“希望と再生”のAI革命、始動。東北電力×IBM「AIパートナーシップ」の核心
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東北電力がDX、AI推進を進める3つの理由
同社グループは2024年4月に、2030年に向けた今後の経営展開である「よりそうnext +PLUS」を発表した。このビジョンでは、2030年のありたい姿として、「東北発の新たな時代のスマート社会の実現に貢献し、社会の持続的発展とともに成長する企業グループ」を掲げ、CN・DXを成長の機会として既存事業の強化と新たな事業領域の拡大に挑戦する方針だ。特にDX推進を、「よりそうnext +PLUS」の実現を加速する強力な原動力と位置づけ、グループ全体で変革に挑戦している。
東北電力 執行役員 DX推進部長 大友 洋一 氏は、その具体的な取り組みを次のように説明する。
「当社グループには、送配電や発電・卸などの5つの事業ドメインがあり、その中で11の事業を展開しています。それぞれが2030年の“ありたい姿”を描き、そこからバックキャストして計画を立てることで、各事業の自律的な経営を目指しています」(大友氏)
執行役員 DX推進部長
大友 洋一 氏
東北電力グループが「よりそうnext +PLUS」の下でDX・AIを推進する背景には、大きく3つの理由がある。
1つ目は少子高齢化に伴う人手不足だ。大友氏は次のように説明する。
「当社においても、現在の想定では、採用をどんなに頑張っても人員が不足します。特に東北・新潟地域は少子高齢化が顕著に進んでいますので、その状況下で足りない人員をいかにカバーするかが求められています」(大友氏)
2つ目が経営環境の変化だ。不透明な経済動向や顧客ニーズの多様化、さらに災害・規制・市場リスクへの対応が求められている。
3つ目は財務基盤の毀損だ。2011年3月11日の東日本大震災で自己資本が大きく損なわれ、その後の回復途上で、2度の福島県沖地震やウクライナ危機により再び打撃を受けた。こうした状況から、自己資本の充実と財務体質の強化が喫緊の課題となっている。
これらの背景を踏まえ、外部環境の変化に対応しながら経営基盤を強化するための事業変革を支えるドライバーとして位置付けられているのが「DX推進」だ。具体的には、生成AIの活用、DX人財の育成、データドリブンな意思決定を進めることで、各事業ドメインでの課題解決を加速していく。
パートナーシップの目的とAIを活用したDX推進の全体像
「各事業にAIをどう組み込んでいくかが課題です。AIは誤った判断を下すリスクがあるため、送配電や発電といったライフラインを全て委ねられる段階にはありません。安全・安心な電力供給を実現するには、やはり人間の匠の技術とAIの融合が必要です。さらに、人財育成の問題もあります。技術面だけではなく、ビジネスモデルも含めてAIを実装まで推進できる高度な人財が圧倒的に不足しています」(大友氏)
また多くの企業でAI活用がPoC(概念実証)で終わってしまう点について、日本IBM 執行役員 コンサルティング事業本部 生成AI日本統括 松瀬 圭介 氏は、次のように述べる。
執行役員
コンサルティング事業本部
生成AI日本統括
松瀬 圭介 氏
「AIをPoCから全社展開していく上で、企業のAI活用を推進するリーダー(例えばCAIO)の役割も大きく変化します。AIの推進者ではなく『変革の推進者』として、実際の経営戦略、業務課題に結び付けながら全体を見渡して導入を指揮し、予算を握って経営層に投資対効果を示す必要があります」(松瀬氏)
IBMとの間に締結されたAIパートナーシップは、こうしたさまざまな課題を解決し、東北電力グループのDXを前に進めることを目的としている。大友氏も「IBMが持つグローバルでの知見、技術、人財、エンドツーエンドで対応できる総合力が、我々の取り組みに不可欠だと判断しました」と述べる。
パートナーシップで推進される10の取り組み
「AI戦略構想の策定からAIプラットフォームの構築まで、すでに7つの取り組みがスタートしています。また、今後、新たに3つの取り組みが予定されています」(松瀬氏)
東北電力グループはIBMとの協働により、AIを業務に実装しDXを原動力に企業変革と新たな価値創出を目指す。
既に着手している取り組みの中で、代表的なものの1つ目は「AI戦略構想策定」だ。これは、東北電力グループのビジョンに沿った形で、社員一人一人が自分事として変革をもたらすため、全社横断的な施策や各事業の専門業務へどのようにAIを実装していくかを考え、ロードマップを策定する取り組みだ。
2つ目は「人財育成・社内啓発活動」だ。
「施策を実行するには、業務を理解し、かつデータ・ガバナンスを含めた高いAIデジタルリテラシーを持つ人財をグループ内で育成しなければなりません。そのための育成計画や仕組みの検討、教育コンテンツの提供や研修を実施しています」(松瀬氏)
この人財育成の取り組みは、社外にも広がっている。教育分野では東北大学と連携し、学生にインターンシップの機会を提供することで、ビジネスのリアルなDXを学んでもらい、単位も取得できるようにした取り組みである。
