツインを組み合わせた変革の最新事例を8つ紹介する。

医療・ヘルスケアの「メタバース×デジタルツイン」とは?

 医療・ヘルスケア領域のメタバースとデジタルツインの融合・補完によってもたらされる変革は、主に以下の5つの方向性が考えられる。

■医療・ヘルスケア領域における「メタバース×デジタルツイン」の方向性(例)
  1. (1)CT/MRIなどのDICOM(医用画像の共通規格)データを用いた身体のデジタルツイン化・シミュレーション
  2. (2)手術・医師熟練技能のデジタル化/VR化による技能継承・トレーニング
  3. (3)デジタル空間におけるメンタルヘルス・コミュニケーション支援
  4. (4)飛沫・感染症シミュレーションを通じた行動変容
  5. (5)ゲーミングを取り入れたリハビリテーション

 もともと、デジタルツインをはじめとした3Dデータの活用は、製造業や建設業などの領域で先に進んできた。一方で、医療分野はデジタルツイン化が進みにくい領域と言われてきた。なぜならば、建築物とは異なり、当然ながら人の身体に関する設計データというものは存在せず、かつ個々人で異なるため、設計データを基にしたデジタルツイン化が難しいからだ。

 しかし、近年、CT/MRIなどのDICOMデータを活用することにより人の身体のデジタル化が進みつつある。ここからは、具体的な事例を見ていこう。

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デジタル/3D活用における製品・設備・建物と人の身体の比較
(出典:筆者作成)

先端事例(1):Holoeyes

 Holoeyes(2016年設立/杉本真樹CEO)は医療領域でのメタバースを牽引する医療VR企業だ。提供サービスのうち、Holoeyes MDは医療機器認証を取得しており、患者のCTやMRI、超音波検査などのデータを3D化し、診療や手術のアプロ―チの検討を含む判断に活用される。

 CT・MRIなどのデータでは通常平面の画像が複数枚撮影されるが、これらデータの3D化により現実の患者の臓器などの状態がデジタルツイン化され詳細な診断に生かされる。さらに、手術前の診断・手術アプロ―チの検討とともに、手術中にも随時患者のデジタルツインをVRビューワーで確認しながら処置に当たることができる。

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Holoeyesの医療メタバース
(出典:Holoeyes)

 これら患者に関する3Dデータに加えて、手術中の医師の動き・声、ほかの手術チームとのやり取り、3D空間上での解説・メモなどが3D情報としてアーカイブ化できる。これにより手術後の振り返りや追体験を行い技術が向上できる。

 また、過去データの蓄積により現在の患者のみならず将来の患者の診断に生かすことができるほか、医療関係者間で知見・経験を伝承することができる。医師にとって最も効果的なトレーニングは、自分の手術を振り返ることや、他社の手術から学ぶことである。その点、Holoeyes MDは、医療界全体の技術向上につなげるインフラとなっているのだ。

 日本がMRI/CTの3D医用データ活用の先進国であることや、高齢化社会など課題先進国であることは強みとなる。今後同社は、医療メタバースのグローバルプラットフォーマーとして海外展開を加速する方針だ。なお、Holoeyesのプロダクトはすでに、米国や欧州、サウジアラビア・シンガポールなどの他国でも活用が進んでいる。

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Holoeyesのイメージ
UAE ドバイとの遠隔カンファレンス(左)、シンガポールとの肝臓腫瘍手術の遠隔カンファレンス(右)
(出典:Holoeyes)

先端事例(2):Dental Prediction

 歯科領域においてもデジタルツインやメタバースの取り組みが進んでいる。米国などで急速に歯科領域のデジタル化が進む中、日本はそれぞれの歯科医が個別に分かれており、業界をあげた連携が遅れていた。こうした中、日本発でグローバルに展開する歯科デジタルツイン・メタバースのプラットフォームが生まれている。それが、Dental Prediction(2020年設立/宇野澤元春CEO)だ。

 Dental Predictionは患者の歯のCT画像および口腔内スキャンまたは石膏模型により歯科デジタルツインを生成する。その歯科デジタルツインを活用し、デジタル上でのシミュレーションや術前のディスカッション、3Dプリンターを通じた模型制作とその模型を用いた手術の詳細アプローチ検討、実際のオンライン相談、手術支援など歯科医に対して包括的な支援を提供している。

 デジタルツインにより今まで「視覚」的に見えなかった部分も事前に検討できるとともに、3Dプリンターを用いた模型を通じて「触覚」も補完できるようになっている。現場での治療に重点が置かれていた歯科領域において、データを用いた事前のシミュレーション・トレーニングの価値に加え、効率性や品質・安全性の向上に寄与しているのだ。

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図:(左)Dental Predictionによる歯科デジタルツイン、(右)メタバースを活用した歯科カンファレンス
(出典:Dental Prediction)

 さらに同社は5G技術を活用した遠隔手術支援などの先端技術の活用や、積極的なグローバル展開を進めている。たとえば、国内ではソフトバンクと連携し、東京─大阪間の遠隔で5G歯科手術支援を行う実証実験を行っており、具体的には東京の熟練歯科医が、大阪の若手歯科医に遠隔で手術指導を実施した事例などがある。

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メタバースを活用した歯科遠隔手術支援
東京側でレクチャーを行う指導医(左)、大阪で指導をうける若手歯科医(右)

(出典:Dental Prediction)
 そのほか、シンガポールや、サウジアラビア・ドバイや米国、カンボジア、台湾など、世界各国と日本の間での遠隔教育のプロジェクトを推進している。世界中の歯科医が活用し、最新の手術・機器が検討できる歯科メタバースプラットフォーム構築を目指しているのだ。先述のHoloeyesとも連携し、グローバルでの歯科メタバースプラットフォームを図っているところだ。 【次ページ】ダッソー・システムズ、理化学研究所、IMB・順天堂大学、JOLLY GOOD、MediVRの先端事例を解説
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