- 2025/12/19 掲載
「さすがトヨタ…」EV減速は誤算ではない──流されなかったトヨタの判断力(2/3)
それでもトヨタは、なぜ流されなかったのか
重要なのは、トヨタがEV市場の成長性を見誤っていたわけではない点だ。EV販売が2025年に2000万台を超えるとの予測が示すように、電動化は中長期的な潮流であることは明らかだった。それでもトヨタは、EVを唯一の解とする判断を避けた。同社が一貫して掲げてきたのは、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)を含む「マルチパスウェイ」戦略だ。
トヨタは公式に、地域ごとのエネルギー事情や顧客ニーズに応じた複数の選択肢を用意することが、結果的にカーボンニュートラルへの近道になると説明している。
EVが拡大することと、EVに全社を賭けることは別問題だとトヨタは捉えていた。EVは電池が車両コストの30~40%を占め、原材料価格や供給制約の影響を受けやすい。また、EV専用設備は内燃機関車向け設備との共用が難しく、需要変動時の調整が難しい。
市場の成長見通しを理解した上で、それでも判断を固定化しなかった。この点に、トヨタがトレンドに流されなかった理由がある。
日産・ホンダとの戦略比較──日本勢の取捨選択
日本勢の中でも、トヨタの立ち位置は際立つ。日産自動車は2010年代にリーフを投入し、EV先行メーカーとして注目を集めたが、近年は新型EV投入が限定的で、2024年以降は構造改革を本格化させてきた。2025年には英国サンダーランド工場で新型リーフの生産を開始した一方、世界的には工場閉鎖や人員削減を進めている。ホンダはEV集中戦略を修正しつつある。2025年、EV関連投資を従来計画から約30%縮減し、当面はハイブリッド車を軸に収益基盤を固める方針を示した。
日産がEV先行の反動に直面し、ホンダが戦略修正を進める中で、トヨタは当初から複線戦略を維持してきた。結果として、日本勢の中で最も大きな軌道修正を迫られていないのがトヨタだ。
部品・設備メーカーに及んだ影響
EV減速の影響は完成車メーカーにとどまらない。むしろ、部品・設備メーカーにとっては影響の大きさがより深刻だ。EVシフトを前提にした投資は、電池関連部品、インバーター、モーター、専用生産設備など広範に及ぶ。EV専業への転換を見込んで設備投資を進めた部品メーカーの中には、受注の先細りに直面する例も出ている。欧州ではEV向け部品需要の減速を受け、自動車部品大手が設備投資計画の延期や人員削減を発表した。
一方、HVや内燃機関向け部品も並行して供給が続くトヨタのサプライチェーンでは、需要の急変が比較的抑えられている。トヨタが複数パワートレーンを維持したことで、部品メーカーは事業の連続性を保ちやすかった。
設備メーカーにとっても差は大きい。EV専用ライン向け設備は汎用性が低く、需要変動の影響を受けやすい。トヨタが段階的な電動化を選択したことで、設備投資は分散され、設備メーカー側もリスクを分散できた。
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