• 2025/11/26 掲載

なぜ今さら…? 三菱ミラージュを「惜しむ声」が続出のワケ、裏で起きた「3つの変化」(2/2)

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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変化(1)続き:ミラージュは「低価格で勝負」も…

 一方で、価格に敏感な消費者の多くは様子見するか、あるいは中古車市場に向かっている。また低価格モデルは、初めて車を購入する若者に人気だったものの最近は低迷していると、米ブルームバーグは伝えている

 東南アジアの製造拠点タイで製造されて北米に輸出されるミラージュは、76馬力を発揮する1.2リットルガソリンエンジンを搭載。非力ではあるものの街中で36mpg、高速で43mpgの低燃費を実現するなど、日常の通勤や買い物向けの用途であれば、十分な性能である。

 これまでに2回のアップデートが施され、2019年に発売された最新モデルはタッチスクリーンのインフォテイメントシステムを標準装備するなど、快適性も増していた。

 ところがミラージュは、新車価格の高騰により価格面での競争力が相対的に増す一方で、人気は必ずしも高くなかった。2013年から2025年までの北米市場における年間販売台数を見ても、2019年に2万7000台でピークを記録して以来、低迷を続けていた(図2)。

画像
図2:米国とカナダにおけるミラージュの年間販売台数の推移。2019年にピークを迎え、その後は低迷が続いた
Mitsubishi Mirage Sales Figuresを基に筆者作成)

 これが、米国市場で三菱自動車がミラージュを引退させた大きな要因だと見られる。

変化(2):売れなくなった「最大の理由」

 なおこうした不振は、ミラージュだけではない。日産のバーサ (1万7,190ドル)、韓国起亜のソウル(2万490ドル)、韓国ヒョンデのエランタ(2万2,125ドル)、トヨタのカローラ(2万2,325ドル)など、2万ドル前後のモデルは存在するものの、2025年1~8月だけで16万台以上を売り上げたカローラを除けば、販売規模は小さい。

 なぜミラージュは低価格で、性能もそこそこなのに売れないのだろうか。

 まず、大型のピックアップトラックやSUVと比較して、明らかに性能の限界があることが理由として挙げられる。さらに、潜在的な購買層に向けたPRが不足していたとも指摘される。業界筋は、「もし消費者がミラージュのことをもっとよく知っていれば、もう少し売れたかもしれない」と話している。

 だが売上が伸びなかった最大の理由は、「高級中古車の人気」にある。米市場調査会社S&Pグローバルによると、米国での自動車の平均使用年数は13年近く

 つまり、米経済専門局CNBCが2023年に指摘するように、ミラージュのような低価格で性能や外見は見栄えがしないモデルと、中古でも性能や外見が優るモデルを比較した場合に、中古車を選ぶ消費者が多いということだ。また、若年層や低所得層にとって高級中古車を求めることは、ある種の「プチぜいたく」になっていると指摘する研究もある。

 米ニューズウィーク誌によれば中古車の値段も大きく上昇しているが、中古車でもしっかり見極めれば、整備の行き届いた良い製品をお値打ち価格で入手することが可能だ。近年においては、「新車価格上昇」に加え、「保険料上昇」「修理代上昇」などによる「保有コスト上昇」も消費者の関心事となっている。

 こうした市場の傾向もあり、ミラージュはその価格優位性や実用性にもかかわらず、中途半端な存在になってしまった。そのため、ミラージュは米市場から引退するのだ。

変化(3):ミラージュを「惜しむ声」が増えているワケ

 もう1つ、ミラージュにとって重要な変化が2025年に起こった。それが、トランプ政権が海外製の自動車に課す関税導入である。北米で販売されるミラージュはタイ製であるが、4月から27.5%の自動車関税がかかるようになった。これは7月に19%にまで下げられたが、4月以前の2.5%と比較してかなり高い。(なお現在在庫分のほとんどは、それ以前に米国に輸入されていたと思われる)

 これによりミラージュは、同価格帯で販売される米国製のカローラやエランタに対する価格優位性を失ったのである。

 米フォーブス誌によれば、米国で販売される最低価格帯の新車の92%が輸入品である。しかしトランプ関税により、これらのモデルはさらに魅力を失い、中古高級車にかなわなくなってゆくと思われる。

 こうした中、米国において三菱自動車はミラージュの在庫一掃に専念しており、一部の販売店でハッチバックタイプが保証付きで1万2,000ドル(約182万円)未満というお値打ち価格で売られている。これは、5年物のカローラやホンダ・シビックよりも安い。

 トランプ関税によって新車価格がじわじわと上昇し始めた今、ミラージュは真にお買い得になっていると言えよう。米メディアに、「実用本位で、クルマの購入を身近なものにした」(ファストカンパニー誌)など、ミラージュを惜しむ声が高まるのは、こうした「有終の美」の要因もあるのかも知れない。

 しかし、米国では安価な新車の不人気により販売が終了するものの、ミラージュは死んだわけではない。フィリピンにおいては、2026年型がモデルチェンジを行い、販売が継続されるという。

 まとめると、ミラージュは新車価格の高騰、節約志向の消費者が高級中古車を好む傾向、そしてトランプ関税により不利となったタイにおける生産などの理由で、米自動車市場から姿を消す。

 またそもそも低価格帯であるため、収益性が比較的低かったことも要因であろう。米市場では、安いクルマを求める人たちが、チープな新車ではなく高級な中古車を選ぶ流れが、当面変わらないだろう。だが、ミラージュはその中で大いに健闘したことだけは確かである。

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