3つ目は「社外PRおよび協定締結支援」だ。その重要性を、松瀬氏は次のように説明する。
「日本全国にパートナーシップの取り組みを情報発信してブランディングしつつ、『東北電力で働いてみたい』と思う若者を増やしたり、他企業・団体・自治体との協定を支援することで相乗効果を生み出したりすることに寄与したいと考えています」(松瀬氏)
さらに「AI推進体制構築」では、大友氏を中心とする推進体制の構築を行い、「AIプラットフォーム構築」では、各施策を推進するための資産やデータが統合された共通プラットフォームの構築を進めている。
また、このパートナーシップは、単なる技術・人的支援にとどまらず、東北電力とIBMが一体となった取り組みであることも特徴だ。IBMの専門人財が東北電力の社員と一緒になって、同じフロアで日々議論を重ねながら、AI実装に向けた施策を共に設計・推進している。こうした密接な協働体制により、スピード感と実効性を兼ね備えたDX推進が可能になっている。
発電所からバックオフィスまで、AIで業務高度化と安全性向上を推進
「たとえば発電所であれば、ITだけでなくOT(Operational Technology)のデータもあります。こうしたデータの分析にAIを活用することで、業務の効率化や高度化を図ることができます。また、事故や災害防止など安全面での活用にも期待しています。現在、過去の事故や災害のデータを学習させて、兆候を発見・通知するような仕組みの実現に向けて取り組んでいます」(大友氏)
また、バックオフィス業務の効率化もAIに期待されているところだ。議事録の自動作成などによる会議の効率化も、現在、進められているという。さらに、送配電事業においても大きな効果が期待されている。
「配電部門は東北地方にくまなく電線を張り巡らせていますので、管理すべきアセットの数が非常に多いのが特徴です。従って、1つでも効率化や安全性向上の施策が実現できれば、全体として大きな効果を出せると期待しています」(大友氏)
これらの取り組みを技術面で支えているのがIBMだ。松瀬氏は、今回のパートナーシップにおける同社の役割を次のように強調する。
「より働きやすい現場の実現、あるいは知識や技術の継承、人手が足りない業務のデジタルによる代替、そして安全安心の確保といったテーマについて、我々がグローバルで培った技術を結集して支援します。それによって東北・新潟地域の経済の活性化、さらに日本社会全体の経済の発展に寄与したいと考えています」(松瀬氏)
白洲次郎の想いを共有し、震災からの復興と発展を目指す
東北電力でDXの取り組みが始まったのは2022年で、当初は推進体制が4名にすぎなかった。
「当時、この4名が『データ・AIを経営に活かそう』というデータドリブンの重要性を社内に訴えつづけたことが、東北電力のDXの原点となっています。そこに私が5人目として加わって、共にDXの活動を前に進めてきました。現在は、DX推進部として総勢124名のスタッフが活動し、今年度は、DX推進部内に新たにAIソリューショングループを新設しました」(大友氏)
少数精鋭から始まった挑戦は、今や全社的な取り組みに進化。さらにAIに特化した「AIソリューショングループ」の新設により、AI活用の取り組みは新たなステージへと踏み出した。こうした「データ・AIを経営に活かす」という原点の志と、地域社会に対する部長の想いは124名のメンバーにも受け継がれ、パートナーのIBMにも共有されている。
「東北・新潟地域には、労働力不足をはじめとするさまざまな課題を抱えている企業や自治体がたくさんあります。将来的には、こうした企業・自治体に対して、我々のAIを活用した取り組みをサービスやソリューションとして還元し、地域の発展に貢献したいと考えています」(大友氏)
繰り返しになるが、今回の東北電力とIBMのパートナーシップは、単なる技術支援、人的支援ではない。共通の目的と情熱(パッション)を持った、より包括的な協力・共創関係である。松瀬氏は、パートナーシップの背後にある”想い”を、次のように述べる。
「東北電力の初代会長は、吉田茂首相の側近として戦後復興に活躍された白洲 次郎氏です。白洲氏は只見川の電源開発に力を尽くし、東北地方の発展に貢献しました。今、東日本大震災からの復興に尽力されている東北電力の取り組みには、白洲氏と同じパッションがあると思いますし、我々IBMもそれを共有しています。パートナーシップの背景に、こうした両者の”想い”があることは、ぜひ強調しておきたいと思います」(松瀬氏)
今後、両者の取り組みがどのような実を結び、それが東北・新潟地域、さらには日本全体にどのように波及していくのか、ぜひ注目していただきたい。
https://www.ibm.com/jp-ja/consulting/artificial-intelligence
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https://www.ibm.com/jp-ja/campaign/ai-productivity